先日、経産省からアパレル業界に苦言が呈されたという記事が掲載された。

アパレル業界の不合理な商慣習、改善を…経産省
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20160617-OYT1T50027.html

多くのアパレル企業が無難な「流行」の衣料品を出して供給過剰となっており、「バーゲンで価格を下げて販売されることが常態」となっていると指摘。コスト削減のしわ寄せが設備投資や人材育成の停滞につながり、商品の陳腐化と消費者離れという「悪循環」に陥っていると分析する。

百貨店とアパレル企業の間で一般的に行われている委託販売を「小売り側が売れ残りのリスクを負わず、過剰な注文・在庫が生じやすい」要因とし、アパレル企業の直接販売などへの見直しも促す。縫製などを行う製造業者に発注した商品を引き取らない商慣習が一部残っていることも問題視し、製造業者の経営を衰弱させているとして是正を求める。

とのことであり、この指摘は業界関係者なら誰しもが感じていた不合理さを指摘したといえる。

この記事の元になったレポートはこれである。

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/seizou/apparel_supply/report_001.html

・アパレル・サプライチェーン研究会報告書

・将来に向けた意欲的なチャレンジの事例

この2つのレポートである。両方とも20ページを優に超えるボリュームがある。
興味のある方はぜひ全文をお読みいただきたい。

一応、筆者も二つとも全文を読んだ。
問題点の指摘についてはその通りだと思う。
じゃあ改善策はどうするのか?という点がちょっと精神論・抽象論に終始しており、具体的ではないという印象を受けた。

アパレル業界が「無難」なトレンド品を打ち出し、供給過剰になって値崩れしていることに対して、その解決策を「クリエイティブな商品を強化する」とか「クリエイターを育成する」という内容を提言している。
このレポートを作成するにあたっては業界の識者と呼ばれる人たちを集めてなされており、そのメンバーは全文を読んだ後に列記されている。

で、彼らに問いたいのだが、「クリエイティブな商品」というのはどういう商品を指しているのだろうか?
他方で、「消費者ニーズを捕まえられていない」という指摘もあったが、「消費者ニーズを捕まえ」たのなら、トレンド商品が多く出てくるのは当たり前ではないか?

「クリエイティブな商品」という単語は一見すると、この業界の人間ならなんとなく言わんとすることは理解できるが、じゃあ、明確な定義とは何か?
100人いたら100通りの「クリエイティブな商品」に対するイメージがある。

パリコレのステージに登場するようなオブジェまがい・コスプレまがいの作品を「クリエイティブ」と考える人もいるし、古着をリメイクすることを「クリエイティブ」と考える人もいる。
また変質者一歩手前みたいなコーディネイトを「クリエイティブ」だと考える人もいるし、ベーシック・トラッドな装いに一味加えることを「クリエイティブ」だと考える人もいる。

この業界はこれまでさんざん「クリエイティブ」を重視してきているはずだ。
ファッション専門学校ではステージショー用に到底日常生活では着られないような「クリエイティブ」なデザインワークを生徒に教えてきている。

業界人の中には変質者一歩手前の「クリエイティブ」な着こなしを好む人が大勢いる。

それをいまさら「クリエイティブな商品の提案が必要」なんて言われても、これ以上変態を増やせということだろうか?

例えば、「バレンシアガ」というブランドの2017春夏コレクションの一つの画像だが、これを見てどう思われるか?

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筆者の感想は、ダボダボのコートがダサい(ビッグシルエットの表現だと知っているが)し、生足にロングブーツが変態っぽいし、モデルの顔つき・表情がちょっとアホっぽいと思う。なんかコートの前をガバっと開けて喜ぶ露出狂みたいに見える。

しかし、顔見知りの専門学校講師は「モデル選びも含めた素晴らしいルックだと思う」と感想を述べている。

「クリエイティブ」だとは思う。少なくとも「無難」ではない。
でもセンスが良いかどうかといわれると全くそうは思わない。しかしこれを「センスが良い」と感じる人もいる。
人間というのはここまで意見が異なるのである。
この意見が統一されることは絶対にない。

また「消費者ニーズを的確に捕まえよう」という提言も「その通りですね」としか返答のしようがない。
消費者ニーズの多くは「トレンド」の商品がほしいわけで、だからトレンド商品が盛り上がるのである。
価格帯は別としてガウチョパンツがジーユーで100万枚売れるのはそれがトレンド商品であり、多くの人がそれをほしいと感じたからだ。
1人が平均3枚買ったとして、少なくとも30万人はガウチョパンツがほしいと思ったということである。

30万人のガウチョパンツ市場があって、消費者ニーズを的確に捕まえたら、当然そこにガウチョパンツを投入する。「無難な」とあるが、無難ではない「変なアレンジ」を加えれば逆にまったく売れない可能性が高い。

ひざ下10センチくらいの丈が売れ筋だったとして、無難さを嫌って超ミニ丈(膝上15センチくらい)のガウチョパンツを作ったところでそんなものはほとんど売れない。

ファッションは個性で自由だという人がいるが、「あの人はオシャレ」「あの人はセンスが良い」と言われる人は多くの人からその着こなしが支持されている。
もちろん全員一致ではないが、まあ、少なくとも半数以上の人から支持される。
ということは、50%以上の人はほぼ同じ物を評価しているということになる。
じゃあ、その50%に向けて商品を投入するのは工業製品としては当たり前だろう。

物販をしていれば売れ残りが生じるのが当たり前で、値下げして販売するのはアパレル業界だけではない。
食料品だって家電だって売れ残りは値下げして販売される。
食料品は一部の特殊な製品を除いて腐敗するから、消費期限は短くなる。
スーパーマーケットでは毎日値下げ処分品が販売されている。

家電はもう少しスパンが長いが、多ければ年に何度か、少なければ何年かに一度モデルチェンジするから、その際、前の品番は値下げ処分販売される。

値下げ処分を避けたければ多品種小ロットで、売り切れ御免の企画製造販売体制を確立するしかない。
アパレル業界でいうとZARAやしまむらということになる。もしくはオーダーメイドかオートクチュールかである。
じゃあ、ZARAやしまむらが「個性的」で「クリエイティブな商品」を販売しているかというとそんなことはない。
「無難」なトレンド商品を売っている。
逆に「個性的」で「クリエイティブな商品」を販売していたとしたら、ニーズが少なすぎてそれこそ値下げ処分の投げ売り販売が増えただろう。

そんなわけで「クリエイティブな商品の強化」とか「ニーズを捕まえて」程度の提言では衣料品の値崩れはまったく止められないのではないかと思う。

後半部分の百貨店の「委託販売」、アパレルの製造・加工業者に対する商品未引き取り、不当返品、買い叩きが問題であるというのはその通りである。

百貨店は通常、商品を仕入れる際に買い取らずに、「委託販売」と呼ばれる消化仕入れの一種を行っている。これによって資本力のないブランドは百貨店に納品することができなくなっている。これについてはまた後日書いてみたい。

またアパレルによる、製造・加工業者への不当な扱いは今でも続いている。
その中身は、商品の未引き取り、不当返品、加工賃の買い叩き、不当な歩引き依頼などである。
アパレル企業だけではなく、SPA化した小売店も同様の仕打ちを製造・加工業者に行っている。
SPA化した小売店は正義の味方では決してない。

例えば、2008年とか2009年ごろに倒産したカジュアルメーカーの何社かは、SPA化した小売チェーン店による不当返品・商品の未引き取りが原因だったといわれている。

バブル期ごろまでは、アパレルメーカーが商品を企画・製造し、小売店へと卸ていたが、バブル崩壊後、アパレルメーカーも小売店もSPA化が進んだ。
今では有力ブランドのほとんどがSPAであるといっても言い過ぎではない。

そして、その商品の未引き取り、不当返品、買い叩き、不当歩引きはSPA化した今も平然と行われており、多くの製造・加工業者を苦しめている。
聞き知った範囲でいうと、これらをまったく行わないのは国内業者でいうと、ユニクロとしまむら、ジーンズメイト、イトーヨーカドーくらいである。

この部分を改善しないと、いくら「メイドインジャパン」だ「クールジャパン」だといってもまったく説得力はないし、国内の製造・加工業者を復活・育成するなんて掛け声だけで終わってしまう。

ところで先のレポートでは過剰に国内の製造・加工業者に対して「高品質」とか「高い技術力」と分析しているように感じられたが、その分析は現状とは異なるのではないかと思う。むしろ、高品質とか高い技術力で「メイドインジャパン」や「クールジャパン」を海外に売り込む姿勢は、もしかしたら却って日本製の衣料品の販売を妨げるかもしれないと思うが、これもまた後日に考えてみたい。