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南充浩 オフィシャルブログ

百貨店がSPA化できない理由

2017年12月1日 企業研究 0

百貨店の自主企画商品は過去に何度も挑戦されているが、なかなか成功しない。
https://senken.co.jp/posts/mete-171128

大手百貨店が拡大した自主商品開発は、何をもたらしたのだろうか。先行した三越伊勢丹、そごう・西武は拡大路線から一転し、この一年で整理・縮小して収益重視を徹底する。

とのことである。
そもそもなぜ百貨店がSPA化を目指したのかというと、昨年夏にインタビューした三越伊勢丹HDの大西洋・元社長は次のような意味のことを語っていた。

「大手アパレル各社が業績不振によって大規模な生産調整を行った。その結果、商品供給量が減り、都心旗艦店は別として地方の小型店にまで商品が供給できなくなり、売り場が埋まらなくなった」

売り場にスペースを開けるわけにはいかないから、例えば近鉄百貨店あべのハルカス本店ウイング館のように、「お客様なんたらカウンター」みたいなものを設置するというのも一つの手だが、「なんたらカウンター」ばかりの売り場になるのも極めて不格好である。
そうなると、量の多寡は別として、自主企画商品を開発するほかない。
また大西・元社長は、売り場を埋めること以外にも、現在の「洋服小売業」ではこれ以上の成長が望めないから、「卸売業」にも進出したいという考えがあり、自主企画商品を他社へ卸したがっていた。
伊勢丹の婦人靴PB「ナンバー21」は他社にも卸売りを行っているので、この考えのモデルケースだといえる。
一方、そごう西武が自主企画商品を強化した理由は、「売り場が埋まらない」というところは共通だと思えるが、卸売業への進出ではなかったと思う。
そごう西武は大手百貨店グループの中でもっとも決算内容が悪い。
しかも残念ながら現在のステイタス性も低い。
そういう百貨店が卸売業なんて模索するはずもなく、開発の理由は収益性を高めるためだろうと考えられる。
自主企画商品は安値で売っても利幅が大きい。この開発に成功すれば、理論上は利益面は大きく改善できる。
それが最大の眼目だったのではないかと個人的には見ている。
しかし、両社とも自主企画商品の開発はすんなりとは行っていない。
三越伊勢丹には「ナンバー21」という成功事例はあるものの、後続商品が表れていない。
そごう西武のリミテッドエディションは空振りが続いている。
先の記事では失敗の原因について

要因の一つは、生産から販売までのサプライチェーンを構築できなかったことだ。産地の構造や素材、縫製など物作りを理解せずに、生産、納期管理は取引先任せだった。買い取りでありながらも返品や未引き取りが横行し、在庫を抱えて撤退を余儀なくされた。



と指摘しているが、原因はこれだけではない。
そもそも百貨店には商品企画・商品デザインのノウハウがない。
大手セレクトショップ各社も同じだが、彼らには優秀なベンダーと優秀な企画屋がバックに付いている。
百貨店各社にそれはない。
だから「企画」が失敗する。
生産管理のノウハウもないだろう。
またマーチャンダイジングのノウハウも持っていないのではないかと推測される。
マーチャンダイジングは日本語では「商品計画」と訳されるが、商品の計画だけを立案していれば良いというものではない。
在庫の管理、利益の管理、天候や社会情勢への柔軟な対応が求められる。
今の百貨店平場で「真の意味」でのマーチャンダイジングができている店があるだろうか。
当方の知る限りにおいてはない。
管理できているとしたら、商品の投入時期と、帳簿上の利益率の確認程度だろう。
商品の投入時期はこれまでの小売業の慣例に従っていることが多く、お盆明けに秋物の本格立ち上げ、10月21日に防寒アウター投入という具合で、これは20年以上前からまったく変わっていない。
「販売員付き消化仕入れ」という仕組みにドップリ漬かりすぎて、そういうマーチャンダイジングは長らく手掛けてこなかった。年配社員ができないものを新人に教えることはできないから、百貨店の新人がこれを身に着けられる機会は永遠にない。
サプライチェーンなんて今の百貨店に構築できるはずもないし、構築できたところで、企画やマーチャンダイジングのノウハウがまったくないのだから、どっちにしろ在庫の山が積みあがったという結果は変わらない。
逆にサプライチェーンを構築できれば売れていたと考えているのなら、その発想そのもののナンセンスさに驚く。
工場のおっさんと同列の考え方である。
企画が良くない商品をいくらたくさん作ったって売れるはずもない。
また真の意味での商品計画が機能していなければ、売れるはずもない。
そごう西武のリミテッドエディションが成功しない理由は、「カール・ラガーフェルド」などの超一流デザイナーとのコラボが原因ではないのか。
最近、百貨店に限らず「コラボ」流行りだが、成功するコラボと失敗するコラボがある。
その相違点はなんだろう。失敗するコラボには確実に共通点があると思うのだが、いずれ別の機会で考えてみたい。
ただ、そごう西武のコラボの場合、今の日本の消費者にとって、欧米の超一流デザイナーとのコラボというのはそんなに魅力的に映らないのではないか。自分たちの日々の暮らしとまったくかけ離れた印象を与えているのではないかと思う。
あくまでも仮説だが、そういう超一流デザイナーとのコラボよりも、例えば「上質なレザーを30000円で」とか「モンゴル奥地から取り寄せた高品質カシミヤを3万円で」とかそういう「高品質・割安感」商品の方が、今の消費者には響くのではないかと思う。
いかがだろうか?
それにしても先ほどの一節にはもう一つ驚くべき箇所がある。
「買い取りでありながらも返品や未引き取りが横行し」という部分である。
これは明らかに法令違反だ。
下請け法違反で摘発されるべき案件だ。
これが事実だとしたら百貨店は法令違反集団だといえる。
それにしても、衣料品に関してはイオンやイトーヨーカドーなどの大型量販店も自主開発商品は上手く行っていない。
百貨店も量販店も無理に衣料品にこだわり続ける必要はないのではないか。

NOTEを更新~♪
三越伊勢丹HDが「ケイタマルヤマ」を手放す理由とは?
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n06274a064cba
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https://www.instagram.com/minamimitsuhiro
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