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南充浩 オフィシャルブログ

ZARAのように期中企画を投入するには「販売期間」の設定と厳密な運用が必要

2018年10月25日 お買い得品 0

国内アパレルの多くや量販店(大型スーパー)の自社企画衣料品の多くは「欠品」を恐れて作りすぎていることは事実で、それが期末の大幅投げ売りセールにつながっている。
で、昨日のブログを書いたところ、マサ佐藤氏から「ちょっと抜けてる部分があるぞ。ゴルァ」と怒りのクレームが来た(嘘:本当は丁寧にやんわりとご指摘いただいた)ので、補足してみたい。

欠品を追いかけないZARAの姿勢を国内アパレル業界は見習うべき


 
ここで引用した河合拓さんが示されているのはあくまでも「根本的考え」であり、それを実現するためにはさまざまな細かい部分を現場に落とし込まなくてはならない。
期中に作り足しをスムーズにして店頭に並べるためには物流システムの構築が不可欠だし、店舗内・ストックルームの設計にも工夫が必要になる。
このあたりの物流や店舗設計は当方はド素人だし、専門家があまたおられるのでそちらにお任せしたい。
「期中作り足し」をスムーズに行うにおいては、「各アイテムの販売期間の設定と厳密な運用」が必要になる。これを作らずして、期中作り足しをすれば、中途半端に売れ残った不良在庫が山積みとなりそれこそ投げ売りセールでもやらないと売りさばけなくなる。
マサ佐藤氏が恐れているのはそこである。
なぜなら、国内アパレルの多くは、各アイテムの販売期間をあまり決めていないし、決めているアパレルがあったとしても厳密な運用はしていない。
メンズの売り場を見たら、何となく半年以上も放置されたままのアイテムもある。とくにジーンズカジュアルチェーン店に多い。
明らかに「アイテムの販売期間」を決めていないか、決めていてもほとんど守られていないか、のどちらかである。もしくはその両方かもしれない。
そうなると、中途半端に売れ残った不良在庫がどんどん積み上がるのに、またどんどん新アイテムが店頭投入されてしまうことになる。
販売期間を設定し、厳密に運用しているのは国内においてはユニクロである。だから、「え?いきなりこんなに値下げするの?」というアイテムがある。また毎週金曜日から始まる「期間限定値下げ」には販売期間内に売り切るための調整という意味合いがある。
1、売れていないから期間限定値下げで販売枚数を増やす
2、設定した販売期間で売り切れるかどうかを試すために値下げする(消費者動向を見る)
3、集客の目玉として期間限定値下げする
という少なくとも3つの意味合いがある。単に不振品番を投げ売っているだけではない。
通常、メディアでは「定番品」と書かれることが多いユニクロだが、定番ジーンズにだって「年番号」と「季節番号」がある。例えば「2018年夏品番」とか「2018年秋品番」という具合にだ。
これによって管理しており、売れ残れば値下げして売り切るというシステムになっている。
そして、ZARAもこの「販売期間」の設定と運用が厳密である。厳密だからこそ「期中作り足し」が有効に生かされている。
もちろん、ユニクロの販売期間は長く、ZARAの販売期間は短い。その違いはあるが、現在のアパレル業界において二強と呼ばれる両ブランドは、販売期間の設定と厳密な運用については同じなのである。
販売期間の設定はアイテムごとに変えれば良い。
リーバイス501なら定番要素が強いから「半年」、半袖シャツなら季節要素が強いから「2か月」という具合だ。この程度の設定なら恐らくやっているアパレルやブランドもあるだろうが、問題は運用に厳密性を欠いていることである。
当方も売り場の経験があるが、当方が就職したイズミヤの子会社販売店チェーンは当時は「販売期間」は設けていなかった。もしかすると本部内では設けていたのかもしれないが、店長である当方には知らされなかった。だから、半年くらい延々と放置されるようなアイテムもあったし、ある日突然「返品指示」が来るアイテムもあった。これでは計画的な販売とか販売計画を売り場が立てられるはずもない。
その結果、小売店やファッション業界は「センス」「感覚」みたいなものだけで勝負せざるを得ないという認識が店員にも店長にも育つし、下手をすると本部までそういう考えになってしまって、バクチみたいな商品企画や仕入れがまかり通る。これが80年代・90年代・2000年代前半のアパレルであり、その悪癖は2018年の今でも少なからず残っている。
これが「アパレルは水商売」と呼ばれる原因といえる。
販売期間を決めたら厳密に運用し、生産のリードタイムとを照らし合わせて、間に合えば作ればいいし、間に合わなければ新しい商品を投入する。これが正しい商品計画である。
通常、洋服を生産して店頭に投入するまでには、早くても2週間~1か月はかかる。販売期間と照らし合わせてみて、販売期間が残り1か月あるなら2週間で作って補充追加すれば良いし、販売期間があと10日しかないならいくら売れ筋商品でも追加生産を諦めて新型アイテムを投入すべきである。
それを「今、超売れ筋だから販売期間に間に合わないけど追加しても売れるんじゃないか」なんて下手な色気を出して運用規則を破るから期末に不良在庫が蓄積してしまう。
バーゲンセールを抑制して利益率を向上させてもその2年後くらいにたまりにたまった不良在庫を投げ売って赤字転落するどこぞのチェーン店は恐らくそういう運用をしている。
ユニクロとZARAは現在のアパレル業界では勝ち組と目されている二強だが、多くのアパレルはその二強の商品価格や商品デザインのみを模倣しようとして失敗を繰り返している。しかし、真に模倣すべきは「商品の販売期間の設定とそれの厳密な運用」である。そこがわからない限りはアパレル業界は永遠に失敗し続けるだろう。
とはいえ、「販売期間の設定と厳密な運用」も大事だが、それ以前に「売れる商品企画」「売れる価格設定」も重要で、それが悪ければいくらオペレーションや計画を緻密にしても売れない。
それ以外にも前の部分で触れたが物流システムの構築も重要だし、店舗設計も重要。また販促や広報政策も重要だし、接客マニュアルの作り方も重要になる。
結局のところトータルに全段階を整備しないといけないということになる。問題はどこから手を付けてどの順番で改善して行くのかということになる。
 
 
蛇足だが、「売れる商品企画」と「売れる価格設定」について見てみると、先日、アダストリアの通販サイト「ドットエスティ」で5400円に値下がりした春物のチェック柄コートを買った。

 
 
少し高密度な薄手生地のコートだが、定価は9000円(税抜き)である。素材はポリエステル80%・レーヨン20%でちょっと高密度なシャツ生地という感じである。
正直なところデザインは良いとして、定価は高すぎないだろうか。当方は高すぎると感じる。それは他ブランドを見比べてである。5400円でさらに500円引きと300円分のポイントがあったから買ったが9000円のままなら買わなかった。
「商品デザインは〇、定価設定は×」というのが当方のこの商品に対する評価である。だから、秋になるまで売れ残っているのだろう。販売期間の設定云々の前段階で、この部分も精査しないと結局のところ不良在庫になるということで、アパレルビジネスというのは総合的に全ての段階が整備されないと物は売れないということである。
物のない時代なら「並べるだけ」で売れたが、成熟社会になって物が溢れるようになると総合的に整備されていないと物は売れない。国内アパレルの多くが苦しんでいるのはその部分を理解していないからではないかと思う。
 
マサ佐藤氏のウェブサイトがリニューアルオープンしたよ。今後はこちらでブログを重点的にアップするからぜひどうぞ。
http://msmd.jp/cms/

 
 
 
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良かったらご参加ください。

 

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地方百貨店を再生したいなら「ファッション」を捨てよ
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n56ba091fab93
2016年に行ってお蔵入りした三越伊勢丹HDの大西洋・前社長のインタビューも一部に流用しています

 
パターン(型紙)云々は別として参考になる二強の話

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