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南充浩 オフィシャルブログ

product以外の「3つのP」を考えないブランドは絶対に売れない

2018年11月12日 産地 0

マーケティングの初歩に4P戦略というものがある。
product(製品)
price(価格)
place(販路)
promotion(販促)
である。たぶん、アパレル業界の多くの方はご存知だろうと思う。
それぞれの項目について考えて分析することも重要だが、実はこの4つがすべてそろっていないと物は売れないのではないかと思う。
4つの要素をそろえることが肝要なのではないだろうか。
何を当たり前のことを、と言われるかもしれないが、当方がこれまで見てきて、売れなかったアパレルやブランドの多くはこの4つのうち1つにしか注意を払っていないことが多かった。
例えば、モノヅクリガーと叫んでいるアパレルやブランド、製造加工業はproductしか見ていないことがほとんどである。
ミクロの部分の製品作りにこだわって、それを追求することに心血を注いでいる。
細部に神は宿るというから、その姿勢は決して間違いではない。しかし往々にしてあるのは、「〇〇織りをナンタラ加工した極上品だから売れても当然」とか「〇〇縫いの手間暇をかけたナンタラだから売れないのはおかしい」とかそういうことばかりである。
〇〇織りとかナンタラ加工とかそれがあるからどうだというのだろう。
もちろん品質の高さはわかるが、それだけでは物が売れない。現に売れてないのは、それだけでは消費者は買わないからである。
ほかの3つのPが欠けているのではないか。
だいたい、西脇産地のシャツ生地は有名だが、アダストリアのブランドだって使っていて、POPでアピールしている。当然、その中にも各種グレードがあって価格の高低があることは承知しているが、単に西脇産地のシャツ生地だけのアピールなら、消費者にとっては「アダストリアも使ってるあれね」ということになってしまう。お分かりだろうか。
ユニクロのフリースブームのころの大手アパレルはpriceにしか目が行っていなかった。とりあえず安ければ売れるだろうという姿勢しかなかった。productとかpromotionは置き去りだったし、place(販路)のことは考えていなかった。だから百貨店で2900円のフリースを売ったりしたのである。
2009年のころも同じだ。ジーユーが990円ジーンズを発表すれば、大手スーパー各社はこぞって1000円未満のジーンズを発売した。旧ジーンズメイトも同じだ。当時、岡山や福山を回ってごっそり超低価格ジーンズを仕入れてきて1900円くらいにして販売していた。しかし、どれもヒットせず今は継続していない。一方、ジーユーの処世は上手く、それで知名度を高めておきながら、今は990円ジーンズなんてまったく販売していない。売れ残り在庫品が990円に値下がりするくらいで、ジーユーのジーンズの中心価格は1990円である。
ジーユーはpriceだけでなく、promotionも考慮していたということであり、priceのみに目を奪われた企業との大きな差だといえる。
一方、業界の人はいまだに「良い物は高い」とか言っているが、それもpriceのみに目を奪われているのではないかと思う。
先日、「100円の爪切りを買ったらすぐに使えなくなった。だから良い物は高い」と嘆いている人がいたが、100円の爪切りが粗悪なのはわかるが、高いというのはどれくらいの価格を指しているのだろう。
Amazonで爪切りを検索するとお勧め品はだいたい1000円だ。
980円とか950円とか1000円の爪切りを買えばどうだろうか。ちなみに当方は25年間爪切りなんて買ったことがないが、当時買ったのは恐らく1000円くらいだったはずで、今でも何不自由なく使えている。
1000円の爪切りなら少なくとも20年以上は使える。そしてその1000円が高いと思うか安いと思うかだが、当方は1000円ならそんなに高くないと思う。
一方、爪切りでも匠のなんたらとかナンタラ産地のなんとかとかで、5000円、7000円、1万円する物もある。多くの製造業者はこういう商品を作ってバンバン売れるようになることを理想としているのではないかと個人的には感じる。
しかし、1万円の爪切りなんて、いくら物が良かろうが普通に並べていただけでは絶対に売れない。1000円の爪切りを25年間使った方が良いと考える人間は当方も含めて多い。
1万円の爪切りが売りたければ、placeとpromotionが必要だが、モノヅクリガーの人々やモノヅクリガー礼賛の人々はその部分をまったく工夫することなく、挙句の果てに「消費者の感性が退化した」と他責を繰り返している。
1万円の爪切りなんてよほどの「何か」がないと普通は買わない。現に自分が消費者になった場合はどうか?1万円のボールペンをためらいもなく買うのだろうか、1万円の靴下を躊躇なく買うのだろうか。
個人的経験でいえば、そういう人も自分が消費者の立場になると「あれは高すぎる」とか「やっぱり安い方が買いやすい」とか言うので笑えてくる。
問題は100円の爪切りがあることではなく、1000円で25年使える爪切りが世の中には溢れているというところにある。そこに1万円の爪切りを持ってきて並べただけで「高い物はイイものだ」なんて言って買ってくれる人がどれほどいるのか。それを理解していない人が多すぎるのではないか。
逆にいうと、productに自信がある企業やブランドはplaceやpromotionにも同じくらいの熱量で取り組むことが求められる。そして自社売り上げ規模の設定である。
15万円の気仙沼ニッティングが年間1万枚とかは絶対に売れない。現にブランド名が確立された今でもそこまで売れていない(それができる製造体制でもない)。じゃあ、自社の価格ならどれくらい売れるのか・売りたいのかを考えるべきで、10万円のコートはカナダグース並みの意味不明のブランドブームでもない限りは大量には売れない。某国産の10万円のダウンだって製造キャパは年間8000枚程度しかない。
繰り返すが、今の世の中は25年間使える1000円の爪切りが溢れている。それをどう考えるのか。
そしてそういう「激安ではないがリーズナブルな代替品」はどんどん新規参入がある。ワークマンプラスだってその一つである。
product以外の3つのPにも目を向けない限りは、どんなにSNSで勇ましいことを書こうが、そんな物は永遠に売れない。
 

【告知】
11月24日に大阪でウェブコンテンツに関する有料トークショーを深地雅也氏と開催します。
https://eventon.jp/15080/

 

NOTEの有料記事もよろしくです
【有料記事】地方百貨店を再生したいなら「ファッション」を捨てよ
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n56ba091fab93
2016年に行ってお蔵入りした三越伊勢丹HDの大西洋・前社長のインタビューも一部に流用しています

 
これくらいの爪切りで何年間か使えるよ

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