南充浩の繊維産業ブログ

ファッションブログ・・・・と言いたいところだけれどもそこまでファッションに特化していないし、能力的にもできない。そこで繊維製造業、産地、アパレルメーカー、小売店など幅広く繊維産業全般についてぼちぼちと書きます。たまにマスコミ、経済問題についても書く予定。よろしくお付き合いください。 お仕事の依頼は minami_mitsuhiro@yahoo.co.jp まで。

繊維業界新聞の記者としてジーンズ業界を、紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下まで担当。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務した。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。

2017年05月

先進国で繊維の製造加工業が減るのは当然

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 日本の繊維製造加工業を守れという声があるが、結論からいうと、今ある事業者数すべてが残ることは不可能である。ただ、ゼロにはなることもないと思う。
事業主が「生き残りたい」「今の事業を続けたい」と強く思わない製造加工業は消えることになるだろう。

繊維の製造加工業が大規模に残れるかどうかというのは、日本だけの問題ではなく世界的な問題ではないかと最近思うようになった。

例えば、ジーンズやTシャツで重宝がられていたアメリカ製衣料やアメリカ製生地だが、近年はほとんど見かけなくなった。アメリカの繊維製造加工業はゼロにはなっていないが、かつてほどの規模では残っていない。

中国も経済発展を遂げたため、ほかに実入りの良い仕事が増え、縫製工場や織布工場、染色加工場などには工員が集まりにくくなってきている。

代わって東南アジア諸国やインドに工場が増えている。
これらの国は現在、経済発展段階にあり、経済発展の第1段階として繊維などの軽工業に注力するのは常道である。
その次に重化学工業で発展し、最後はサービス業へと移行する。

イタリアには例外的に繊維の製造加工業が多く残っているといわれているが、以前にもこのブログで紹介したように、工場の経営自体を中国企業に売り渡しているケースが増えているし、そういう工場は工員のほとんどが不法滞在者も合わせた中国人になっている。

となると、ある程度の経済発展を遂げると、その国の国民は就職先として繊維の製造加工業を選ばなくなるということがいえるのではないかと思う。

どうして選ばなくなるかというと、給料が高くない、作業がキツイなどの理由があるのではないか。


「日本製3%」で沈むアパレル工場が生き残る道
3Kの印象変えよ!ルンバ導入の次世代工場も
http://toyokeizai.net/articles/-/173418

ファクトリエのポジショントークが半分くらい入ったいつもの記事だが、これをベースに考えてみたい。

日本製衣料は3%といわれるが、それは数量ベースの比率であり、金額ベースだと26%前後で残っている。

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/seizou/apparel_supply/pdf/001_03_00.pdf#search=%27%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%A3%BD%E8%A1%A3%E6%96%99%E5%93%81%E6%A7%8B%E6%88%90%E6%AF%94%E9%87%91%E9%A1%8D%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B9%27

この経済産業省の報告書の3ページ目に示されている。
2012年時点で27%が日本製比率である。


たしかに環境整備は必要だし、それなりに有効だといえる。
しかし、自分が見学した工場はかなり綺麗に整備されているところが多い。
それにもかかわらず、人が集まらないというのは環境が美化されていることだけでは足りないからではないか。
ルンバなんて買ったって焼け石に水であろう。

人が集まりにくい最大の理由は、給料が安いからである。
工賃が安いから給料が安くなる。そういう構図であり、工員が年金生活者ばかりだから、プラスアルファの格安の給料で何とかやりくりしている工場はめずらしくない。

ここが改善されないことには若い人が集まることはない。

じゃあ、どうすれば改善できるのかというと、これがなかなか難しい。
筆者ごときでは解決できない。

工賃を上げて、上げても売れるような製品やサービスを作るしかない。

これが大前提だが、全業者が一斉に同じことはできないし、やったところで脱落してしまう業者も数多く出現するだろう。
結局、個々の工場が目標に向かって試行錯誤を繰り返しながら地道に取り組むほかない。

救世主みたいな人が現れて一挙に全工場を救ってくれることなどありえない。
神風が吹いて急に工場が儲かるようになることもない。

そんなもんを期待するのはおバカさんだけである。

個人的には

1、凄腕工場になって確実に受注先を増やす
2、自社製品開発を成功させる
3、直営店まで構築してSPA化する
4、強いブランドと密接に取り組む

くらいのことしか考え付かない。

その中でも4になってしまうと危険性も高まる。

ある強力なブランドのみと取り組むと、そのブランドの売れ行きが陰ればもちろん打撃を受けるし、そのブランドが何年か後に取引先を変えてしまえばこれも打撃を受ける。
かつて、ユニクロの仕事のみ注力した(させられた)国内工場が、何年か後に製造先を変えられて多数倒産したことはそれを証明している。

1、2、3ともに言うのはたやすいが実現は困難を極める。

困難を極めるからこそ、事業主が「それでも残りたい」と強く思わなくては実現は絶対不可能である。


ファクトリエや自称クリエイターたちがいうような「美しい物語」では決して国内の繊維製造加工業の置かれている状況は好転しない。

筆者がファクトリエに対して疑問を持っているのは、提示する「美しい物語」もさることながら、現在、ファクトリエが進めているやり方は、各工場をファクトリエというブランドの下請け・専属にしているようにしか見えない点である。
もちろん、それで救われる工場もあるが、結局のところ工場の自立化にはつながらず、従属先をかつてのアパレル企業からファクトリエに変えることになるだけではないだろうか。

自称クリエイターの中には製造加工業を国が保護せよと口走る人もいるが、自由主義経済でそれはありえないし、これまで役に立ったかどうかは別にして何十年間も補助金・助成金が支払われており、これ以上の厚遇は製造加工業を特権化させるだけではないかとも思う。


国が経済発展したのちも、給料その他条件で「魅力的」と思われるような製造加工業のモデルケースを提示しないことには減少は止められないだろう。
しかし、そういうモデルケースは史上実現していない。それを史上初めて実現できたとき、先進国での繊維製造加工業への就職者数が増えることになる。


あまりに困難な課題すぎて、筆者程度の人間には到底、実現する方法も完成形も思い描くことができない。



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誰がアパレルを殺すのか
杉原 淳一
日経BP社
2017-05-25



しまむらの転換路線に黄信号?

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 このニュースを読んだときに、「ああ、やっぱりな」と感じた。

しまむらの株価が急落 既存店売上高が4カ月連続減
https://www.wwdjapan.com/419687

一昨年、昨年と各メディアに「勝ち組」と持ち上げられたしまむらの失速である。
しまむらの好調は、以前にこのブログでも紹介したように、冬用の保温ズボンを百万枚単位で売り上げたことによるものである。

定価は3900円で、通常のカジュアルパンツと同じくらいスマートでスリムなシルエットなのに防風性が高いというズボンで、各社とも冬用商品では人気が高い。
ユニクロもライトオンも同様の商品を販売している。

しまむらは、この「裏地あったかパンツ」の大ヒットにより久しぶりの増収増益に転じた。

それによって各メディアはしまむらを「勝ち組」と持ち上げたのだが、業界内部からはその時点で、疑問の声が上がった。

というのは、しまむらの基本的なやり方は、メーカー各社の在庫を安く仕入れてそれを安く販売する。
ただし、在庫だから売り切れ御免で、同じ物は二度と入荷されない。
というものである。

一方、裏地あったかパンツは100万枚を売り上げたわけだから、従来のやり方と異なる方法で商品調達がなされたと見るべきである。
いくら在庫がダブついている衣料品業界とはいえ、同じ商品ばかり100万枚も積み残しているメーカーなんてそうそうにあるわけがない。

100万枚の商品を調達し、販売したというやり方はユニクロ方式に近いものがあったのではないかと考えられるし、販売の思想はユニクロと同じだといえる。

少量(とは言っても、1万枚や2万枚程度は調達している)の売り切り御免方式から、100万枚単位でのユニクロ方式への転換。業界から疑問の声が上がったのはこの部分に対してである。

売り上げ規模の小さい企業なら方向転換は容易だが、5000億円を超えるような大企業になった場合、根底からやり方を変えることはなかなか難しく、莫大な労力と資金が必要になる。

そこまでのものを費やしてユニクロ方式に転換することが果たして、しまむらにとって良いことなのか?というのが業界からの疑問の声だった。

そして、今回のしまむらの失速傾向は、方法の転換にやはり無理があり、歪みが生じているのではないかと考えられる。

しかし、失速傾向とはいえ、まだ5月であり春夏物が不調だっただけで秋冬シーズンは好調に転じるかもしれない。
今後の推移を見守らないことには、失速だと決めつけることは難しい。

それにしても、やはりというべきか、衣料品という商品において、春夏物はヒット商品を作ることが難しいということが図らずもまた証明されたのではないかとも思う。

ユニクロの秋冬偏重は以前から指摘されてきたが、秋冬偏重はユニクロに限ったことではなく、衣料品ブランドは一部を除いてほとんどが秋冬偏重である。

なぜなら、秋冬商品は春夏商品に比べて、コートやジャケット類は単価が高く、売上高を増やしやすい。
さらに、気温的にも重ね着ができることから消費者の購買枚数も春夏に比べて増えやすい。

春夏、特に夏場は高気温であるため、重ね着がしにくい。
男性ならTシャツ1枚、ポロシャツ1枚に軽量ズボンというような服装が主流で極めて着用枚数が少なくなる。
女性でも似たような傾向である。

となると、まとめ買いやコーディネイト購買は少なくなり、売上高は稼ぎにくくなる。

また秋冬、とくに冬物は機能性が実感されやすいが、春夏物はどんなに機能性を高めても、暑さは軽減できない。筆者などは「どっちにしろ暑くて汗は止まらないから、夏物は機能性商品を着る必要はない」とまで思い始めている。

そうなると、吸水速乾だろうが、防臭だろうが、大々的にヒットを飛ばすことは難しい。

以前にジーユーがガウチョパンツを100万枚売ったように、春夏商品こそ、トレンド性がなければヒットしにくいともいえる。
ジーユーでガウチョが売れた理由は機能性ではなく、トレンド性と低価格である。


しまむらの「大量調達・大量販売」というユニクロ方式へのビジネスモデルの転換が正解だったかどうかがわかるのはこれからといえる。



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ユニクロ vs しまむら(日経ビジネス人文庫)
月泉 博
日本経済新聞出版社
2009-11-03












ジーンズ専業メーカーが苦境に陥った4つの理由

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 先日、久しぶりに西の方にある某ジーンズ専業メーカーの社員さんにお会いした。

御多分に漏れず、このメーカーの業績も悪く、売上高もピーク時の6割程度にまで落ち込んでおり、大規模なリストラも何度か行われている。

そういう状況なので、さぞかし社内にも危機感がみなぎっているのかと思ったら、年配層・上層部はまるで危機感がなく、そのうちにまた売れるようになると考えているとのことで、その暢気さに驚かされた。

その根拠ない自信はどこから湧いて出るのだろうか。
それくらい楽天的なら人生も楽しいだろうなあ。

ジーンズ専業メーカーが苦戦に陥った理由はさまざまある。

1、主要卸先だったジーンズ専門店チェーンの激減
2、そのジーンズ専門店チェーンのSPA化
3、他のメーカーもジーンズやカジュアルパンツも企画製造するように(できるように)なった
4、低価格商品の見た目が向上した

おもにはこの4点だと考えている。

まず、1だが、三信衣料の倒産から始まり、フロムUSA、ロードランナーの倒産、マルフルの解散、デンバーの廃業などジーンズチェーン店の倒産や廃業が相次いだ。

また生き残った大手のライトオン、マックハウス、ジーンズメイトの苦戦も挙げられる。

要するに卸売り先が減っているのである。

次に2だが、OEM/ODM業者の増加によって、ジーンズ専門店チェーンも自主企画製品が作れるようになった。
有名なところだとライトオンのバックナンバーなんていうのはその典型だが、生き残った地方専門店も自主企画製品を企画製造販売し始めている。
仕入れ100%という店が少なくなった。

3はジーンズ専門店チェーンに限らず、OEM/ODM業者の増加で、様々なブランドが自主企画のジーンズやカジュアルパンツを企画製造できるようになった。

タケオキクチやポールスミスでもオリジナルジーンズが販売されているご時世だし、ビームスやユナイテッドアローズもオリジナルジーンズを企画製造販売している。

ジーンズ専業メーカーとしての優位性はほとんどなくなっている。

4はユニクロやアダストリア、ジーユー、無印良品などの低価格ブランドが企画製造しているジーンズやカジュアルパンツの見た目が良くなり、ジーンズ専業メーカーの商品との区別が一見したくらいではつけられなくなった。

OEM/ODM業者の増加に加えて、これまでジーンズ専業メーカーとガッチリ組んでいた縫製工場や洗い加工場がそういう低価格ブランドや百貨店ブランド、セレクトショップのオリジナルジーンズの製造に携わるようになったことも大きい。

かつてナショナルブランドを手掛けていた洗い加工場が今ではアダストリアのジーンズのOEM生産を手掛けているなんてことは別に珍しいことではなくなっている。

製造・加工する工場が同じなのだから、ジーンズ専業メーカーとその他ブランドとの商品の見た目にそん色がなくなるのは当然である。

こういう状況なのだから、何らかの変革・努力なしにはジーンズ専業メーカーの業績が回復することはありえない。従来通りのままなら縮小を続けていくしかない。

苦境が続いている業種だから少しは危機感を持っているのかと思ったら、まだそんな暢気でいるのだから驚くほかない。

他の不振アパレルメーカーや小売店も年配層・上層部にはこれほど暢気坊主がそろっているのだろうか?
もしそうなら座して死を待つばかりである。

この手のジーンズメーカーのベテラン社員は以前は

「低価格ブランドや百貨店向けブランドのジーンズとワシらのジーンズは物が違う」

と言っていた。空元気なのか本当にそう思い込んでいるのかはわからなかったが。

しかし、今では製造・加工している工場も同じだし、使用しているデニム生地も同じ先から仕入れているわけで、ユニクロだってカイハラのデニム生地を使用している。
そうするとおのずと見た目はほとんど変わらなくなる。
おまけに低価格ブランドの商品価格は専業ブランドの半分程度である。

似たような物なら安い方を買う人は増えるのが当然である。

こういう状況になると、専業メーカーはえてして「わしらのジーンズはこの部分の縫製仕様が(少しだけ)異なる」なんてことを言い募るのだが、そのミクロの違いに満足する人は数少ない。
おとなしくその少数派に向けた小規模ブランドに転身すればまだしも、なぜだか昔の栄光が忘れられずに、ミクロの違いを持ってマスに売ろうとし続けている。

売上高3億円とか5億円くらいならそういうミクロの違いが大好きなマニアを集めることは可能だろうが、50億円とか100億円規模の売上高を作ることは不可能である。
ミクロの違いを支持する人はそんなにたくさん存在しない。

それにしてもここまで苦境に追い込まれながら、まったく認識が変わらないメーカーがあることには驚かされるばかりである。
このジーンズ専業メーカーはそうやって今後さらに縮小し続けていくのだろう。


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「無くなっても誰も困らない」百貨店という業態は生き残れるか?

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 大西洋・前社長が電撃解任され三越伊勢丹HDの新体制が発足したわけだが、一連の動きについては賛否両論さまざまな意見がある。

お家騒動によってイメージ低下を懸念する声も多いが、杉江新社長に期待するという声もあるし、大西・前社長の不備を指摘する声もある。

大西時代には催事が160~200もあったという報道もあり、それが事実だとすると、現場が疲弊するのも理解できる。催事で目先を変えて売り場の鮮度を保ちたかったのだろうが、ネタはそんなに落ちているわけではないから、ネタ作りだけでも現場は疲弊する。

そんな中で一連の動きに対する報道で個人的に賛成できる部分が多いのが、ダイヤモンドオンラインのこの記事である。

三越伊勢丹HD「1億かけて1銭の利益も出ない催事」が象徴する苦境
http://diamond.jp/articles/-/127814

仕入れ構造改革について「利益貢献額は目標値を上回ったが、改革に要したコストを含めればマイナスの可能性がある」と負の側面を挙げ、中小型店の展開については「ビジネスモデルを確立する前に店舗数を拡大してしまった」として見直す方針を強調。特にエムアイプラザについては、新規出店の原則凍結を打ち出すなど、大胆に見直す考えだ。

とあり、それはその通りだ。
とくにエムアイプラザやイセタンサローネ、イセタンハウスなどの中小型店は不振だといわれており、拡大路線を転換することは当然だろう。

業界内部から聞こえてくるのは、東京ミッドタウンに出店した「イセタンサローネ」と大名古屋ビルヂングに出店した「イセタンハウス」の不振の噂だ。

ただでさえ店舗面積の狭い伊勢丹新宿本店のさらにその中小型版は果たして必要なのだろうかと思ってしまう。ジェイアール大阪三越伊勢丹からリニューアルしたルクアイーレ内の伊勢丹コーナーもわずか1年ほどで縮小されてしまった。縮小されたということは業績不振だったと考えるべきである。業績が好調なら拡大もしくは維持されていたはずだからだ。

しかし、この記事では

 ただ、今回、未達に終わった中期経営計画は、杉江社長が当時、経営戦略本部長として大西前社長とともに策定したもの。社長就任時の記者会見でも「計画の立案には私も携わった」と明言している。

 杉江社長は、不採算事業の見直しを後回しにして成長事業を優先していた大西前社長に対し、「自分はコストカットに最優先に取り組むべきだと訴えていたと」主張するが、「なぜ計画策定時ではなく、今になって全否定するのか疑問は残る」と指摘する百貨店関係者は少なくない。

とも指摘しており、これもその通りである。

杉江新社長は大西時代の中期経営計画の策定にもかかわっており、それを今更まったくの他人事のように批評するのはどうかと思う。

もちろん、反対意見を述べたもののトップの意向で却下された可能性もあるが、経営戦略本部長という要職にあったのだから責任は免れない。
現場の平社員や外部の評論家とは立場が異なる。

人件費の削減は大西・前社長も取り組むべき課題だとしていた。

三越と伊勢丹が合併して、本部スタッフをほとんど減らさないままに10年が経過してしまっている。
合併したら本部スタッフは1・2倍くらいに抑えねばならないのに、これを純増ないし微減で10年過ごしてしまったとかつて大西・前社長も反省の弁を述べたことがある。

今回、大西・前社長の根回し不足という要因はあるものの、地方店リストラに現場が反発して電撃解任に至ったと公表されており、杉江新社長のリストラ構想も容易く実行できないのではないかと見られてもおかしくはない。

この記事は

もっとも中計の達成度や業績を見れば、大西路線の成果には確かに疑問符が付く。杉江体制に入り、その問題点の洗い出しがようやく始まったわけだが、かといって明確な成長戦略があるわけでもない。立て直しに残された時間は、決して多くはない。

と結ばれており、これもその通りである。
そもそも従来型百貨店を維持しながらの成長戦略なんていうものは考えられない。

それが可能ならジェイフロントリテイリングは「脱百貨店」を打ち出さなかっただろう。

これは大西・前社長も明言されたことがあるのだが、今の時代、百貨店はなくなっても誰も困らない。
百貨店従業員とその家族、納入業者とその家族は困るだろうがそれくらいである。
今の百貨店はライフラインでもなければ圧倒的なステイタスシンボルでもない。

そういう「なくても困らない物」をどのようにブランド化して、大衆から利用され続ける店にするのか。
百貨店各社にはそういう難問の解決が求められており、何らかの答えを導き出さなければ市場から退場させられてしまう。



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産業間での人材獲得競争に敗れ続けたアパレル業界

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 2年ほど前のことになるが、筆者にインポート業界の基本を教えてくださった方が引退された。
最終的には某ブランドの社長にまで上り詰められたが、親御さんの介護に専念するということで退職された。

退職のお知らせをメールでいただいたきり、その後は音信がない。

その方がまだ現場で部長をなさっていた2006年ごろのことである。
そのとき、「インポート業界には最近、20代の新入社員があまり入ってこなくなった」と自嘲気味におっしゃっていた。
理由を尋ねると

1、バブル崩壊後のファッション市場の冷え込み
2、インポートも含めたファッション業界の待遇の悪さ
3、ITなどの成長企業への注目(当時)

などを挙げられていた。

インポートブランドは景気の良し悪しは別にして高級で華やかなイメージがあるから派手好き・ミーハーな若い人がそれなりに入ってくるのではないかと思っていたが、意外に若い人たちは賢明で堅実だった。(笑)

そうこうしているうちに10年以上が経過した。

国内アパレル企業も新入社員が確保できずに人手不足が顕著になり始めたし、昔だと手軽なアルバイトと見なされてそれなりに人手が集めやすかった販売員も求人難に陥り始めた。

理由は10年前の挙げられていたインポート業界と同じだろう。

さらに2015年ごろから大卒の求人倍率は好転し始めており、少子化の影響もあり、今後はさらに大卒の就職は有利になると考えられる。
そういえば高卒の就職率もかなり高くなってきた。
2006年ごろよりも今の方がはるかに就職にとっては有利となっている。

大卒求人倍率1.78倍、学生の「売り手市場」続く リクルート
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ26H98_W7A420C1000000/

こうなると、国内アパレル企業やインポートアパレル企業にはますます人は入らなくなる。
今の状況なら好待遇の大手企業にも入社できる可能性が高まっているのである。

筆者がもし就活生の親なら、間違いなくアパレル業界ではない大手企業への入社を勧める。

以前に大先輩が、「アパレル業界は、業界間競争に負けて人材獲得が困難になった業界である」とおっしゃっていてまさしくその通りだと感じる。

アパレルが業界間競争に負けたのは何も今に始まったことではなく、バブル期から負け続けてきた。

終戦から我が国の経済を立て直す際、最初の輸出品となったのは繊維製品だった。
1ドルシャツが米国に輸出され、貿易摩擦を引き起こした。

「990円ジーンズなんてありえない!」と目を三角にしている自称クリエイターたちはこういう歴史を知らないだけであり、重化学工業が発達していない国は、低価格繊維製品を製造輸出して外貨を稼ぐのである。それが常道である。
我が国だってそれをやって経済復興の礎を築いた。
それを今、他の発展途上国がやっているだけのことである。

その後、我が国は重化学工業へと舵を切り、その後は、金融やITなどの産業に力を入れた。

繊維は国としての重点産業ではなくなり、このころから産業間競争に負けていたというのが大先輩のおっしゃる趣旨である。

アメリカ合衆国だって繊維製造業は脇役となり、金融やIT、機械製品でGDPを拡大し続けている。

昨今注目されているIT系アパレルの成長企業の多くは、業界外から来た若い経営者が動かしている。
産業間の人材獲得競争で勝った業界から来た人なので、アパレル業界たたき上げの人間よりは随分と優秀である場合が多い。

今後、アパレル産業がある程度回復することがあるとするなら、異業種出身者が業界を完全にけん引するようになったときではないかと思う。

70年代~90年代前半の繊維業界黄金期に内部で若い時代を過ごした今の年配層では、成長プランを描くことは決してできないだろう。




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誰がアパレルを殺すのか
杉原 淳一
日経BP社
2017-05-25


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