不振を極める国内アパレル業界では、今、2つの手法が持て囃されているが両方ともに甚だ疑問を感じる。

1つは「原価率明示」、もう1つが「EC礼賛」である。

販路の1つとしてEC、ネット通販を整備することは必要だが、EC比率が高ければ高いほど優秀だという評価はまるで意味がない。
これはメディアにも責任があり、そういう表層的な指標でしか、判断ができないからだ。

もう1つの「原価率」だが、原価率明示ブランドが持て囃されているが、メディアに掲載される「原価率」なる言葉はひどく不完全である。
おそらくは「製造原価率」を指していると思われるのだが、単に「原価率」とだけ表記されている場合は、誤解を招くことにもなる。

なぜなら、単に「原価」「原価率」と表記された場合はそれは「仕入れ原価」「仕入れ原価率」のことも含むからだ。

計数管理の授業の初歩だが、「売上高=原価+粗利益高」と分解することができる。
これはビジネスを行う人ならだれでも知っているだろう。

そして、小売店の場合、「原価」とは「仕入れ原価」を指す。

だから単に原価率とだけ表記されている場合は、仕入れ原価率を指しても間違いではない。むしろ、小売業者なら原価率とは仕入れ原価率の方が適切だということになる。

計数管理の授業では、小売店の仕入れ値は店頭販売価格の6割が標準だと教えられる。
10000円の商品なら仕入れ値の標準は6000円になるということになり、業界では「6掛け」という用語で表される。
もっとも、この標準は現在ではほとんど消滅しており、仕入れ値は店頭販売価格の40~55%くらいに低下している。

しかし、商品によっては6掛けを維持できているものもあるし、買い取りではなく委託販売なら6掛けよりも大きい掛け率の場合もある。

教科書では標準とされる6掛けで仕入れていた場合、この店の原価率は60%となり、「原価率50%」と表記されるTOKYOBASEやファクトリエなどの商品よりも原価率は高くなる。
「原価率50%だから高品質」というのなら、この店の「原価率60%」商品はもっと高品質だということになる。
お分かりだろうか?

言葉というのは中途半端に使用するとこれほどに意味が異なってしまう。

まあ、これは言葉遊びの範疇ともいえるが、正確な用語を使用しないと、まるで違う意味にも受け取れるようになる。
だからメディアは気を引き締めてもらいたいと思う。

さて、言葉遊び以外でも「製造原価率」の高さは、決して高品質にはならない。
もちろん粗悪品ではないが、メディアや世間が絶賛するような高品質ではない。

アパレル商品の原価率が高いことは品質の良さとは無関係
https://ameblo.jp/takukawai/entry-12337459154.html

業界には著名なコンサルタントが幾人かいるが、この河合拓氏はもっとも理論的で、賛同できる主張が多い。
短いブログだが、主要な部分を抜粋する。

サンマやキュウリと違って、アパレル商品は「生地」や「ボタン」などの付属で構成され、さらに、複雑な商品となると「プリント」や「刺繍」など後加工も入ります。これらの部材をアセンブリして商品が完成する、しかも、それらの部材は世界中の産地で生産され、アセンブリ工場に供給されるのです。加えて、繊維製品は95%が輸入品で、日本に輸入する際は輸入関税が10-15%程度かかります。この関税を避けるため、生産時期をずらしたり途上国の部材をつかって特恵関税という減税枠をつかって税率を下げる技術もある。加えて言うなら、生産国から日本に輸入する際、船便とAIRで単品あたり100-200円も輸送費が変わるのです。

また、国によって人件費が違い、産地によっても同じ商品でも労働工賃(CMTといいます)は変わる。では、人件費の安いところにいけばよいのかといえば、そうでなく、バングラデッシュやミャンマーなどは、生産ロットが莫大に多く、日本のアパレルが生産委託をすれば、産地の工場固定費によって単品コストは逆にあがるのです。日本と人件費が変わらないといわれる中国沿岸部で生産したほうが、供給スピードが速くなり的中率があがって、相対原価が下がるということもある。スーパーの仕入とは全く違うのです。

とある。そしてここからが「肝」の部分だが、

アメリカのアパレルが、日本の商社を使う理由が理解できないので、昨年販売した商品と同じ商品をつくってみろといって商社に渡しました。なんと、その商社は、そのアメリカのアパレルが調達している1/3の値段で製品をつくってみせたのです。よく調べてみると、そのアメリカのアパレルはアジアにバイイングオフィスという調達機能をつかってはいますが、香港に拠点をもっていて、香港から多段階に階層化されたミドルマンによる流通の高コスト化によって、例えばイタリアの生地をチャイナの問屋経由で買ったり、という具合に「下手な」調達をしていたわけです。

とある。

要するに、素材・副資材の調達、生産工場の選択によって、日本の商社は同じ商品をアメリカのアパレルの3分の1の値段で製造することができたという話である。
商品はまったく同じでも生産の組み立て方では値段が3倍になるということになる。
昨今流行りの「原価率明示ビジネス」の原則でいうなら、アメリカのアパレルの方が高品質ということになってしまうが、その判断基準は間違っているということの証明だといえる。

なぜなら、同じ商品を日本の商社は3分の1の値段で作れるが、商品の質には差がない。

ちなみにここで言われている「多段階に階層化された流通の高コスト」というのは、実はラグジュアリーブランドにも当てはまる部分があり、某ラグジュアリーブランドが使っているデニム生地は、日本の工場で1メートル700円くらいで生産されている定番デニム生地なのだが、これが「多段階の階層化された流通」によって、このラグジュアリーブランドは1メートル7000円くらいの価格で買っているといわれている。

仮に、全てのアパレルが商社に発注して、完成品だけの仕入と販売をしたらどうなるか。確かに、このケースにおいては、調達の技術はイコールですから、「原価率の高さ」は「品質の良さ」を表すでしょう。しかし、商社は効率を重視しますから、結局商品間の差別性はなくなり、消費者から見た購買の決定要因は価格のみ、ということになり価格競争に陥ります。

こうした事実から、プロから見て、ものづくりのノウハウがないアパレル企業の「原価率の高さ」は、「品質の良さ」でなく「調達の下手さ」と同義語です。アセンブリ商品であるアパレル商品を「原価率」だけで語るのは無意味であるということです。

この結論が昨今流行りの「原価率明示ビジネス」の薄っぺらさを表している。

 

 

 

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