洋服の製造原価というのは、同一ブランドであってもアイテムによって異なる。
少し製造に携わったことのある人ならだれでも知っていることである。

例えばジーンズは原価率が32%になってしまったけど、Tシャツは25%で抑えられたとかそういうことである。
なぜそうなるかというと、それぞれのアイテムが使用する生地が異なれば当然生地値も異なる。
縫製工賃もアイテムによっても異なるし、工場によっても工賃は異なる。

例えばTシャツなら500円で縫えるが、ジーンズだと1500円くらいは最低でもする。
テイラードジャケットやコートとなるともっと縫製工賃は高いだろう。

縫製工賃や生地値が高くなったからといって、青天井に販売価格を上昇させるわけにはいかない。
そのブランド特有の価格帯がある。
ジーンズなら1万円~17000円くらいとか。
生地値が高くて縫製工賃も高くなったから、いつもうちのブランドは15000円でジーンズを販売しているけど、この品番だけは3万円で売ります。なんてことはなかなかできない。
そういうことをするブランドもあるが、ブランド側からするとその3万円のジーンズが自社の客層に受け入れられるかどうかは賭けである。
受け入れられて完売できるかもしれないが、まったく受け入れられずに大量に在庫を抱えるかもしれない。

だったら自社の利益を削って1万9990円で販売するという方針になる。
その方が幾分かは売り易い。
そうなるとこの1万9990円のジーンズは販売価格は高いが利益は薄く、原価率の高い商品になるというわけである。

低価格衣料品は当然ながら縫製工賃も生地値も安い。
販売価格が安いからだ。

これを指して「低価格衣料品が誰かを泣かせている」と指摘するイシキタカイ系の人がいる。
欧米のそういう類の人間とは付き合いがないが、日本人でならある。
彼らはほとんどの場合「ユニクロ」を槍玉に挙げる。

しかし、ユニクロの平均原価率は38%内外だといわれている。
アイテムによっては4割を越えているだろう。もちろん20%台のアイテムもある。

鎌倉シャツの原価率は60%だといわれている。

そういう「イシキタカイ系」の人は、「だから僕は低価格ではない大手セレクトショップでしか買いません」なんてことを平気でいうのだが、そういう大手セレクトショップこそユニクロや鎌倉シャツよりもよほど生産者を泣かせていることが多い。

以前、オリジナルでTシャツを作って販売したいという人が東北のTシャツ縫製工場に工賃を交渉しに行った。
その工場には某大手セレクトショップから「1枚200円でTシャツを縫ってくれ」という依頼があったが、工場側があほらしくて断ったそうだ。

この工場以外にも1枚200円でTシャツを縫ってくれと依頼された国内工場、1枚200円でTシャツを縫っていた国内工場は珍しくない。
もちろん発注主はそれ以外の大手セレクトや大手SPAの場合もある。

彼らのTシャツは安くても2900円、国内縫製ということになればもう少し値打ちこいて、3900~5900円くらいが店頭販売価格だろう。

Tシャツの生地値もピンキリだが、1メートル1000円の生地だとして、半袖なら用尺は70~80センチなので700~800円である。縫製工賃は200円で1000円。あと副資材やら雑費が上乗せされて1100~1200円というところだろう。

3900円なら原価率は30%を割り込む程度だが、5900円なら20%を割り込む。
そういう大手セレクトがTシャツに1メートル1000円もの高額な生地を使うことは考えにくい。生地値はもっと安いだろうから実際の原価はもっと低いはずである。

発展途上国の工場ならその工賃でも「平均所得」前後くらいにはなるかもしれないが、ここは日本国である。
日本国の物価水準からするとその工賃を得るために何日もミシンを踏むくらいなら、コンビニかどこかで3日ほどバイトをした方がよほど効率的である。

どちらが生産者を泣かせているのか。

イシキタカイ系の人たちはユニクロを指して「あんな値段で作れるはずがない」というが、100万枚作れば論理上は可能になる。
ならご自分たちでも借金でもして100万枚作ることに挑戦してみてはどうか?
自社製品の店頭販売価格はきっと今の製品の5分の1くらいにまで圧縮することができる。

ユニクロに限らず、H&Mでも協力工場が劣悪な環境で工員を働かせてることがときどき発覚する。
そういう奴隷労働はもちろんなくすべきだし、それのための監視ということは必要だが、一概に何もかも低価格品が悪というのは、返ってその発展途上国の軽工業育成を阻害することになる。

先日、フェイスブック上で先達が、「アースミュージック&エコロジー」が全品80%オフでさらにレジで20%オフという激烈投げ売りセールを行っていてタマゲタと書いておられた。
たしかに激烈である。

1万円の商品が2000円になり、さらに1600円になる。
5000円の商品ならわずか800円である。

さらに驚いたことに、「あのブランドは80%オフでも利益が出ます」と書いている人がおられたことだ。
これが事実だったとすると、一体製造原価はどれくらいかということになる。

仮にもしその指摘が事実だとすると、平均原価率38%を維持するユニクロよりもよほど生産者を泣かせていることになる。