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南充浩 オフィシャルブログ

スペックの積み上げはブランド化ではない

2012年2月14日 未分類 0

 繊維・アパレル業界において、物作り体質のブランドほど「付加価値」とは「機能」や「スペック」だと思い込んでいる節があるが、はっきり言って間違いである。
「機能」や「スペック」は「付加価値」の要素の一つにはなるが、「付加価値」そのものではない。

かつてワイシャツ専門アパレルが数多くあった。
もう何度も書いているが、大手のほとんどが倒産した。
トミヤアパレル、カネタ、信和シャツ、松屋シャツ。

CHOYAは経営が悪化して日清紡の子会社化されてしまった。
(ちなみに梅酒のチョーヤとは全然別物である)
ネクタイとシャツを企画製造していたアルプスカワムラは倒産した。

10年ほど前、正確には13年ほど前、ワイシャツ専業アパレルを担当したことがある。
その当時から今も残っているのは、山喜、フレックスジャパン、スキャッティオーク、もともと日清紡の子会社だったナイガイシャツくらいだろうか。
それと、「シャツ工房」という低価格SPAに業態転換した東京シャツ。

今をときめく「鎌倉シャツ」は当時創業されたばかりで、それほどの規模ではなかった。

現在「形態安定加工シャツ」という物が広く流通している。
アイロンをかける手間が省けて非常によろしい。( ̄ー ̄)ニヤリッ

業界でブームとなったのが、記憶によると90年代後半である。
現在だと綿100%素材で形態安定加工を施した商品もあるが、当時は綿・ポリエステル混素材が主流だ。

ただ、工業製品の悲しい性で、爆発的にブームとなったアイテムは、増産が繰り返され値崩れしていく。
シャツに限らず、液晶テレビもパソコンも携帯電話も同じである。

98年~99年ごろにはすでに形態安定加工シャツは値崩れしており、量販店で1900円~2900円で販売されていた。

シャツメーカー各社はここでどういう手を打ったかというと、加工を次々と「積み上げた」のである。
もともとは、形態安定加工のみだったが、次はそこに「吸水速乾」である。
その次は「防臭加工」、その次は「抗菌加工」、その次は・・・・・・というふうにである。
末期には、「UVカット」や「ビタミンC加工」などという、サラリーマンにとって本当に必要かどうかも怪しい機能性さえ付与されていた。

当時、取材した記憶によると、某メーカーの展示会では、形態安定加工から始まり7種類もの加工を施されたシャツが提案されていた。それでも店頭販売価格は2900~3900円程度である。

シャツメーカー各社は、値崩れを防ぐ方法として「機能性の積み上げ」を選んだ。

しかし、現在の店頭を見てもらえばわかるように、
7種類もの機能を付与されたシャツなど販売されていない。
形態安定は生き残っているが、それ以外だと防臭とか吸水速乾程度である。
UVカットとかビタミンC加工などは全滅している。

その挙句の果てが、シャツ専門アパレルの大量の倒産である。

「機能の積み上げ」「スペックの積み上げ」が「付加価値」にはならなかった典型例ではないのか。

いつも勉強させていただいている販促コンサルタントの藤村正宏さんのブログを引用したい。
http://ameblo.jp/ex-ma11091520sukotto/entry-11162587141.html

部屋のスペックをいくら言っても「ちがい」がわからん!

たとえば温泉旅館のホームページなんて、みんな同じです。
イメージだけの「フラッシュ(動画)」を使って部屋と料理と風呂を見せている。
カニとエビと伊勢海老の写真では、他の施設との、ちがいがわからないんですよ。

そんなホテルは選んでもらえません。
みんな横並びで、画一化していて、微差しかわからない。
画一化したマス的な旅館が、選ばれるわけがないのです。

そういうところは、旅行会社が送ってくれる、団体客を相手にしていくしかないのでしょう。
それはそれで、いいと思いますよ。
だってそういう旅館もなかったら困りますから。

とのことである。

部屋のスペック。例えば広さが何畳で、冷暖房完備で掘りごたつがあって、床暖房も付いていて、というようなスペック。さらに言えば、テーブルの材質が樹齢○○年の○○杉を使用とか、座イスは○○産地の○○職人が手作りで1ヶ月かけて削ったとか、そんなことである。
これらのことは、説明する価値のあるデータだが、それだけでは「付加価値」にはならない。

お客は樹齢○○年の○○杉を使ったテーブルがあるから旅館に宿泊するわけではない。
決定する一つの要素には成りえるが、それだけでは不十分なのである。

さて、この「部屋のスペック自慢」だが、以前のシャツメーカーの姿勢と似ていないだろうか?
そして現在の物作り系のアパレルの姿勢とも似ていないだろうか?
筆者はジーンズ専業アパレルやスポーツ専業アパレルが「部屋のスペック自慢」に終始している気がしてならない。

日本に○○台しかない織機で織ったとか、ミシンの縫い目のピッチが従来品よりも1ミリ細かいだとか、○○という超高機能素材を使用とか、そんなことだけでは消費者は動かない。
あえて、挑発的な言い方をしてみると、その企業でなくとも、他の企業がその織機を買って、ピッチの細かいミシンを買って、超高機能素材を使用すれば同じ物が出来上がるという理屈になる。(もちろん、工員の上手い下手はあるが、それすらも経験を積めばある程度カバーできる)

今の「スペック」や「機能」に依存している打ち出しだけでは、真に「ブランド化」しているとは言えない。

製造系のアパレル各社はもう一度ここをよく考えてもらいたい。

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