大学卒業後すぐにイズミヤの子会社の低価格チェーン店に入社した。
そこからずっと本職ではないが販売員を断続的にやっていて、いずれも低価格店ばかりである。
かっこいいセレクトショップとか有名なブランドショップ、外資系ラグジュアリーブランドでの販売をやったことがないが、低価格店で断続的に販売をやって理解したことは、マス層は洋服に対する知識がそれほどないということである。

逆に、ファッション業界の著名人とかブランド経営者、ファッションブロガーの指南や工夫がほとんど売上高に反映されないのは、彼らが洋服のマニアだからではないかと思う。

マニアだってかつては初心者だったから初心者の気持ちはわかるだろう。
しかし、無知層のことは理解できない。
現に当方だって理解できない。なんでこんな意味不明の質問をしてくるのかと頭の中が疑問符でいっぱいになる。

けれどもそういう低価格店に来る無知層が大衆でありマスなのだから、マスに売りたければそのお高くとまっているプライドをかなぐり捨てる必要があるだろう。
マニアの嗜好は封印して大衆に合わせなくては絶対に売れない。
マスに売りたくなければ今のままでいい。ただし「売上高が伸びない」と不満を言うなかれ。マニア市場で生きるというのはそういうことだ。

個人的にはジジババやオバハンは嫌いなのだが、低価格店ではそういう客層が多いから必然的に相手をすることになる。
もちろん、仕事だからつっけんどんには対応しない。泥酔していたらわからないが素面ならそれくらいの分別はある。

それでも店頭に立つたびに、仰天するような質問や買い物客に出くわすし、過去にも出くわしてきた。
いくつか挙げてみよう。

・ニイちゃん、私の着ている服は何サイズかな?

この衝撃の質問を投げかけてきたのは過去に一人や二人ではない。
幾人もいる。それも決まって50代のオバハンご婦人である。

以下の事例は全部オバハン年配のご婦人である。

初対面の客が何サイズを着ているのかなんてわかるわけがない。
身長や体格でおおよそ見当はつくが、MでもゆったりしてLLサイズくらいのデザインの商品もあれば、LサイズでもタイトでSサイズくらいの商品もある。

思わず、杉下右京っぽい口調で「はい⤴?」と返事をしてしまう。

この人たちは何十年間も(少なくとも成人してから30年は経過している)自分の服のサイズを知らずに服を買っていたということになる。お高くとまっておられるファッソン業界の皆様方には想像もできないだろう。
サイズを見ずに服を買うなんていうことがありえるのかと思うが、そういう大阪のオバハンは想像しているよりも多くいる。

仕方がないので、服の裾をめくって白いタグに書いてあるサイズを読み上げる。
それでこの珍妙な問答はお終いだ。あほらしいので長く続ける気もない。

・Mサイズって何サイズ?

これも大阪の(以下同文)からときどき発せられる謎の質問である。
同様に9号サイズって何サイズ?とかLサイズって何サイズ?というのもある。
例えば、Sサイズって一番小さいサイズですか?とかLLってかなり大きいサイズですか?という質問なら意味はわかる。
この人は単にS,M,Lのサイズ表記の意味が分からないのだということになる。

しかし、「Mサイズって何サイズ?」というのは根本的に何も理解していないということになり、「犬はどうしてワンと鳴くの?」というのに匹敵するような質問だ。
ヨーロッパやアメリカ表記の36とか48が何サイズなのかという質問なら理解できるが、これには答えようがない。

「普通サイズ?(震え声)」と返すのが精いっぱいである。

・昨日買った服返品できるかな?今日着てきてるんやけど

90年代半ばにまだ早朝にあんパンと牛乳を並んでる客に配布していたころのユニクロのテレビCMで大阪のオバハンがレジ前でそう言って服を脱ぎだすというのがあった。
いかにも大阪のオバハンの特徴を良く捕まえていると思って楽しんでいたが、大阪のオバハンからの抗議で短期間で終了してしまった。極めて正確な描写なのに残念である。

ああいうことをする人は実際にはいないと思っていたが、いた。

しかも阪急百貨店うめだ本店で。そこらの低価格店やバッタ屋ではない。
阪急百貨店うめだ本店である。大阪以外の地区では考えられないだろう。
百貨店でそういうことをする客がいるということを。

3年くらい前のことだ。
テキスタイル・マルシェで阪急百貨店うめだ本店の店頭に立っていたときのこと。
70代くらいの婆さんご婦人がやってきて、昨日買った服を返品したい。着ているのも1枚あってこれも返品したいと言い出した。
結局、阪急側が受けたので、その着ていた服も返品された。

百貨店でそういう客が来るというのは唖然とするとともにさすがは大阪だと思わざるを得ない。
自分が小売店を経営するなら絶対に大阪ではやりたくない。

・なぜかかなり小さい服を着たがる

これも多い。
人間は男女問わず加齢とともに背中や腹回りに肉が付く。
付いてない人もいるが、付いている人も多い。
また、単に筋力の低下によって肉が垂れてくるのだとも言われているが、別に原因はどっちでもいい。
若い頃よりも体格が大きくなる人が多いということを共有していただければそれでいい。

どう見ても3Lサイズくらいに育った70代のご婦人が何度もLサイズの洋服を買っていく。
まあ、返品されないのでそれで良いのだが、いくら試着をさせても丁寧にサイズを説明しても頑なにLサイズを買っていく。
着れない洋服を何枚も購入してあの人はどうしているのだろうかと不思議になる。

また別のケースでは、非常に身なりの整ったこれも70代くらいのご婦人がいたが、ちょっと体格は一回り若い頃より大きくなっておられた。
若い頃Mサイズで今はLサイズくらいに育っている感じである。

ある日、Mサイズのズボンを持って試着室に入られた。
ズボン1本なのになかなか出てこない。
試着室の前を通ると、小さい声で苦しんでいるようなうめき声が聞こえる。
「う~」みたいな感じだ。ちょうど「腹痛い、ううぅ~」みたいなのを想像してもらいたい。

やっと出てきたと思ったら、「いくら頑張っても前のファスナーが上がらなかった」とのことだったのだが、うめき声は渾身の力でファスナーを上げていた声だったというわけだ。

いや、ファスナーを上げるまでに小さいかどうかは普通はわかる。
しかもそんな渾身の力を込めてファスナーが上がったところで日常的に着用するのは不可能である。

二重の意味でこの人の判断基準がわからなかった。

まあ、ざっと思いつくままに上げたが、まだまだ仰天エピソードはある。

冒頭にも書いたように、これがマス層・大衆層なのである。
マスに売るということはこういう人たちに服を買ってもらう必要があるということである。

普段、

90年代のエートスをコンシャスなエクスペリエンスにインクルードする

なんて言っちゃってるファッソン業界人にこういう層の心理・購買行動は予想できないし、理解もできないだろう。
だから多くのアパレルブランドは売れないのである。
そういうコンシャスなエクスペリエンスをしたければ、マス層に売ろうとせずにお仲間であるマニア層に売ることだけを考えていればいい。

まあ、業界人が想像しているより大衆ははるかに洋服の知識がないということを飲み込まない限りは、マスに服を売ることは不可能である。

NOTEの有料記事を更新~♪
「知名度主義」の人材起用がアパレル業界を低迷させている
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n50ca3a6bf56c7

あと、インスタグラムもやってま~す♪
https://www.instagram.com/minamimitsuhiro

昨年9月下旬にブログの仕様を変えて、更新通知が届かなくなった方がおられると思いますので、お手数ですが、新たにRSS登録をお願いします