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南充浩 オフィシャルブログ

サトーカメラに見る中小企業のあり方

2011年11月24日 未分類 0

 昨今、小売店には様々な問題がある。
「価格競争」であったり「大型店に駆逐される中小型店」だったり、「販売の効率化」だったりする。

とくに「価格競争」は熾烈であり、とくにアパレル業界では圧倒的物量を誇り、品質もそれなりの高さを維持するユニクロにアパレル各社は引きずられっぱなしである。
しかし、それでは中小型店は大型店に勝てないのか?中小型店は滅び去るのみなのか?という疑問を持つのだが、そうではない事例が先日、インターネット記事で紹介された。

賢明なる方々は、もうとっくにご存知だと思うが、不幸にして目にしておられない方のために、このブログでもその記事を紹介したいと思う。

喧嘩上等のカメラ店が「ど素人」に教わった商売の極意
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/29764

本来であれば、この記事の全文をお読みいただくのがもっとも効果的だと思うが、長文なので筆者が「特に重要」と感じた場所を重点的に抜き出してご紹介したい。

これは栃木県の中型家電量販店「サトーカメラ」の実例である。
この店舗は、販売の効率化を捨て、超非効率な長時間接客を続けることで、増収増益を達成しつづけている。
商品は有名ブランドにこだわらず、スタッフが一つ一つ自分の目で選んだ商品を置く。それが例え無名ブランドであってもだ。
さらにポイントカード制を廃止することで、利益も確保することに成功している。

大型店の攻勢にあえぐ中小店の参考になる事例が満載されている。

以下に佐藤勝人社長のインタビューを引用する。

一言で言うと効率を求めない店。現場に徹底的に言い聞かせたのが、効率は考えなくていい、客が納得するまで話をしてやれということ。

以前は、接客は時間を区切ってやれとか言ってたんですよ。でも、そんなのもういい。もう座わらせろと。立ったままでお前の話なんて聞いていられない、おじさん、おばさんを座らせてじっくり話をしろと。

プリントするお客さんに対してもそう。日本のカメラ屋はどこも機械の前にお客さんを立たせて操作させるよね。でも我々の店は、ソファに座ってのんびりやってもらう。そして我々も一緒に座って、一緒に写真を選んであげる。超非効率でもかまわない。それは、お客さんの思い出をきれいに残すため。それが一番大切なことだから。

例えば、うちで、ある商品を初めて知ったお客さんは、他の大手量販店に値段を調べに行く。でも、7割の人は「やっぱりあんたのとこで買うわ」って、うちに戻ってくる。もしも他の店が安かったら「ここで買うから安くしてよ」って言ってくるし、「高くてもいいよ」って言う人もいる。そして8割のお客さんはリピーターになる。

以前はうちも「こんなに安いですよ。ポイントがこれだけ貯まりますよ」ってやってたんだけど、2年前にポイント還元制度もやめちゃった。

ポイントは結局、カネで釣るってことでしょ。我々は金で釣るんじゃなくて、思い出をきれいに残すための商品でお客さんに来てもらう。そうするとポイントをやめた段階で、一瞬、お客さんが離れるんだけれども、最後は戻ってくる。

とのことである。
文中によると、ポイント制度を止めたことで25%だった粗利益率が40%にまで上昇したという。
そして商品に関しては、

でも、テレビCMに乗る商品なんてごく一部だよ。それ以外が90%以上なんだ。我々はそれらの中から、操作のしやすさ、ホールディング、頑丈さ、レンズのコーティングなどを全部調べて、「思い出をきれいに残すためにはこれだよね」っていうカメラを探し出してくる。

お客さんは、広告で目にするカメラしか知らない。だから最初は、なんでそんなカメラを押しつけようとするんだって思うよね。

でも、調べていくと、実はすごくいいカメラだということが分かってくる。実際にお客さんが、本当にありがとうね、あんたのすすめてくれたカメラ、本当に良かったわあって言ってくるからね。今は、サトーカメラの方が全然ものが良くて安いじゃんと、みんな思ってくれている。

他の店もみんな真似して、うちで売っているのと同じ商品を仕入れて売ろうとするんだよ。でも、売れない。大手家電量販店では、誰もが知っている人気商品を置かないと売れない。だって、説明できる店員がいないんだから。結局、売れ残るよね。売れ残ったのはメーカーに返品されて、また、うちが安く買い取る。

スタッフの目で確かめた商品だけを仕入れて、それを丁寧に説明することでお客さんの信頼を得ている。
説明できる店員がいかに重要であるかがわかる。
以前に、アパレルで店頭販売員が重視されていないとのブログを書いたことが、まさにこれは、販売員の重要性を物語る証言である。
キチンと接客できて、商品知識のある販売員が説明すると売れ行きは大きく変わる。
しかし、そういう販売員を育てるには時間がかかるので、「効率重視」のアパレル各社の経営者の皆様方は、アルバイトに毛が生えた程度の販売員を「安く」雇用されるのである。
それから、経営者・店長の皆様方が考え違いをしておられるのは、「ゴリ押し」で販売する販売員を凄腕の販売員だと認識されている点である。
そんなものは「押し売り」や路上のキャッチセールス、風俗店の客引きとなんら変わらないにも関わらずだ。

普通の中小企業は、大企業や大手メーカーの話ばかり聞くじゃん。えらい人の話だけ聞いて、それに習おうとする。そして、どんどん敷居を上げていって、いつの間にかマニアばかり相手にするようになる。ターゲットを絞って高く売ることが「生き残る術」だっていうわけだ。
でも、我々は逆。ど素人のおばちゃん、ど素人の小学生から学ぶ。時にはおばちゃんから怒られるよ。あんた、分かってないわねえって。でも、ああ、なるほどなあって思うことがいっぱいある。我々はそうやって学んでいる。

これは我々にも当てはまることで、超大手企業や国際企業の経営者の話だけを聞いて、それに倣おうとする。
噴飯物なのが、わずか売上高20億円程度のアパレルの経営者が「ユニクロが○○したからうちも見習おう」とか「アメリカでは××だからうちも採り入れる」とか言い出すことである。
文面で書くとまるでコントのようだが、実際に取材に訪れると大真面目に現場で語られていることがある。
志が大きいことはけっこうだが、身の丈を考えて現場に採り入れるべきである。

カメラに詳しくて自分でなんでもできる人は、どこの店に行ったっていいんだよ。でも、カメラなんて全然分からなくて、使い方を知らない素人が世の中には8割も9割もいるわけだ。

この言葉はアパレルにも当てはまるのではないか。
その店なり企業が、1000人の客に年間1億円ほど売れれば良いと考えているなら、マニア客のみを相手にすれば良い。
そうではなくて、年間50億円や100億円を売上目標に掲げるなら「ド素人」も相手にしなくてはならない。それに「ジーンズマニア」の客は、ジーンズには詳しいがニットやウール製品に関しての知識は「ド素人」かもしれない。

「ド素人」にも分かりやすく販売しているのは、悔しいかなユニクロが一番なのである。
最近では「分かりやすくしすぎよう」として、逆に過剰気味のコピーライトも目にすることが増えているのだが。

接客はいつまで経っても終わることがなく、結局、店員は1時間半もの間、説明を続けていた。最後にその家族はカメラとカメラ用ショルダーバッグを購入して、満足げな顔をして帰っていった。

接客をしていた店員、副店長代理の中野裕章さんに聞いてみた。「いつもあんなに時間をかけて接客しているんですか。一体、何をそんなに長々と説明していたんですか」

中野さんの答えは以下のようなものだった。

「接客の時間はお客様によって様々です。先ほどのお客様は、他店のチラシをご覧になっていて、お買いになりたい商品の目星は付いていたんです。でも、一眼レフカメラはまったく使われたことがないというので、一眼レフの基礎から説明していました」

「買いたい商品が決まっているのなら、さっさとそれを売ればいいじゃないですか」

「そうはいきません。納得しないで買っていただくわけにはいきません。納得して買っていただいて、きちんと使いこなして満足していただかないと困ります」

一眼レフカメラの基礎知識だけではなく、家族の中で誰が使うのか、いつ、どんな場面で使うのかなどをヒアリングし、状況に応じた撮影の仕方も説明していたのだという。

これが真の接客ではないだろうか。
言葉づかいが丁寧だとか、お辞儀の角度が何度だとか、笑顔を作る時は歯を見せろだとか、そんなことは枝葉末節のどうでも良い話である。そんなことしかレクチャーできない自称コンサルタントになど習う必要はない。

中小企業が大手企業や国際企業の真似をしても仕方がないのである。資金力が違う、スタッフが違う、経営者の能力が違う。違うことを認めて、大手企業との差別化を果たすことが生き残りの近道であることを改めて認識させられた良記事だった。

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