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南充浩 オフィシャルブログ

カシヤマ・ザ・スマートテーラーの出張採寸を見学した話

2018年8月7日 トレンド 1

先日、カシヤマ・ザ・スマートテーラーの出張採寸を見学した。
オンワード樫山が開始した低価格パターンオーダースーツで、今は地域限定だが、採寸師が出張採寸してくれるというサービスだ。
いつもの深地雅也さんが予約をしたというので早速、見に行った。
その顛末はすでに深地さんがまとめている。よければご一読を。
KASHIYAMA the Smart Tailorの出張採寸が超便利な件
https://note.mu/fukaji/n/nf1604735f624
横で見学していた限りにおいては、通常のパターンオーダーの採寸と各種オプションで、極めて標準的なサービスに見えた。
当方も12年くらい前に一度、オンリーでパターンオーダースーツを作ってみたことがある。
また、先日は大手生地ブランドからの依頼で、東京と大阪のテーラーでパターンオーダースーツづくりの取材をした。
それらと比較してみても、まあ標準的なサービスだといえる。
ただ、パターンオーダーにつきものの基準となる「ゲージ服」の着用はなかった。
カシヤマのショップでなら「ゲージ服」を着用しての採寸もあるのではないかと思う。
価格はジャケットとパンツで
ウール50%・ポリエステル50%生地が3万円
ウール100%国産生地が4万円
インポート生地が5万円
となっている。
各種のオプションは
・袖口のボタンの数
・切羽にするかどうか
・裏地の色
・ベント(ノーベントかセンターベントかサイドベンツか)
・ジャケットの両脇のポケットの形
・胸ポケットの形
・パンツのタック(ノータックかワンタックかツータックか)
・ボタンの色と材質
くらいになる。
で、スーツはこれまであまり着たことがなかった深地さんを横で観察していたのだが、これらの各種オプションを選ぶのがちょっとめんどくさそうだったのが印象的だった。
スーツの好きな人、スーツに慣れている人なら、これらのオプションは標準的で、それを選ぶことが「楽しい」と感じる。
決してこのオプションは多すぎるとは思わない。
しかし、慣れない人にとっては、これらのオプションを選ぶことはけっこう面倒に感じる場合があるということを初めて知った。
もしかすると、スーツ慣れしていない人やスーツに詳しくない人に対しては、もっと提案機能を持たせた方が顧客満足度が高くなるのではないかと思った。
来店した客を「スーツ慣れした人」か「スーツ慣れしていない人」か見分けるのがなかなか難しいが、何らかの方法で見分けて、それによってスーツ慣れしていない客にはもっと積極的に提案した方が良いのかもしれない。
カシヤマの採寸師の方は、決して投げっぱなしというわけではなかったが、お客の要望に合わせるというスタンスだった。
当方ならそういうスタンスの接客で十分なのだが、慣れていない人にとっては、逆にそちらがサジェスチョンしてほしいと思うようだった。
それとその時に採寸師の方からいろいろとお聞きしたことが興味深かったのが、おもにこのパターンオーダー事業の業績に関することだった。
中国の大連にすでに専用の縫製工場を作っており、第二工場ももうすぐ稼働し、第三工場も建設することが決まっているという。
最近のOEM丸投げアパレルの水準からすると1つでも工場を作るというのがすごいが、まあ1つくらいならわからないではない。
しかし、事業がスタートしたばかりでもう第三工場まで作ることが決まっているというのは、相当に売れ行きが好調なのだろう。
1日あたりの売れ行きを尋ねてみると、「だいたい毎日800着」だという。
これは予想外にすごい数字ではないか。
客単価3万円としても1日に3万×800着で2400万円の売上高になる。
1か月だと2400万円×30日で7億2000万円となる。
このペースで1年が経過したと仮定すると、7億2000万円×12か月で86億4000万円の売上高となる。
深地さんは、客単価4万円で計算しているが、4万円だとだいたい115億円強の売上高となる。
実際の売上高はこの86億と115億円の間ということになるのではないか。
しかし、それにしても事業開始と同時に縫製工場を作るというのは、さすがは老舗アパレルであるオンワード樫山だといえる。
もちろん老舗アパレルだってOEMやODMに丸投げするのは珍しくないが、このオーダースーツ事業に関しては、製造の段階から自社で用意しており、その力の入れ具合がわかる。
物作りをどうするかということを最初から考えるのは、さすがは老舗アパレルで、泥縄式に製造関係者を募集しているZOZOとは姿勢がまるで異なっている。
話は少し戻るが、スーツに慣れていない人・初心者をターゲットにした、「なるべく選ぶオプションが少ないパターンオーダー」というのも考えてみてはどうだろうか。
極言すれば「標準服」のサイズを修正するだけである。
そのキモとなる「標準服」のデザインやシルエットはよほど魅力的なものにする必要がある。
選ぶことに慣れていない人にとっては、選択肢を制限する、もしくは無くすことが最高のサービスになる。
逆説的だが、顧客サービスとは、たくさんの中から選ぶようにしてあげることばかりではないということである。
10何種類もシルエットが存在するジーンズ専業メーカーのジーンズよりも、4種類くらいしかシルエットのないユニクロや無印良品のジーンズの方が売れていることを考えてみても、選択肢を制限することが対象によっては、顧客サービスになり得るということがわかるのではないだろうか。

久しぶりに有料NOTEを更新しました~♪
ジーンズメーカーとジーンズショップの変遷と苦戦低迷する理由
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/ne3e4f29b4276

 

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https://eventon.jp/13683/

8月1日から始まった、はるやまの新パターンオーダー、イージーセレクトもどうぞ
今度試してレポートしてみようかな?

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 comment
  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/08/25(木) 10:12 AM

    この記事は2018年。今は2022年。4年後はどうなったのか

    その後の情報が少ないので、この部門の売上は分かりませんが
    間違いなくいえるのは、ボリュームが小さい商いではありますよね

    そして、その後、コロナによる在宅ワーク推進で
    スーツ自体の需要が恐ろしく減った

    モノとしては接着芯主体のゲージ服ベースだから
    着心地はごく普通でしょう

    う~ん、売上的にはオンワードの救世主にならないし
    消費者からしても「未体験の服」ではないから
    2着目3着目は期待できないと思います

    実態としては「テーラー」でも「オーダー」でもない
    紳士服ですな

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