利用者の立場から、洋服に対する考え方はいくつかある。

1つは、「物の良し悪しを理解するためにもできるだけ高級な服を着よう」という考え方

もう1つは、「懐具合に合わせて買う。ただし、品質やデザインにはある程度気を付ける」という考え方

である。

筆者はむろん後者である。
この2つの考え方は絶対に交わらない。
筆者からすれば前者は「こだわりバカの呪文」か「金持ちの寝言か」くらいにしか思えない。

一概に前者が間違いだとは思わないが、その論法は今は通用しにくくなっているとも思う。
20年前までならイズミヤの平場に並んでいる美濃屋や水甚のトレーナーと、百貨店やファッションビルに入っているブランドのトレーナーは圧倒的に商品そのものが異なっていた。

素材や縫製仕様もさることながら、デザイン、色・柄そのものが圧倒的に違っていた。
Tシャツやトレーナーの前身ごろに入るプリントのグラフィックすらまるで違っていた。

当時、ユニクロはまだ台頭していなかったし、ユニクロの商品の見た目がマシになるのは2000年以降になる。
無印良品はすでに人気を博していたが、やっぱりそういうブランドとは見た目が少し違っていて、代用品には使いにくかった。

これが2000年以前のこと。

2005年以降は、低価格ブランド、量販ブランドと百貨店・ファッションビルブランドの商品の差がなくなっていく。
理由は何度も書いているが、低価格ブランド商品の見た目が向上したことと、百貨店・ファッションビルブランドの物作りが低下したことである。
百貨店・ファッションビルブランドの商品は見た目もクオリティも露骨に2005年ごろから低下し始めた。

2016年現在では、両者はほぼ同じように見える。
見た目もクオリティもほぼ変わらない。

低価格ブランド商品の見た目が向上した理由は何度も書いているが、百貨店ブランドやファッションビルブランドが人件費削減の名のもとに企画担当者やデザイナー、パタンナーを大量解雇し続けたからだ。
解雇された彼らも食わねばならないから、当然新しい仕事を探す。

低価格ブランドに入社した人もいるし、OEM/ODM企画会社を起こした人もいる。
それによって百貨店ブランド・ファッションビルブランドの商品デザインノウハウと製造ルートが、業界全体に広まることになった。
これで商品の見た目はほぼ同一になった。

品質面でも2000年以降、百貨店ブランド・ファッションビルブランドは低下し続ける。
主にはバブル崩壊による消費不振による売上高減少とそれに伴う利益低下が原因である。
それによって、コスト削減がさらに強まり原価率が低下しているのだがそんなことは消費者には関係ない。
通常、業界の平均的な原価率は30%とされているが、百貨店・ファッションビルブランドでは25%、20%にまで低下しているブランドも珍しくないし、某百貨店・専門店ブランドでは18%にまで下がっているともいわれている。

一方、低価格ブランドの原価率はそれほど下がっていない。
元から低価格なのでそれ以上に下げようがないというのが実態だろうが、品質面でも差が縮んでしまった。

こうなると、無理をして百貨店ブランド・ファッションビルブランドを買う理由がない。
だから筆者は金もないし、低価格ブランドを買うのである。

今、確実に低価格ブランドと差があるのは、いわゆるラグジュアリーブランドくらいだろう。
ラグジュアリーブランドを買うには恐ろしく莫大な金がいるから、貧乏人がそこまで無理をするのは逆に滑稽である。
それこそ今流行りのワークライフバランスが著しく崩れている。

それでも90年代後半とか2000年前半までは、そういうラグジュアリーブランドを無理してでも買うことがかっこいいという風潮があったから、売春までする輩が多数発生していた。
今ではそういう無理をした消費自体がかっこ悪いという認識が主流になっており、それは社会が成熟した証ともいえるのではないか。

今、「とりあえず無理をしてでも高級な服を買え」と主張する人は、こういう実態を知らないか、知っているが宗教にも似た頑なな信念を持っているか、金が余ってしょうがないか、のどれかだと思う。

先日、ドン小西氏の記事がウェブで掲載された。
個人的にはドン小西氏の見た目も、着ている服も好きではないが、この記事は割合に良いことを言っていると思う。

青紫のシャツに赤紫のネクタイを締めるようなセンスの人にファッションチェックなんかされたくない、と常々思っていたが、この記事は一読の価値があるのではないかと思う。

http://form.allabout.co.jp/series/28/269/

「まだ若くて収入も少ないから……」と言ってお洒落を諦めちゃダメ。「お金がない=ダサイ」ではないんだよ。Tシャツ一枚にしても、長さやシルエットやバランスをちょっと工夫するだけで全然見栄えも違ってくるんだから。

そもそもフランス人で「ルイ・ヴィトン」持っている人なんてなかなかいないよ。彼ら彼女らは、安い物にちょっとコサージュを着けてみたり、チェーンベルトを重ねてみたり……と、実に上手にお洒落を楽しんでいる。

逆に、高い金出して高級なブランド品に振りまわされながら、なんの工夫もしないのが日本人。モテるための策もロクに労せず、ただ大枚をはたいてプレゼントを買うしか能がないオッサンにはなりたくないだろ?

ファッションに無理は禁物! 分相応に年収内で最大限の工夫をすればいい。

とのことであり、
消費者視点からすれば、やたらと高級品を買うことを勧めるポジショントークの業界人よりよほど健全な思考だといえる。

今、ナショナルブランドも伸び悩んでおり、低価格ブランドとのコラボやダブルネームが増えている。
低価格ブランドからそういう物を上手に選べばかなりオシャレなコーディネイトができる。
その選択眼を養った人こそが本当のファッショニスタではないかと、常々思っている。