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南充浩 オフィシャルブログ

15年前に戻すことは大変な労力が必要。その覚悟はある?

2012年8月1日 未分類 0

 子供服ブランド「ミキハウス」を展開する三起商行が昨年夏からバーゲンを止めている。
それなりに順調だと伝え聞いたが、これについて7月24日の繊研新聞に同社の木村皓一社長のコメントが掲載されている。

昨年の夏からバーゲンを中止した。「百貨店からはかなり反発を受けたが、結果は過去最高益を達成した。実績を作ればその後は何も言わなくなった」といい、今シーズンも前年比3%増で推移している。

とのことである。

これは注目すべき事例だし、今後の小売業のあり方についても一石を投じたと思うが、
有象無象のブランドが安易に追随するのは危険だと考えている。

なぜなら、「ミキハウス」は好き嫌いもあるが、30年以上にも渡って作られてきたブランドステイタスがある。
子供服の中では「高額品」というイメージが定着しており、それ故にセールなしでもそれなりの支持を集めることができる。
一時期経営が危ぶまれてファンドの介入を許したこともあったが、その状況においても贈り物用のギフト需要は好調だった。これも「高額品」のイメージが確立されていたためだろう。

子供服を贈り物に使う場合、出産祝いや誕生日プレゼントであることが多い。
その際に贈り主が重視することの一番は「ステイタス性のあるブランドかどうか」である。
「デザインや色柄」はその次に回される。

知り合いの出産祝いとして贈るのにわざわざ「低価格品として認知度の高いブランド」を選ぶ人は、相当少数派だろう。やはり、高額イメージのあるブランドを選ぶ。

それがミキハウスであり、ファミリアであり、ラルフ・ローレンであり、バーバリーである。

好き嫌いは別として「ミキハウス」にはそれだけのブランド力がある。

このブランド力を度外視して、安易に凡百のブランドが「セール廃止」の尻馬に乗れば、惨敗は目に見えている。
凡百のブランドの最大の売り物は「価格」であるからだ。
安売りをしない「安売りブランド」など何の存在価値もない。

木村社長のコメントは続く。
かつて年に4回以上コメントを聞いていた身としては何となく口調まで想像できる。

セール開始は8月1日が理想。
7月1日のスタートでは「夏物をプロパー(定価)で売る期間がなく、消費者も待ちの姿勢になる」ことを指摘する。セールには、売り場からの回収、値札の付け替え、販売員の増員など、かなりの経費がかかるもの。

とある。

仰っていることは正論である。

しかし、今の状況からセール時期を遅らせる、もしくはセールを止めることは大多数のブランドにとって不可能であろう。
消費者が「待ちの姿勢」になってから何年が経過しているかである。
すくなくとも7月1日前後に夏のバーゲンが開始されるようになって15年以上が経過している。
当時15歳の中学生は今では30歳であり、消費をけん引する世代となっている。
彼らが買い物を始めたころからすでにバーゲンは7月1日前後であり、それが当たり前のこととして認知されている。いわば生まれたころからそういう「空気」で生活してきた消費者にとって「以前のバーゲンは8月だったんだよ」と説得してみても、昔話を聞いているようで実感が湧かない。

今の高校生に「大正時代はこのあたりも畑ばかりだったんだよ」と説明してみても実感できないのと同じである。

今回の木村社長のコメントは一考の余地があるが、
「セール廃止」も「セール時期を8月に遅らせる」ことも、安易に追随しない方が身のためであろう。
15年かけて醸成した空気感を変えるのには、同じくらいの年月が必要であることも考えてみるべきだろう。

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