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南充浩 オフィシャルブログ

何事もライトな消費者層の獲得がカギ

2012年2月15日 未分類 0

 昨日、縁あって、着物業界の集まりに出席させていただいた。
「着物業界の現状はヤバイ。今後どのように新しいことに取り組むか」という危機感を持った主催者だったので、活発な議論が行われた。

発言は控えて各人のご意見を拝聴した。

着物の専門学校生が、「洋装にも和装にも使える外套(コート類)」を自主制作してプレゼンする時間があった。
サンプルを遠目から拝見すると、裏毛の変形版のようなニット素材に見えた。
いわゆる裏毛スエットの素材を肉厚にしたような感じである。

洋服関係者なら和歌山ニットか高野口のカットパイルかを想像するところだが、
おそらく、その辺りの手芸用品店で購入した切り売りの生地だと思われる。

で、質疑応答の時間があり、おもむろに業界関係者が口を開かれた。
「もし商品化するとしたら価格設定はいくらくらいを考えていますか?我々とすれば正絹を使用して、最低10万円くらいでないと厳しい」とおっしゃった。

門外漢である筆者は耳を疑った。
もちろん、この方の意見が業界の一般常識であることは理解している。
しかし、である。

外套(コート)で10万円というと、洋装ではかなりの高額品である。
「アクアスキュータム」のトレンチコートが19万円である。
知り合いの方が購入された2011秋冬の「バーバリー」のダウンコートが10万円強である。

ブランドステイタスの確立された「モンクレール」のダウンジャケットが10万円前後である。

洋装でいうと、10万円のコートというのは、モンクレールやバーバリー並みのブランドだ。
当然、洋装と和装を単純に比較することはナンセンスである。
洋装に比べて、販売枚数が少ないであろう和装が1枚当たりの単価が高くならざるを得ないことも理解している。

近年、和装の販売枚数は低下の一途をたどっている。
和装が販売枚数を増やすには、今まで和装を持っていなかった新しい客層を獲得する以外にない。
なぜなら、現在の和装は、和装マニアとでも言うべきコアな客層が毎年買い足して支えているのが実情だからである。

今まで和装を持っていなかった新しい客層を獲得するためには、当然、洋装との競争が求められる。
これまで洋装しか着用していない「新しい層」からすると、10万円という価格は「高く」感じる。
なぜなら、モンクレールやバーバリーが購入できるお値段であるからだ。
そして、和装に「モンクレール」や「バーバリー」ほどのブランドステイタスを見出す消費者が一体何人存在するのだろうか?
申し訳ないが筆者には、そう多くいるとは思えない。

例えば、アウトドアブランド各社がこの3年ほど好調なのは、
ライトな消費者層である「山ガール」を取り込んだことによるものであることは業界の常識とされている。
ライトな「山ガール」の中から、幾人かはヘビーデューティーへと移行する。
山ガール志望の消費者に、いきなり「エベレストに登れるくらいの装備」を提案するならその店は愚かである。

山ガールはファッションとしてアウトドアの雰囲気を楽しみたいのであって、だれも「エベレストは無理でもモンブランくらいは登りたい」などとは考えていない。

こういうライトな消費者層を広く浅く獲得することに対して抵抗感を持つ方も多いかもしれないが、広く浅く獲得していないと、マニアでコアでニッチな商品として認識されてしまう。

ジョギングがブームである。
走り込んだジョガーや、本格的なアスリートたちは「シューズはミズノかアシックス、ニューバランス」だという。
しかし、健康増進やダイエット目的に土日に数キロずつ走るような「素人ランナー」はナイキやアディダス、プーマ、リーボックなどのブランドを選ぶ。とくに初心者は顕著だ。

ナイキ、アディダスは「山ガール」的なライトな消費者層を広く取り込んでいる。
広く取り込むことで、スポーツ市場を拡大してきたともいえる。
反対にプロの評価が高いミズノやアシックスがライトな消費者層を取り込むことがあまり得意ではないように見える。これに成功していれば、ミズノやアシックスはもっと企業規模が大きくなったのではないだろうか。

筆者は着物業界が新しい客層を獲得するためにはプライスを下げることが不可欠だと考えている。
洋装のコートだと1万円以下は論外だとしても、2万~6万円くらいの中間価格帯を求めている消費者層も多い。
ライトな消費者を獲得するためには、和装もこの中間価格帯を発売する必要があるのではないかと思う。
もちろんコアな層にはこれまで通り「最低10万円」の商品を提供し続ければ良い。

もっと大胆に言えば、洋装用のウールや綿素材を使用して、5万円くらいの外套を発売すれば良いのである。

和装業界は、洋装のマーケティングやプロモーション、ブランディング、価格戦略をもっと積極的に導入した方が良いのではないかというのが、門外漢からの感想である。

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