今回もそうだが、第一織物の吉岡社長の記事はいつも製造業にとって良いサジェスチョンを与えておられると思う。


高級ブランドが頼る繊維の匠「第一織物」の正体
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/278209/080400148/

まあ、タイトルは陳腐だし、個人的には「匠」という形容詞が嫌いだ。
「美人すぎる〇〇」と同じくらいありふれた形容詞だと思う。

メディアの報道が正しいとするなら、日本は今頃美人であふれかえっているし、匠であふれかえっている。
しかし、現実には、美人は数少ないし、匠もそれほどたくさんいるわけではない。

第一織物は福井の合繊織布工場である。
合繊関係の工場は、合成繊維自体が大量に製造されるため、基本的には低工賃での大量生産が前提となっていることが多い。

そのため、どうしても大量に使用してくれるブランドと薄利多売で取引をすることが多かった。

自動車や機械などへの産業資材供給だったり、大手スポーツメーカーだったり、そういう取り組みが多かったし、今でも多い。

少し前だとユニクロやニトリとの取引も多かった。
ケタ違いの生産数だからだ。

しかし、そんなときでも吉岡社長はメディアで「ユニクロやニトリがいくら美味しいからといって、そこに集中すれば、工賃や納期を相手側にコントロールされる危険があるし、契約がなくなったときには工場が立ちいかなくなる。もっと取引先を分散すべき」という趣旨のことを発言しておられた。

まさにその通りである。

今回の記事でも


「例えば、生地中の糸の密度が100本から101本に上がったことを優位性だと言うこと自体が愚かだ。機能性を打ち出していくような商品は、生産の速さから価格まで考えて、日本に残る道理はない」。

というコメントを出しておられる。

これもその通りで、「糸の密度を100本から101本に上げる」ことを競っている国内の繊維製造加工業者はいまだに珍しくない。

技術的にはその「1本を増やす」ことが難しいのかもしれないが、実際のところ、出来上がった生地、ひいてはその生地で作った服にどれほどの違いがあるのか、ブランドも実感できないし、消費者はもっと実感できない。

しかし、技術開発は必要だからそういう開発は地道に続ければよいと思うが、問題は、製造加工業者がそれをセールスポイントとして打ち出すことだ。打ち出すのは構わないが大抵の場合は、何の効果もない。

なぜなら、ブランド側はその効果が分からないからだ。
実際に工場側も効果が分からない場合もある。
もちろん消費者にも伝わらない。

これは無用のスペック自慢でしかない。

吉岡社長が記事でも語っておられるように、最新鋭の設備を備えた中国工場、これからはアセアン工場と高機能・高スペックさを競っても勝ち目は薄いのは事実といえる。

だから第一織物は、機能性の追求ではなく、感性の追求を続けたとのことだ。

「柔らかな手触りがほしい」「とにかく軽い質感がいい」といった高級ブランドの注文に対応できた第一織物は、ファッション向けの合繊生地の市場の拡大とともに急成長を続けている。


これはこれで一つの正解といえる。

しかし、外野から見ていると、この「感性の追求」というのも相当に難しい。
それこそ開発担当者、経営者などの「個人的能力」に頼る部分が相当に大きい。

いくら大事に丁寧に後継者を育成しても、それは数値化しにくいから、すべてを継承させることはできない。また、既存のものを継承させても、新しいものを作り出せるとは限らない。

機能性の追求もつねに他社との競争で、今現在の「世界一」とか「業界一」の高機能は必ず、いずれ追い抜かされる。
だから、機能開発をすることは悪くはないが、売り方として「世界一」「業界一」を謳うことは、そういう「競争」に巻き込まれてしまいやすくなり、厳しい状況に陥る。

第一織物のいう「感性の追求」も、個人的能力に負うところが大きいので、確実性はない。

繊維業界の国内の製造加工業者は、前者の機能開発競争・スペック競争を続けてきて疲弊している部分があるから、「感性」へシフトするということは正解の一つといえる。

しかし、感性を売り物にし始めると、それは個人的能力に負うところが増えるため、継承は不確実になる。

企業運営に「楽チン」な方法なんてないが、どちらを採るにせよ厳しいことには変わりがない。

そして、これは製造加工業者だけではなく、アパレルブランドにもいえることで、感性を売り物にしすぎると二代目・三代目でだいたい劣化する。
まあ、業界には「若社長はバカ社長」みたいなのは数多くいるが。

一方で、製造加工業者のオヤジみたいになって、「去年より重量を200グラム軽減できた」とか「去年より速乾性が5分早まった」とか、そういうことを盛んにアピールするブランドもある。
しかし、ガチのアスリートや登山家以外に、服が200グラム軽くなることに価値を見出す消費者がどこにいるだろうか?
乾くのが5分早くなることに価値を見出す消費者がどこにいるだろうか?
(ガチのアスリートや冒険家を除いて)

製造加工業もそうだが、アパレルブランドでも「高スペック競争」や「感性の追求」の罠にはまった企業は少なくない。
いかに繊維・ファッションビジネスの舵取りが難しいかがわかる。


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