ファッション産業をマクロな視点で見ると、金融業とか不動産業と密接に結びついている。
東京や大阪都心にあるファッションの街も自然発生的にブランドショップが多数集まってきたわけではない。
きっかけを作ったショップの出店は偶然だったかもしれないが、それに続けて多数のショップが出店したのは不動産業や金融業の力がある。

大型商業施設にしてもそうだ。不動産業と金融業との兼ね合いである。
そこに出店しているブランドもそういう仕組みの中で動いているから、どの商業施設にも同じブランドが入店することになる。
個性的で面白いけれども経営規模の小さいショップなんていうのは資金的な問題から出店することは困難である。

そういえば「ルイ・ヴィトン」や「クリスチャン・ディオール」など多数の高級ブランドを抱えているMHLVのベルナール・アルノーCEOも不動産会社の出身だ。

どうやら日本の業界が特別というわけではなさそうだ。

そこそこ知名度がある割にはあまり売れ行きの芳しくないアパレルもある。しかし、何時まで経っても倒産する気配すらなく、運転資金は潤沢だという。そういう場合は、本業以外の不動産業や金融業で利益を確保している場合が多い。

一方、ミクロな視点で見ると、デザイン、縫製、織布、染色整理加工、洗い加工、精練、パターン、撚糸など物作りとしての工程が存在している。
逆にこの工程がなければ、店頭で販売する商品は出来上がらない。販売できる商品がないなら、彼らは純粋な金融業か不動産業へ転身するしかなくなる。

筆者は普段、ミクロな工程の人と接触することが多い。
産地製造業とか独自の小規模ブランドを展開するデザイナーなんてその最たる例だろう。
そんな彼らは、業界のマクロな仕組みをあまり理解していない場合が多い。
愚直に「良い物を作る」ことに集中している人々が多い。

でもこの枠組みをぼんやりとでも知らないと、いくら「良い物」を作っても売上にはそれほどつながらない。
傍から見ていると気の毒になるほどである。

だからと言って筆者はミクロな世界を不要とは思わない。
彼らがないと店頭で販売する商品は製造できない。
また、物作り以外でも日々の店頭での接客や販促告知活動がなければ、良い物も売れない。

反対に、金融業と不動産業について詳しい大手アパレル各社だって、立ち上げてみたのは良いけれど売れ行き不振で1年や2年で廃止になる短命ブランドも数多い。
今後も短命ブランドはどんどん生み出されるだろう。

鳴り物入りで立ち上がった大手企業の新ブランドが売れ行き不振のまま終わるのは、型紙も含めた商品のデザインが良くなかったり、店頭の接客が良くなかったり、販促活動がダメだったり、商品に使用している生地がチープ過ぎたりと、いろいろな要因がある。
店頭のディスプレイが悪い、年間を通じた商品政策(マーチャンダイジング)が良くない、などという要因もある。

だからファッション産業においてもミクロな世界は必要不可欠である。

けれども「物作り」や「店頭の接客」のみに没頭していては、規模の拡大は到底見込めない。
製造業、接客業の外側には金融業と不動産業によって動いている繊維・ファッション業界があるということをうっすらとでも認識することが必要ではないか。(もちろん、筆者も自戒を込めて)

それを認識しつつ、「物作り」や「販売」に集中することで、小規模企業は拡大のきっかけを手に入れることができるだろう。

筆者はできれば、こういうことはファッション専門学校なり、キャリアスクールなりで教育すべきだと思う。それによって初めて繊維・ファッション業界の人材の底上げが可能になるのではないか。
ファッションは夢があって楽しいけれどもそれだけではない。不動産王が築き上げたMHLVの現状がそれを証明しているように思えてならない。