南充浩の繊維産業ブログ

ファッションブログ・・・・と言いたいところだけれどもそこまでファッションに特化していないし、能力的にもできない。そこで繊維製造業、産地、アパレルメーカー、小売店など幅広く繊維産業全般についてぼちぼちと書きます。たまにマスコミ、経済問題についても書く予定。よろしくお付き合いください。 お仕事の依頼は minami_mitsuhiro@yahoo.co.jp まで。

繊維業界新聞の記者としてジーンズ業界を、紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下まで担当。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務した。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。

2015年10月

OEM屋の存在が悪いのではなく、その使い方に問題がある

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 昨今、国内縫製工場とブランドやセレクトショップをダイレクトにつなごうというサービスが増えてきた。
ファクトリエ、シタテル、ヌッテなどであるが、各社ともその狙いと運用形態は少しずつ異なる。
その詳細はここでは触れないが、これらのサービスを報道する際に「OEM屋を中抜きすることで、製造コストが下がる」と説明されることがある。

SPAが盛り上がった当時の「問屋不要論」と似たような印象を感じるのは筆者だけだろうか。

問屋はすべて不要かというとそうではない。
大きな在庫を資金的に抱えにくい小規模店舗は問屋があった方が商品の追加補充がスムーズにできる。
メーカーは卸しっぱなしだし、小規模店舗は在庫を抱えにくい。
その間に立つのが本来の問屋である。
問屋が在庫をある程度備蓄するからメーカーは在庫を抱えずに済むし、小規模店舗は在庫を抱えずに追加補充が可能となる。

もちろん、SPA以前の時代のように問屋が多数乱立して成り立つ業界ではなくなったが、問屋をゼロにするのが正しいのかというとそうではない。

OEM(ODM)屋に対しても同じではないかと思う。

国内縫製工場の多くは、最新鋭設備が整っていて大規模な中国工場やアセアン工場よりも融通が利きにくい。

ジーンズを例にとる。

ジーンズを縫製する際には、生地を裁断して、リベットやファスナー、ボタン、革パッチなどの副資材を集める。
裁断した生地を縫製し副資材を取り付ける。
その際にボタンホールもかがらなくてはならない。

中国工場の場合、裁断と縫製以外の副資材を集める手配、ボタンホールをかがる作業なども一貫でできることが多い。
Aという工場に頼めば、指定した副資材を数量分集めて取り付けてくれ、さらにボタンホールも自社内でかがってくれる。

ところが、国内縫製工場の場合、副資材を集める機能もないし、ボタンホールのかがりも外部の専用工場へ出す。一部を除いて自社内で一貫生産はできないことが多い。

リベットはコレ、ファスナーはYKKのアレ、ネオバはアレ、革パッチはソレとブランド側が指定するとする。
そしてブランドは100本のジーンズの縫製を工場に依頼するとする。
副資材を100本分集めるのもそれらを工場に送付するのもブランド側の作業になるし、下手をするとボタンホール工場への移送指示もブランド側が送らねばならないこともある。

さらにいえば、洗い加工場もまた別に存在するからそこへの移送指示も必要になる。

1シーズンに50型とか100型も作るようなブランドがすべての商品を工場と直接取引したとするなら、ブランドのスタッフは疲弊してしまうだろう。

OEM(ODM)屋に任せた場合、こういう手配はすべてOEM屋が担ってくれる。
ブランド側の労力は軽減される。

国内生産をする場合の方がOEM(ODM)屋を噛ませることがブランド側にとってメリットとなる。

たしかにOEM(ODM)屋とブローカーが二重、三重、四重、五重に挟まって製造コストが割高になっている事例は山ほどある。
中にはODM屋のためのOEMとかOEM屋のためのOEMとかわけのわからないことになっている場合もある。

もう少しシンプルな形にする必要はあるとは思うが、OEM(ODM)屋の存在が悪なのではない。
むしろ、その存在がなくなるとブランド側も生産できなくなる。
そんな面倒なことをできるようなスタッフがどれほど現在のアパレル業界に存在するのだろうか。
おそらく早々に音を上げるだろう。

現在問題視されている根本的な理由は、人件費・経費削減によって企画力が低下したブランド側が安易にOEM(ODM)屋に企画を丸投げして同質化を招いていることにある。

ここを放置したままでOEM(ODM)屋を業界から追放(現実問題としてそんなことは不可能)したところで、製品の国内製造はさらに困難な状況に陥るだろう。

要はその存在が問題なのではなく、ブランド側の使い方に問題があるということである。

物事をシンプル化・ワンイシュー化して示すことは広く理解を得やすい。
しかし、物事は必ず多面的なので、何かをすれば必ず別の副作用が生じる。

工場とブランドとの取り組みはもう少し多面的に考えるべきではないか。
そうでないと「角を矯めて牛を殺す」ことにもなりかねない。













「待ちぼうけ」の童謡そのままな国内縫製工場もある

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 「高品質な日本製を打ち出すことでブランドイメージを向上させる」

どこかの大手アパレルが好みそうなキャッチフレーズである。
散々海外生産を増やしておきながら今更どの口が言うのかと呆れ果てる。

しかし、実際のところ日本製は必ずしも高品質ではない。
すべてがそうではないが、ブランド側からすると「使いづらい」縫製工場も多々ある。
もちろん、高品質な工場も存在することはいうまでもないが、マスコミが煽るほど日本製衣料品はすべてが高品質ではないということである。

長らく中国生産のエキスパートだった友人のOEM屋が、国内生産を取り入れ始めたのは5年ほど前のことである。
それまでは中国生産一辺倒だった。

その友人の当時の第一声は「国内縫製工場は使いづらいところがある」というものだ。
理由を尋ねてみると、「当初予想よりも仕様が複雑な衣料品があったとすると、中国工場はよほどの困難が無い限り、契約した数量は製造してくれるが、国内工場は着手し始めてから『こんな仕様では工賃を上げてもらわないとできない』とか『納期に間に合わせることは無理』と平気で言ってくる。これでは中国工場の方が使いやすい」というものだった。

友人の使っている中国工場は、追加生産になった場合には「仕様が難しいので工賃を上げてほしい」とか「納期を長く見てほしい」と言うが、着手し始めて「あれができない」「これもできない」とは言わないそうである。

もちろん中国工場も日本工場もピンキリだが、複数の業者の声を聴いても日本工場の方が「後出しじゃんけん」が多い印象がある。

先日、小規模なカジュアルブランドの展示会にお邪魔した。
以前から一部は国産だったが、近年の情勢(円安、人件費高騰)から来春夏商品はほとんどが国産品に切り替わっていた。

ところが、そのブランド担当者によると「国産が増えたために工場とのトラブルも増えた」という。

以前の中国工場だと簡単にできていたデザイン商品が「こんな面倒な物は縫えない」と言われる。
デザイン商品と言ってもさまざまである。
パッチワークでつなぎ合わせたような見るからにめんどくさい縫製仕様の物から、ベーシックに少しプラスアルファする程度の物まである。

このブランドの商品は、ベーシック商品に少し切り替えを入れた程度の物である。

これを「こんな面倒な物はできない」と言ってくるのが国内工場で、わけもなくできるのが中国工場というのが一方の現実である。

国内縫製工場の中にはこの期に及んでいまだに「定番商品をできるだけたくさん縫いたい」という要望を堂々と言ってのけるところが少なくない。

たくさんの定番商品を縫いたければユニクロか無印良品の注文でも取るほかない。
工賃が合うかどうかは知ったことではない。

定番品を大量に製造する国内ブランドなんて限られている。
それもほぼ低価格ゾーンに集中している。
そういう仕事がしたいのだろうか?
なら工賃をアセアン並みに切り下げて、製造キャパも中国工場並みに増やしてはどうか?

ということになる。
どちらも不可能だろう。

現在の国内縫製工場が置かれている状況は厳しい。
それにはこれまでの国内ブランドからの仕打ちがあることは間違いない。
工賃の引き下げ、不当返品、未引き取りなどなどだ。

しかし、いつまでもその当時のままでもどうしようもない。
現実世界でタイムスリップはできない。

中には小ロットのデザイン物も引き受けるというふうに姿勢の変わった縫製工場もある。
定番品の大量生産にこだわっていても中国工場と勝負すれば負けるし、これからはアセアンとの勝負にも負けるだろう。

資本力のない国内工場が莫大な投資をして製造キャパを広げるのは自殺行為だろうし、よしんば広げたところで中国工場、アセアン工場の規模には足元にも及ばない。

小規模なままで業務を継続するなら、工賃アップは交渉すべきだろうが、体制として小ロットのデザイン物も受け入れるメンタリティは必要になる。

「投資できないから小規模なままだけど、工賃は上げてほしい、でもデザイン物はやりたくない。できれば定番品を大量にやりたい。でも生産キャパないけどね」

こんな工場にどんなブランドがオーダーをするというのだろうか。

こういう姿勢が国内縫製工場を衰退させた理由の一つではないかと思う。

このところメディアやブランドが喧しい「日本製ブーム」というのは本当なのだろうか?

昨日こんな発表があった。9月単月の物だが、

9月の貿易統、衣類輸入が大幅増
http://www.senken.co.jp/ne…/management/foreign-trade-151022/

財務省が21日発表した9月の貿易統計(速報、通関統計)によると、衣類・同付属品輸入額は3903億3800万円(前年同月比4・2%増)で4カ月連続増となった。主力の中国が前年並みにとどまったが、ASEAN(東南アジア諸国連合)が大幅増となった。

中国からの衣類・同付属品輸入額は、2765億5400万円(0・1%増)となった。一方、ASEANは前年を大幅に上回る786億8100万円(20・4%増)。総輸入額に対する構成比率は20・2%。前月に700億円を初めて超えたが、800億円の大台も目の前に迫ってきた。このほか、米国は17億8100万円(3・3%減)、EU(欧州連合)は150億4500万円(1・8%減)、アジアNIES(新興工業経済地域)は12カ月連続減の18億5500万円(23・6%減)だった。


とある。

衰退しつつあるといわれる中国生産が微増でほぼ現状維持、アセアン生産は大幅増である。
米国とEUは減少している。

個人的には今後は中国生産が悪くて微減、基本的には現状維持、アセアン生産は今後大幅に伸びると考えている。
日本製は見かけのブームに反して良くて現状維持、悪くて減少するのではないか。
今後、生産はさらにアセアンに流れると見た方が確実だろう。

とはいえ、これでも筆者は国内生産をそれなりに応援している部分もある。
せっかくの追い風(見せかけのブームにすぎなくても)があるのに、40年前のメンタリティのまま「定番品をたくさん縫いたい」なんてことを言っていてはもったいないと思うのである。
もうそんな美味しいオーダーはどこからも来ないのだから。

「待ちぼうけ」という童謡がある。

これは韓非子の守株待兔(しゅしゅたいと)を下敷きとしている。

ある日、農夫が野良仕事をしていると、突然走ってきたウサギがキリカブに頭をぶつけて死んでしまった。
農夫は労せずウサギの肉を手に入れることができた。
そこで翌日から農夫は野良仕事を止めて、ひたすらウサギがぶつかるのを待ったが、そんな幸運なことは二度と起こらず、野良仕事をさぼった農夫は損害を被った。


という説話である。

40年前の「定番品を大量に」という美味しいオーダーをいまだに待ち続けている縫製工場はこの農夫と同じである。

韓非子 (第1冊) (岩波文庫)
韓 非
岩波書店
1994-04-18



韓非子解題
小柳 司気太
2013-10-21





廃業できる企業はある意味では幸せなのかもしれない

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 その昔、「千円札は拾うな」という本を読んだ。
経営破綻したワイキューブの元社長・安田佳生さんが書いた本で、発行当時ビジネス書としてはかなりのベストセラーになった。

参考になる部分と、まるで参考にならない部分があったというのが感想である。

2011年にワイキューブは経営破綻するのだが、この本はそれ以前に書かれている。
社員専用バーを作ったとか、将来的には電車通勤を廃止してタクシー通勤にしたいとか、社員のモチベーションを上げるための支出構想が書かれていたのだが、バブリーな生活とは無縁の筆者からすると恐ろしい無駄遣いに思えた。
倒産の一報を聞いたときにも当然だろうと思った。

その後のインタビューでは社員バーは何度も報道され、それによって知名度が上がり成約が増えたそうなので結果的には成功したといえるだろう。まあ、こういう金の使い方もあるということだが、狙ってできるものではないから、付け焼刃で真似ることは危険だろう。

この本の中で同意できた箇所があった。

どういう内容かを要約する。

先祖代々の個人商店を経営している友人が不眠不休で働いていて、アドバイスを求められた。
この友人の店の経営状態は悪い。
そのときは「さっさと廃業するなり、商売替えをしたらどうか」と勧めた。
当然、その友人は「先祖に申し訳ない」と怒ったが、安田氏によると、先祖が仮に死後も意識を持っていたとして、自分の子孫が不眠不休で働いて苦しんでいるのを良しとするだろうか。
先祖なら苦しんでいる自分の子孫が廃業なり商売替えなりすることに対して、それを怒らないのではないか。
だからさっさと廃業か商売替えしろ。


という内容である。

少し冷たいとも感じるし、その友人が先祖に申し訳ないと思う気持ちも理解できるが、どうしても自分の手に負えなければ廃業するか商売替えをした方が良いのではないかと思う。

繊維業界にはそれこそ先祖代々とは言わないまでも何代か続いた製造・加工業者が多くいる。
その経営を上向かせるために奮闘するのは理解できるが、どうしようもなくなった場合は廃業なり倒産なりさせるのが正しいのではないかと思う。
年金暮らしができない年齢なら商売替えするのも正しいやり方だろう。

創業が古い中小企業は我が国には多いが、だからといってすべての企業が未来永劫続くわけではない。
どこかで市場から退場している。そうでなかったら、巷にはもっと中小企業が溢れている。
歯を食いしばってやり抜くことも必要だが、限界だと感じたらあきらめることも必要だろう。

先日、浜松産地の山文の廃業が報道された。


セルビッジ生地大手の山文が高齢化を理由に廃業、シャトル織機120台は海外に
https://www.wwdjapan.com/business/2015/10/09/00018287.html

静岡県浜松市のテキスタイルメーカーの山文が来年3月で廃業する。同社は耳付きのセルビッジテキスタイルを織るためのシャトル織機120台を所有しており、デニム以外のシャツ地やジャケット地向けのテキスタイルでは日本で最大級のセルビッジのテキスタイルメーカーだった。船野泰弘・社長は廃業の理由を「本当は10年前に廃業する予定だったが、従業員や取引先の要請で続けてきた。私も78歳だし、従業員が60歳を超えたので廃業を決めた」と語る。

「われわれのような中小企業にとって繊維で生き続けることは容易ではない。60年間シャトルに特化したことで、なんとかやっては来れた。だが正直言ってそれほど儲かる仕事でもなく、後継者を育てるのは無理だった」という。120台のシャトル織機はすでに売り先が決まっており、業者を通して東南アジアの繊維メーカーへの売却が決まっている。「織機の処理は一括して業者にお願いしたが、聞くところによると日本よりも海外の企業の方が、引き合いが強かったようだ。海外の企業からは技術指導もセットでと言われたが、もう年なのでさすがにそれは無理。最後まで迷惑をかけず、ここまで事業をやってこられたのは奇跡。取引先や従業員に感謝したい」と語った。


とある。

これに対してはさびしいとか悔しいという感想があちこちで聞かれる。
筆者にもそういう思いはある。ただし山文さんとは面識はないので一般論の域を出ないのだが。

しかし、それだけではなんの解決法にもならないし、それを言い続けることは単に感傷をぶつけ合うに過ぎないので何の意味もないと感じる。

じゃあどうしてシャトル織機を譲り受けたいと申し出る国内企業がいなかったのか。
じゃあどうして若手従業員が入社しない、もしくは在籍し続けなかったのか。
じゃあどうして山文に事業譲渡を依頼する国内企業がいなかったのか。

若年層も他の国内企業も繊維製造業が儲からない、魅力がないと感じているからではないか。
まあ、実際のところまさしくその通りなのだが、そういう業種は市場から退場させられても不思議ではない。

逆に「廃業したいけど金がないから廃業できない。倒産させることになる」という産地企業は多い。
言ってみれば、山文は廃業できるだけまだ幸せである。
それだけの資金が手元に残っていたということだから。

業界内からは「国内の繊維製造・加工業を守れ」という声がけっこう大きく聞こえる。
その意図は理解できなくはないが、自立できなくなった企業を国や行政が手厚く保護する必要があるとは個人的には思えない。
繊維業界だけがなぜそういう手厚い保護を受ける必要があるのかも理解できない。
国益という点から考えれば、もっと手厚く保護しなくてはならない業界・業種はほかにもっとある。

ダーウィンの進化論ではないが、時代に適応できなくなった種は滅びるしかないのである。
もし事業に行き詰ってしまったなら先祖代々であろうと、すっぱり手放すのも立派な一つの選択肢ではないか。

千円札は拾うな。
安田 佳生
サンマーク出版
2012-07-01



千円札は拾うな。 (サンマーク文庫 B- 112)
安田 佳生
サンマーク出版
2008-08-05






私、社長ではなくなりました。 ― ワイキューブとの7435日
安田 佳生(やすだ よしお)
プレジデント社
2012-02-28


安い商品が集客しやすいことは不変の事実

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 基本的に安売りは集客しやすい。
これはいくらモノヅクリガーの人たちがわけのわからん屁理屈をこねくり回したり、偽善クサイ物語をでっち上げたところで、変えることができない事実である。

今日もその実例が報道されている。

 
マックハウス、12年ぶりに客数が増えたワケ

「3ケタ商品」と「店舗改革」が奏功
http://toyokeizai.net/articles/-/88689

集客の目玉は、「低価格プロジェクト」と銘打って3ケタ商材(1000円未満)にこだわった、低価格商品の大量投入だ。白土社長は「SPA、ファストファッションの競合店に負けない価格設定の商品を、大量投入できた」と自信を示す。「リアルスタンダード」や「フリーネイチャー」などのPB(プライベート・ブランド)商品を中心に、290円(税別)のキッズTシャツやメンズ、レディスの低価格シャツが売れた。採算度外視の単なる安売りではなく、低価格プロジェクト全体で粗利率50%を確保できているという。

990円(税別)で限定発売したストレッチジーンズは、価格訴求だけでなく価値訴求も徹底。


とある。

まあ、ここでは生産体制に対するあれこれは議論の対象とはしない。
この価格で粗利率50%を確保しているのだからどれほど工賃が安いかは少し想像するだけで容易にわかる。

990円でそこそこに品質の良いストレッチジーンズがあって、それを周知拡散できれば、それなりの集客はできる。当たり前のことだ。
990円とバカにするが、100人に売れれば10万円の売上高になる。
1店舗で平日10万円を売れる洋服店がいまどきどれくらいあるか。
そして上手く集客できれば1日100人に販売することは不可能ではない。

品質が良くて価格の安い商品を集めるというのは、店舗としては有効な手法であることはマックハウスの例を見ても異論の余地はない。

自店をそういう風に割り切って品揃えするのも一つの経営手法である。
そういうやり方が好きか嫌いかは別として。

じゃあ、高く売るためにはどうしたらよいのか。

筆者は個人的に、某有名デザイナーが言うように「安い物は誰かが泣いている」という情緒に訴える手法は嫌いである。そういう某有名デザイナー自身が外資系低価格SPAとコラボをしているのだから、何を言っているのかと思う。
それにその低価格商品を生産することで生計が成り立っている人だって存在する。

じゃあ、国内工場を使っている中価格帯の国内ブランドは人道的な取引をしているかというとそんなことはない。
1枚200円とか150円でカットソーを縫ってくれと依頼するブランドなんて掃いて捨てるほどある。
全1500枚で利益が1枚当たり50円しかないオーダーをしてくるブランドもある。

グローバル低価格SPAブランドのやり方を非難できる資格がどこにあるのだろうか。

それはさておき。

高くても買ってもらえるようなブランド、店にするにはどうすれば良いのかということを業界こぞって考え始めているのが、この15年間ではないだろうか。

90年代後半ならそれはタレントとのタイアップ、ドラマへの衣装提供だった。
あのタレントが着ているから(実際の私服ではないから今から考えるとお笑い草だ)という理由で茶色いレザーダウンジャケットとか水色のリュックが飛ぶように売れた。

2005年以降この手法はあまり効果的ではなくなった。
多くの消費者がタイアップでの着用はプライベートの着用とは異なるということを理解したからではないかと思う。

メイドインジャパンを全面に打ち出すことか?
今、これを多くのブランドがやろうとしている。
産地企業もやろうとしている。

たしかにメイドインジャパンは価値の一つではあるが、メイドインジャパンなら何でも売れるかというとそんなことはない。
デザインが不細工で価格が高くて品質が悪ければいくらメイドインジャパンでも売れない。
わざわざそんな商品を買いたい消費者なんていない。
筆者ならこんなメイドインジャパン商品は絶対に買わない。

逆にデザインが良くて品質も高くて価格が安ければ中国製だろうとアフリカ製だろうと売れる。

トレンドを素早く取り入れることだろうか?
その手法を多用して同質化を招き、パクリ合戦を激化させたのが現在ではないか。
それに外資系グローバルSPAにその勝負で勝てるのか?

機能性だろうか?
たしかにこれはある程度有効かもしれない。
機能性繊維は高機能になればなるほど高価格になるから必然的にこれを使った洋服の価格も高くなる。
しかし、よほどの数量を生産しない限り、高機能繊維とモノポリーを結ぶことはできない。
モノポリーを結べないということは、機能的には同質化が起きやすいということである。
あちこちのブランドからほぼ同じ価格で同じ機能の洋服が発売されるということになる。

これらを越えた取り組みが必要だということは多くの人が気が付いている。
そのやり方を模索している段階だといえるだろう。

もしそのやり方を見つけたブランドやショップが増えたときに、もしかしたら国内のアパレル産業は次の段階へ登れるのかもしれない。まあ、これは甘い夢想かもしれないが。


ただし、見つけられない場合は、国内のアパレル産業はますます沈むだろう。
現在の業界はそんな瀬戸際にあるように感じるのだが、いささか杞憂が過ぎるだろうか。








 



今後も残れる国内の製造・加工業者は一部にすぎない

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 先日、繊研新聞にこんなコラムが掲載された。

国内縫製工場とアパレル側との立場が端的に示されている。

客寄せパンダ
http://www.senken.co.jp/column/eye/panda1014/

取材先の国内縫製工場を大手量販店のバイヤーが久しぶりに訪れ、「服を作って欲しい」と言ってきた。しかし、その縫製工場は量販店が要求する大ロットを生産する能力はない。それでも「何とか縫ってくれ」と懇願された。

 理由は「店頭で国産を打ち出したい」から。どうやらオーダーに継続性はなく、いわゆる〝客寄せパンダ〟の発想で国産フェアをやろうというものだった。海外生産に目を向けていたのに、円安になって急に戻ってきて、しかもスポットの仕事。その経営者ははっきりと断った。気持ちは痛いほど分かる。

 ただし、継続的なオーダーがあれば仕事を請けていいのか、疑問が残る。最初は少ない仕事から始まり、徐々にその量販店からのオーダーの比重が増え、最終的に専属になる可能性もある。そうなると次第に工賃抑制の圧力が強まる。コストが合わずに断ると仕事を減らされる。最悪、全て切られる可能性もある。

 国産を守る意識を前提に、適正工賃で継続的に仕事を出す気があるか。そこを見極めないといいように使われるだけになってしまう。


とのことで、短文なので全文を引用した。

ここでいう量販店とは、イオンやイトーヨーカドーなどのGMSなのか、ユニクロや青山のような専門量販店なのかはっきりわからない。
しかし、どちらにしてもあの店頭単価と生産数量を国内縫製工場が受けられるはずがない。
スポットならなおさら断るべきだし、継続的なオーダーでも断るべきだろう。
もし受けるなら「うちの生産キャパはこれだけ。これ以上の枚数は受けられない」と宣言して数量限定で受けるのがベストである。

それにしても安易な国産衣料で客寄せができると考えている量販店も相当におめでたい。(笑)
もしこれがGMSだとするとそんな安直な発想しかできないから業績が悪化するのである。


さて、記者の指摘はもっともであるが、「国産を守る意識」なんて量販店にあるはずがない。
それを期待する方が間違いである。

じゃあ、中価格帯以上のアパレルブランド、百貨店はどうかというとこれも極一部を除いて「国産を守る意識」なんてないだろう。

多くのアパレル、流通業者にとって洋服の縫製地なんてどこでも良くて、品質が良くて工賃が安い国が最適だと考えているのが実情である。

そういえば、いわゆる中価格帯のドメスティックブランドのOEMを手掛けたことのある業者は、商品未引き取りや不当返品、不当値引きなんて普通にされたというし、1500枚のオーダーで1枚当たりの利益が50円しかなかったということもあった。

工場へのこういう仕打ちはつい最近始まったのではなく、20年も30年も前から何も変わっていない。


だから縫製に限らず、国内の製造加工業者は自衛するほかない。
十分な工賃が見込める中価格帯以上のブランドと組むか、自社オリジナル製品を開発してそちらで利益を得るかである。
もちろんどちらの道も一朝一夕にはいかない。

また運良くそういう取り組みが成功をおさめたとしても10年後~20年後には後継者問題が浮上する。
後継者が得られなければその時点で良くて廃業、悪くすれば倒産になる。
まあ、こちらはまた別の問題になるのだが。


さてこのコラムを書いた記者の懸念、指摘はまさしくその通りなのだが、工場側はこんなことを今更新聞社から言われねばならないほど、現状を把握していないのかと疑問を感じてしまう。

最初は少ない仕事から始まり、徐々にその量販店からのオーダーの比重が増え、最終的に専属になる可能性もある。そうなると次第に工賃抑制の圧力が強まる。コストが合わずに断ると仕事を減らされる。最悪、全て切られる可能性もある。

こんな状況は今に始まったことではなく、何十年も前から続いている。

少なくとも業界紙記者になった18年前にも掃いて捨てるほどあった。
80年代、70年代のことは見聞きしていないが、おそらくあっただろう。

仮に18年前から始まったとすると、各工場はこの18年間で何を学んだのだろうか。
同じ目にあって潰れた同業他社も多数見聞きしてきたはずだが、その時に何も感じなかったのだろうか。
なぜ、18年も時間があったのに自衛に乗り出すなり、廃業するなりを選ばなかったのだろうか。
時間も研究事例もたっぷりあったはずである。

またメディア側も工場を被害者的にいつまでも扱い続けるのが良いのだろうか。
20年近く何の対策もしていないのは自己責任ではないのか。

以前、地方で製造加工業に携わっている人から「地方には金も知恵もない」と言われた。
まあ、個人的な感想をおっしゃったのだと思うが、そんなメンタリティが主流であるなら、今後、地方の製造加工業者が生き延びることは不可能だろう。

知恵がないなんて開き直られても「じゃあどうぞ廃業か倒産してください」としか言えない。
ましてや「金もない」んだから、さまざまな業者に対策を練ってもらうことすらできない。
「ご自分で何とか考え付いてください。ぼくらは知りませんよ」と言うほかない。

将来的には、一部の意欲ある製造加工業者だけが残って、他はなくなる。
これがもっとも現実的な未来像だと確信している。








製造業が日本を滅ぼす
野口 悠紀雄
ダイヤモンド社
2012-04-06







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