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南充浩 オフィシャルブログ

低価格ブランドが売れているのは「価格」だけが評価されているのではない

2018年8月2日 トレンド 0

インターネット、とりわけブログも含めたSNSが普及したことによっていろんな人が意見を発信することができるようになった。
デメリットもあるがメリットも大きく、当方もいろいろとデメリットを感じることもあったが、何とか生きていられるのもSNSの普及によるところが大きい。
で、様々なファッション業界人(あえて衣料品業界とはいわない)の発信を見ていると、「ズレ」てるなあと感じることが多い。
その多くはやっぱり自分たちの飯のタネに直結する「商品価格」のことである。
中には被害妄想ではないのかと思う人も少なからず見かけられて辟易させられる。
よくある論調として

「ユニクロなどの低価格ブランドが持て囃されているが、高い服を着ることで精神がウンタラカンタラ」(うざっ)

というものである。
もちろん、バブル崩壊以降の可処分所得の低下・伸び悩みによって、バブル期以前のような高価格な洋服が売れにくくなった。
バブル崩壊直後の93年とか94年には、このケチな当方でさえ、10万円のスーツが6万円に値引きされたのを買っていたのである。
その理由は、何度も書いているが、低価格店にそういうデザインのスーツがなかったからである。
もちろん当時は今より平均的な可処分所得は多かった。
しかし、似たように見える商品があったら間違いなくそちらで買っていた人は多かっただろう。
何度も書くが、93年当時に黒い無地のスーツは、DCブランド系の店にしか売ってなかったのである。
ロードサイドの青山、はるやまには黒無地スーツは略礼服しかなかった。
DCブランドならセールで6万円だが、もし、青山やはるやまに売っていたら定価でも3万~4万円くらいだっただろうし、バーゲンになればそこからさらに2割か3割は安くなっただろう。
だから、もし、当時、黒い無地のスーツが青山やはるやまにあればそちらで買うという人が多かっただろう。
ない物は買えないから、高いDCブランド系で買うしかない。
それだけのことだ。
これはスーツに限らず、Tシャツしかりジーンズしかりドレスしかりである。
元嫁は93年当時、今は亡きビバユーというサンエーインターナショナルのブランドの服を高値で買っていた。
生地はいわゆるスーツっぽいウールまたはウール混で、モスグリーンのロングベストだった。
モスグリーンというだけですでにイズミヤやジャスコには売ってなかったのだが、襟(ラペル)の形状が変わっていて、雲形定規で切り抜いたような丸いグニャグニャした形状をしていた。
グリーンでグニャグニャした形の襟のついたベストなので、当方は「昆布ベスト」と呼んでいた。

昆布ベストのイメージ画
自分で書いたので下手くそご容赦


 
そんな変な襟の形をしたベストはイズミヤにもジャスコにも売っていなかったから、それが欲しければ、高値でビバユーで買うしかなかった。
それだけのことだ。
上の論調のようなファッション業界人は、当方より若い人が多いが、20年前の売り場を見ていない、もしくは記憶が薄いからそういうことをいうのだろうが、ユニクロなり無印良品なりジーユーなり、その他低価格ブランドが売れているのは「価格」だけでは決してない。
百貨店納入ブランドが売れないのは、消費者の意識が低いからでは決してない。
今、黒い無地のスーツといった場合、素材や縫製の品質の良し悪しを除くと、どこでも買える。
ユニクロの「感動ジャケット」+「感動パンツ」だって黒無地のセットがあって、定価で1万円くらいで買える。
25年前なら、低価格品は色や柄は同じでも形がおかしかったり、素材の表面感が違ったりしたが、今の低価格ブランドはそこもそれほど差はない。
だったら、服マニアや服オタクみたいな人以外はそちらで買うのが当然だろう。
6万円と1万円じゃ、見た目にほとんど差がなければ1万円の商品をマスは買う。
黒い無地のスーツに限らず、セーターしかりジーンズしかりである。
昔のイズミヤやジャスコの平場に並んでいた低価格ジーンズはクソダサかった。2010年ごろまでのユニクロのジーンズもクソダサかった。
それが細かい差異はあるにせよ、今ではほとんど見た目がジーンズブランドと変わらなくなっている。
それでいて値段は最低でも2倍はちがうのだから、安い方がマスに売れるのは当たり前である。
被害妄想丸出しの自称ファッションクラスタあたりは、消費者心理や世の中の風潮を責める前に、低価格ブランドと見た目の区別がつかない物しか作れなくなった百貨店アパレルを責めるべきである。
そして「価格」問題以前に、低価格品の見た目が良くなったことを飲み込まないと、売れる商品なんて永遠に作れない。
もう「日本製だから」とか「職人がナンタラ」とかそんなありきたりな文言だけでは高い衣料品なんて売れない。
昨日も取り上げたが、ブルーモンスタークロージングのジーンズは、カイハラのデニム生地を使って3000円台とか4000円台で発売している。
高い服が売りたいなら、「昆布ベスト」みたいに明らかに「見た目から違う服」を作り、それの値打ちを響くように伝える必要がある。
先日取り上げた6000円のデザインタンクトップが良い例である。
上手く見せて伝えることができれば、たかがタンクトップに6000円払う人が少なくとも毎月100人は存在する。
年間にすればのべ1200人が買うことになる。
下手をすると、半場不振にチビって安全パイばかりの百貨店ブランドよりも、ユニクロのデザイナーコラボの方がよほどデザイン性の高い服になっている。おまけに価格は安い。
左右で切り替えられたボーダー柄Tシャツなんていう「デザイン物」はユニクロにしかなかったりする。(今夏のアンダーソンコラボ)

990円に値下がりしたときに買ったユニクロアンダーソンのボーダー柄Tシャツ 今は500円に値下がりしている


商品を「価格」だけで切り取って、上から目線のピントの外れた啓蒙活動を行っているから、ファッション業界人は一般人から理解されないのである。
そういうピントの外れた啓蒙活動がカルト的な小規模集団になることはあってもカルトは所詮カルトでマスにはなれない。
それにしてももう一回、どこかのブランドで「昆布ベスト」発売しないかな。(笑)

久しぶりに有料NOTEを更新しました~♪
ジーンズメーカーとジーンズショップの変遷と苦戦低迷する理由
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/ne3e4f29b4276

 
 

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雲形定規をどうぞ~

今、ビバユーはバッグしかやってないね~

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