MENU

南充浩 オフィシャルブログ

在庫処分が悪なのではなく「売れる商品」を用意できないことが悪

2018年11月26日 デザイナー 0

アパレル関係者が理想とするブランド再建の一例としては、2014年までのJクルーが挙げられるのではないかと思う。
・イシキタカイ系ストーリーの添付
・トレンドや商品デザインを重視
・品質向上による値上げ
・商品とストーリーの両面でのかっこよさの追求
ファッション業界人が泣いて喜びそうな施策が全部盛り込まれた結果、大復活を成し遂げた。2014年までは。
2014年までの復活劇はこのまとめ記事に書かれてあることが正しい。
日本から撤退して数年…「J.Crew」がアメリカで大復活を遂げていた
こういうときに「まとめ記事」は便利である。大まかなあらすじはすべて網羅してくれている。
ご一読いただければわかるが、日本のアパレル業界人なら目がハートマークになってしまうような施策がてんこ盛りである。
この施策は一面では正しい。衣料品を売っているのだから「かっこよさ」は必要である。しかし、かっこよさだけではビジネスとしては成り立たない。
2014年、順調だと思われていたJクルーが突如として巨額赤字を計上し始める。
国内に流れてくる記事ではその原因があまり詳細に述べられていないので、類推するしかないが、それまでに溜まりに溜まった不良在庫が原因ではないかと思われる。
これ以降、Jクルーはずっと巨額赤字を計上し続けている。
先のまとめ記事で持ち上げられていたジェナ・ライオンズもドレクスラーも退任してしまった。
そして、現在、再建策で内部は紛糾しているようで、
 

J.クルー グループ(J. CREW GROUP)の再建に取り組んでいたジム・ブレット(Jim Brett)最高経営責任者(CEO)が、2017年7月の就任から15カ月で退任した。同社は「取締役会と同氏の合意に基づくもの」だと発表したが、関係筋によれば、同氏は強制的に退任させられたという。

https://www.wwdjapan.com/742802
 
とのことで、経営が悪化すれば経営陣がいがみ合うのは古今東西を問わず人間の集団には当たり前に起きることである。経営が順調なときは不仲は覆い隠される。これは家庭生活も同じだろう。家計に余裕のあるときは不仲な夫婦でも表立ってはいがみ合わないが、収入が減少して家計がひっ迫すればたちどころに夫婦喧嘩が絶えなくなる。まあ、以前の当方の家庭もそうだったが。(笑)
 
ここまで経営が悪化したなら、再建策としてやるべきことはただ一つ。投げ売りによる在庫処分である。
「エコガー」の人々を無視するなら減損処理をして廃棄するか、である。
洋服の在庫は放置していても消えることはない。安くして投げ売りするか、減損処理をして廃棄するか、のどちらかしか処分する方法はない。
一旦在庫をゼロにして、身軽になってから、再スタートを切るというのが一番理にかなった方策ではないかと思う。
当方は、外国の雰囲気はわからないが、国内アパレル業界では日常的な安売り合戦に反比例する形で「安売りは悪だ」という考えが強固になりつつある。
たしかに「安売りは悪」だが、緊急的に在庫を処分する必要に迫られた場合、安売りするほか方法がない。
在庫を10年寝かせて置いたらいつの間にか消えているというなら話は別だ。しかし、そんな服はこの世に存在しない。
Jクルーを一時的に復活させたチームも同様の考え方だったのではないかと当方には思える。
 
 
現在、世界的にもっとも成功しているブランドはZARAだろう。さまざまなブランドのデザインをパクリまくって訴えられているという一点を除いては。
そういえば、先ごろZARAは「ザ・リラクス」のコートのデザインを丸パクリして訴えられて敗訴している。
日本発「ザ・リラクス」が巨大SPAブランド「ザラ」に勝訴 「ザラ」がコートの形態を模倣
これと同様のZARAに対する訴訟はいくつもある。
ZARAの極度の丸パクリ体質は置いておいて、成功している仕組みは
 
・1店舗当たりの配布枚数が少なく売り切れ御免であること
・それでも何枚か発生する売れ残りは値下げして売り切ること
・売れる商品、売れやすい商品を企画製造することを心掛けていること
 
などだろうと思う。
これを実現するために物流システムだとか在庫管理システムだとかが整備されている。
半額とかそれ以下に値下げしてでも売れ残り品は処分してしまい、その後で「売れる商品」「売りやすい商品」を企画製造して投入するという姿勢が世界的に評価されているといえる。
ZARAは売れ残り品は値下げ販売するが、それによってブランド価値は損なわれていない。
となると、くどい様だがZARAの丸パクリ体質は置いておいて、見習うべきはZARAの仕組みだろう。
 
1、売り切れ御免
2、売れ残りは投げ売りしてでも売り切る
3、在庫をゼロにして「売れる商品」「売れやすい商品」を企画製造する
 
この3点である。
Jクルーの以前の再建チームも、現在の国内アパレル業界人も「2」を極度に嫌がる傾向が強い。その結果、不良在庫を抱えて、何年か後に溜まりに溜まった不良在庫爆弾が炸裂する。
「安売りは絶対悪」ではなく、必要悪程度に考えるべきで、本当に悪なのは、在庫を処分した後に「売れる商品」「売りやすい商品」を企画製造できない、仕入れることができないブランド側・ショップ側の姿勢と能力である。
 
そして「売れる商品」「売りやすい商品」を企画製造、仕入れるためには、productを勉強しなくてはならないし、価格、販路、プロモーションの4P すべてが必要になる。
数人で運営されて売上高2億円程度のブランドなら安売りを避けて徹底的な高級化とイシキタカイ化に特化しても運営は可能だろうが、売上高10億円以上になると、それだけでは絶対に立ち行かない。ZARAのようなメカニズムが必要になる。
数人レベルの極小ブランドと、中規模以上のブランドとを混同してしまっているアパレル業界人はかなり多いのではないかと思う。それが現在のアパレル不況を招いているといえる。
 

NOTEの有料記事もよろしくです
【有料記事】地方百貨店を再生したいなら「ファッション」を捨てよ
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n56ba091fab93
2016年に行ってお蔵入りした三越伊勢丹HDの大西洋・前社長のインタビューも一部に流用しています

 
メガネスーパーを再建した星崎社長の本をどうぞ~ そのうちに書評をこのブログで書く予定

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ