46歳の初老にもなると、若い人と接触するとジェネレーションギャップに驚くことがある。
ついこの前までは、こちらがジェネレーションギャップに驚かれる側だったのだが、いよいよジェネレーションギャップに驚く側に回ってしまった。
人生も残り時間がそんなになくなってきたことを痛感するし、もう少ししたら老害と呼ばれ始めそうである。

「若き老害」をキャッチフレーズにしている方もおられるが、こちらは「文字通り老害」と相成りそうな気配である。

今年9月下旬からファッション専門学校に週1度講義に行くようになった。
来年1月末までの下半期の非常勤講師というやつである。

生徒の年齢は18~23歳くらいまでの若い人ばかりである。

ふとしたことで「イネドというブランドを知っているか?」と尋ねたところ、10人くらいの生徒全員が「知りません」と答えた。もちろん、イネドを展開しているフランドルという会社の名前も知らない。

もう一発「コムサ・デ・モードというブランドを知っているか?」と尋ねるとこれも全員が「知りません」と答えた。
当然、ファイブフォックスという社名も知らない。

しかし「コム・デ・ギャルソン」は知っており、「よく似たブランド名ですね」と彼らは答えた。
似ているのは当然で、ファイブフォックスがわざと似せたブランド名を付けたからである。

1年くらい前だろうか、繊研新聞に「今のファッション専門学校生は東京コレクション出展ブランドを知らない」という記事が掲載されたが、まあ、それと同じような事柄である。

で、この2つの事象に対して、意見は二つに分かれる。

1、ファッション専門学校生にすら知られていないということは一般人にはさらに知られていないから、それらのブランドや企業の行く末は暗い

2、そんなことも知らないファッション専門学校生はダメだ

という二つである。

個人的には1の立場だが、2の意見もわからないではない。

東京コレクションブランドを知らないというのは、少し怠慢ではないかと思う。
なぜなら、ウェブニュースであるファッションスナップドットコムもWWDも連日、東京コレクション出展ブランドの報道を挙げている。
個人的にはあまり興味がないからほとんど飛ばし読みしているが、ファッション系ニュースサイトをこまめにチェックしていればだいたいのブランド名くらいは覚える。

ただ、若い人が独立系デザイナーに興味を持たないことを責める気にはならない。
もし魅力ある職業なら、オッサン連中がとやかく言う前に自らデザイナーズブランドを調べているだろう。
そうでないということは、それだけ魅力がない職業だといえる。

しかし、イネド&フランドル、コムサ&ファイブフォックスを知らないということを専門学校生の怠慢だというのは、業界人の思い上がりではないかと思う。

なぜなら、これらのブランドはウェブメディアはもちろんのこと、業界紙でも経済誌でもほとんど報道されないからだ。おまけに近年のショッピングセンターやファッションビル、百貨店への出店はほとんどないに等しい。
売れ行きも苦戦傾向が続いている。

これではいくら熱心だったとしても学生がそれらの名前を目にする機会はほとんどない。
報道でこれらを知ることは事実上不可能だし、店舗リサーチで知ることもかなり難しい。
フランドルやファイブフォックスに対して予備知識を持っていないと、それらを追跡することもできない。これらのブランドが存在感を消してからすでに10年くらい経っており、現在20歳前後の若者が予備知識を持っている方がおかしい。10歳当時からフランドルやファイブフォックスの動向を気にし続けるなんてそんな薄気味悪い子供は見たことがない。

はっきりと言ってしまえば、この2社の知名度が低いのは露出不足であり、自己発信不足である。
それが最大の原因だ。

90年代後半に隆盛を極めた大手アパレル各社の中で、この2社は現在もっとも若者に対する知名度が低いといえるが、それ以外の大手も似たり寄ったりでそれほど大差がない。

知人のウェブ業者はオンワード樫山のあるブランドの仕事を請け負ったことがあるが、そのブランド名はもちろん、オンワード樫山という社名すら10代・20代の若い世代にはあまり知られていなかったことに衝撃を受けていたが、その理由は露出不足・自己発信不足だった。

ちなみにイトキンについては、生徒たちは「名前を聞いたことがある程度」と答えており、ちょっと「幻の動物」っぽい扱いだった。
これも理由は同じである。

大手各社からすれば「我々は10代・20代をターゲットとしていなから構わない」と答えるかもしれない。
しかし、上でも書いたようにファッションに多少なりとも興味のある専門学校生でこのレベルなら、一般消費者にはさらに知られていないと考えるべきである。

現在は30代半ば~60代前半くらいの顧客層に支えられて何とかなっているかもしれないが、これほどに知名度がないということは、現在の顧客層の下の層での顧客開拓はかなり難しくなっているということである。
そして、10年後、20年後に、今の若者が30代・40代になったときには、今の大手各社の商品やブランドは選ばれなくなっているということである。

まったく知名度がないブランドを、いきなり30代・40代になったからといって買い始めるわけがない。

ちなみに彼らはラグジュアリーブランドはだいたい知っているし、セオリーは知っている。
今の低価格SPAも知っているし、リーバイスやエドウインのブランド名は知っている。
マッシュスタイルラボやバロック、マークスタイラー、ストライプインターなどは知っている。

となると、これらのブランドは10年後・20年後もある程度選ばれ続けるという可能性があるということで、大手各社はもう少し危機感を持つべきだろう。

何度も書いているが「知られていないのは存在しないのと同じ」である。

かつて隆盛を誇った大手百貨店アパレルのほとんどは、若者にとっては「存在していない」のである。

これは推測だが、メルローズやビギなどもおそらくほとんど知られていないのではないか。次回尋ねてみたい。
メルローズやビギも極めてメディアへの露出、自己発信が少ない企業だからだ。
最近の筆者自身もときどきその存在を忘れている。

ウェブによる自己発信にはリスクはあるが、ゼロリスクを志向してそれを避けていると、これほどまでに知名度を失うという好例だといえる。
仕入れでも製造でも自己発信でもリスクを取らない企業は今後、確実に淘汰される。
世の中にゼロリスクは存在しない。