異業種のことだが、興味深い記事があったのでご紹介したい。

最高の酒に杜氏はいらない 「獺祭」支えるITの技
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昨今人気が高い日本酒「獺祭」の開発にまつわる経緯なのだが、獺祭の開発、仕込み、生産に杜氏が一切かかわっていないというのを恥ずかしながらこの記事で始めて知った。

獺祭を生産する旭酒造は山口県岩国市の過疎地に拠点を置く。
記事によると99年に新規事業を起こしたが失敗して、杜氏に逃げられた。
会社の経営が傾いたのだろう。杜氏だって生活があるから、経営危機に陥った会社と心中する必要はない。
経営の傾いた会社から去るのも当然である。

ここで会社側には三つの選択肢があったと思う。

1、それなりの資金を調達して(調達が難しいだろうが)他の杜氏(職人)を雇う
2、杜氏抜きで酒を造る
3、自己破産ないし廃業する

この三つである。

通常なら1を選択するケースが多いのではないかと考えられる。
繊維業界では1か3を選択するケースが多いように感じる。

ところが、この会社は2を選択した。

それ以前から、酒造りのノウハウが杜氏の頭の中にブラックボックス化されていることに疑問を抱いていた桜井社長は、ここで大胆な改革に踏み切る。


 象徴が検査室だ。酒造りの全行程で詳細なデータを取り、検査室のパソコンに蓄積して分析することで、酒造りの最適解を見つけ出してきた。日本酒は、米を麹で糖化させる工程などを経て「もろみ」にして、それを酵母で発酵させて造る。


とある。

その上で、

例えばもろみの発酵は、山なりの理想の発酵曲線(「BMD曲線」と呼び発酵日数と糖度などの関係を示す)に、可能な限り近づける必要がある。そのための微妙な温度管理や水の追加タイミングなどについてデータを活用して知見を積み上げた。

ともある。

何も勘と度胸だけで試験を繰り返していたわけではない。
理想の発酵曲線に近づけるようにさまざまな成分や温度などの要因を試して、最適と思われるものを選んだということである。

この方式で行くなら、今後も新しい味の研究・開発は杜氏抜きでも可能だと推測できる。

そのあと、

当初はデータ量も少なく、分かることは限られていたが、一番安価な獺祭は初年度から、杜氏の指揮下で造っていたときよりも品質が良くなったという。

とあるが、このあたりは味覚なんて人それぞれなので、本当に品質が良かったのかどうかはわからないが、少なくともそん色ない程度には仕上がったのではないかと考えられる。

昨今は、メイドインジャパンブームである。
手作業や職人仕事も見直されつつある。
また古くから現代に至るまで、日本は職人を一つの尊崇の対象としてきた。
これは酒造に限らず各分野に共通することである。

しかし、現在では職人のなり手が減少しており、その技術伝承が不安視されている。
職人になる人が少ないと嘆いているだけでは何の解決にもならない。
また、無理やりに若者を捕まえてきて「職人になれ」と強制することもできない。

例えば、ある程度はしっかりとした仕事のやりがいとか給与待遇とか福利厚生とか今後の成長性とかがなければ数多くの人材は集まらない。
「待遇は悪いけど日本古来の仕事だから、就職難で困っているなら我慢してやれ」というのもおかしな話である。

個人的には、この旭酒造のように、機械やコンピュータ制御に置き換えられるところは置き換えるというのも一つの解決策ではないかと考える。

もちろん、機械やコンピュータを管理するのは人間であり、旭酒造もその部分では人間を雇用している。
まるっきり自動操業ではない。
しかし、機械を管理する人間は杜氏ほどの職人性は要らないし、新人が入ってきても仕事を覚える期間は短くて済む。

これに対して味気ないという意見があるのはわかるが、こういう解決策もあるという事例としては認めるべきだろう。

ところで、記事の後半には


伝統の酒蔵では冬場にしか仕込みができないが、ここでは室温が一定に保たれ獺祭を1.8リットルの一升瓶換算で年間150万本も量産する。

とある。

杜氏抜きで作る技術を確立したことと同じくらいこの生産量にも驚かされる。
生産量そのものに驚いているのではなく、その量を販売できてしまう旭酒造の力にである。
150万本生産するということは、それを売り切る力がなくてはすぐに在庫過多に陥ってしまう。
卸売りするにしても直販するにしてもその販売力はすさまじいと感じる。

日本人は製造が大好きだから、ついつい製造に関してクローズアップしてしまう。
けれども工業製品は製造した限りは販売しなければならない。
作ってお終いなのは専門学校生までの話である。
そんな専門学校生レベルの認識で物作りを行う企業やデザイナーが多いから、その多くは苦戦しているといえる。

個人的には、今後は、旭酒造の販売についての分析記事を読んでみたいと思う。
いかにして販売力を手に入れたのか。どのような販売手法を採っているのか。
それは他の製造業者にとっても大いに参考になるものと思われる。