先日、某カジュアルアパレルの知り合いからこんな話を聞いた。

ちょっとした案件があってそれに協力してもらえるかどうかを尋ねていたのだが、「実は先ごろ、大規模なリストラが行われて広報・プレス担当者が全員辞めてしまったため対応できにくい」という驚愕の事実を伝えられた。

何が驚愕かというと、案件に対応できないことではもちろんない。
このご時世において「リストラによって広報・プレス担当者が全員辞めた(実際は辞めさせた?)」という事態に対して驚愕したのである。

たしかにこのアパレルもその関連アパレルも非常な不振に陥っていると以前から耳にしていた。

退職者が相次いでおり、面識のあった人が何人も退職している。

今回のリストラはそれによるものであることは時系列的な状況から明白ではあるが、それにしても「広報・プレス担当者全員」を辞めさせるというのは正気の沙汰とは思えない。

なぜなら、広報・プレスをおろそかにして売れているブランドは現在、ほとんど存在しないからである。
いわゆる広告宣伝を行わずに業績を国内で伸長させているのはZARAくらいしかない。

逆に、雨後の筍のように毎年誕生する産地ファクトリー系ブランドや、大手アパレルからの独立組による新規アパレル企業は、「どのようにして広報活動を行って知名度を高めるか」ということをかなり熱心に考えているからだ。

このアパレルは本当に21世紀に存在する企業なのかと疑ってしまう。

ZARAほどの世界的規模を持ち、知名度があるブランドならなるほどそれもけっこうだが、そうではないなら、広報活動は必須である。(広告は必要ないかもしれないが)

知られていないのは存在しないのも同然なのだから、不振に陥っているブランドこそ、如何に多くの人に知ってもらうか、注目してもらうかがカギである。
これができないと、残念ながら不振ブランドが業績を回復することはありえない。

繊維・アパレル業界で「物作り系」と分類される人たちの中にはいまだに「良い物を作っていれば必ず売れる・認められる」と頑なに信じている人がいるが、その存在を知られないことには売れもしないし、認められもしない。

なぜなら、多くの人はそういう商品・ブランドがあることすら知らないから。

良い物を作っているならそれをいかに多くの人に知ってもらうかがポイントとなる。

このアパレルは製造加工場と密接な関係があり、「物作り系」に広い意味では属する。
それだけに、「良い物を作っていれば必ず~」というタイプと近しい人が多数いると考えられる。

それにしても恐ろしいばかりの時代錯誤な認識である。

今後どのようにして業績を回復させるつもりなのだろうか。
製造した商品を大手に多数納品することを考えているのだろうか。

そんな大口の取引先なんて現在の国内では数えるほどしかない。
これまでの好調時でもそういう先が開拓できなかったのに、不振に陥っている状態で開拓できる可能性はほとんどゼロに近い。

不振ブランドをわざわざ仕入れたいと思うような小売店は存在しない。

製造加工業に近しい経営者は「広報・宣伝・販促は単なる金食い虫にすぎない」と考える傾向が強い。
たしかに近視眼的に見るなら、広報や販促は金を使うだけの部署であるといえる。

しかし、それによって、商品が売れるようになるのだから、本来はその考えは間違っているのである。
広報・プレス活動は方法を吟味精査する必要はあるが、決して不要な部署ではない。

元々そういう部署がなかった状態を続けるならまだしも、そういう部署があったのに全員をリストラしてしまうというのは21世紀のアパレル企業とは思えない施策だといえる。

残念ながら、今後ますますこのアパレルの知名度は低くなり、結局は消費者に「存在しない物」として扱われるようになってしまうだろう。




戦略思考の広報マネジメント
企業広報戦略研究所
日経BPコンサルティング
2016-10-20