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南充浩 オフィシャルブログ

カジュアル服の入社式は薄っぺらいパフォーマンスに過ぎない

2012年4月6日 未分類 0

 入社式・入学式の季節である。
その割には寒い日が続いているが、中には気の早い人もいて半袖姿の女性や、半ズボン姿の男性などもチラホラと見かけ、心中で「お前らどんだけ気が早いねん」と突っ込んでいる。

さて、高島屋がカジュアルな服装での入社式を行った。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120401-00000527-san-bus_all

高島屋は1日、2012年度グループ新入社員の入社式を都内で開催、79人が入社した。今年度は1831年(天保2年)の創業以来初めて、新入社員にスーツの着用を禁止するカジュアルなスタイルを採用。新入社員は春らしいピンク色のワンピースやジーンズなど、思い思いのファッションで式典に臨んだ。

入社式で実施する役員と新入社員とのディスカッションで率直な意見交換が行われるようにするのが目的で、鈴木弘治社長や役員もジャケットにノーネクタイなどの軽装で出席。ディスカッションで新入社員は海外事業や商品、イベント企画などについて積極的に意見を主張、疑問をぶつけたりしていた。

 式典冒頭のあいさつで鈴木社長は、直面する経営課題として国内百貨店市場が縮小していることに言及し、「新しい感性、若いエネルギーで古い習慣をぶっ壊してもらいたい」と呼びかけた。

とのことである。

筆者には、古い習慣をぶっ壊すことと入社式をカジュアル服にすることがイコールとは到底思えない。

ドレスコード云々は専門家に譲るとして、入社式はあくまでも「式典」なのであるから、スーツなり礼服なりを着用するのが適切だろう。
大学は一般的に制服がなく、学生は日常的にカジュアルな服装で研究・活動が行われるが、卒業式・入学式に出席する際にはスーツもしくは着物の礼装を着用する。
別に学生は誰に強制されたわけでもなく、ほぼ自発的に着用している。(親や親族からの強要はあるかもしれないが)
あくまでも「式典」なのでそれでなんら不都合はない。

入社式のカジュアル服化などマスコミ受けを狙った小手先の薄っぺらいパフォーマンスに過ぎない。

カジュアル化すべきは日常業務におけるスタッフの服装ではないか。
スーパークールビズ、ウォームビズが提唱奨励されているにも関わらず夏場でもネクタイを締めて上着を着込んだまま接客するスタイルをカジュアル化すべきであろう。
ネクタイを締めて上着を着込んだ暑苦しい服装の男に「スーパークールビズというスタイルは半袖のポロシャツとチノパンが一番ですよ」と薦められてもまったく説得力が無い。
そこまで適切だと思うなら「お前がまず着用しろよ」ということになる。
ウォームビズも同様である。

もしくは就職試験の受験時における学生の服装をカジュアル化すべきだろう。
これからともに働くことになるであろう学生の服装の嗜好を知ることは、まるっきり無意味ではないはずである。
とくに衣料品を扱う百貨店という業態ならなおさらだ。

さらに鈴木社長が本気で「古い習慣をぶっ壊したい」と考えておられるなら、服装云々の前に百貨店の旧弊である「消化仕入れ」を再考すべきであろう。
むしろこちらの方が急務である。

通常の小売り店は、メーカーや卸売業者から商品を仕入れ値で「買い取る」。これが原則である。
消費が伸びにくい時代であるから、全品買い取りは難しいとしてもメインは買い取りであらねばならない。

百貨店は「委託販売」と呼ばれる消化仕入れがほとんどである。
買い取りはゼロではないが、ほとんどない。
これは一旦、メーカーや卸売業者から「借りた」商品を売り場に並べ、売れた数量分だけのお金を支払うというやり方である。そして一定の販売期間が終われば残った商品はメーカーサイドに返品される。

これをやられると小規模なメーカーや卸売業者はたちどころに経営が悪化する。
8月末ごろに半袖Tシャツやタンクトップ、吸水速乾肌着などがどっさりと自社の倉庫に戻ってくるのである。
秋口に夏物を販売することはできない。
いや、やっても構わないがほとんど売れないだろう。

当然メーカーサイドとしては在庫の処分方法を考えねばならない。
来年春まで保管しておいて投げ売りするか、ゴミとして廃棄するか、闇のルートに転売してしまうか。

である。

だから百貨店と取り引きしたがる小規模メーカーやブランドは少なく、特定の大手アパレルみしか取り引きできない。必然的にどの百貨店も似たようなブランドのラインナップとなり、ブランドの誘致合戦にならざるを得ない。

本当に「古い習慣をぶっ壊したい」なら、ここにメスを入れずして、入社式にジーンズを着用したところで何の意味もない。
付け加えるなら「古い習慣をぶっ壊す」のは新入社員の仕事ではなく、現在の経営陣ならびに幹部の仕事である。自分たちが旧態依然としたまま、学生を卒業したばかりの新入社員に「古い習慣をぶっ壊」させるのは見当違いも甚だしい。

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