7月3日発行の日経ビジネスに書評を寄稿した。

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書評にはフォーマットがあって、3冊を紹介せねばならず、おまけに文字数は合計で1300字弱である。

1冊は日経BP社の「誰がアパレルを殺すのか」に難なく決まったが、残り2冊が決まらない。
そこで、尾原蓉子著「創造する未来」(繊研新聞社)と大村邦年著「ファッションビジネスの進化」(晃洋書房)を選んで、急ピッチで読んだ。

その感想でもまとめてみたい。

「ファッションビジネスの進化」だが、大学の論文形式で各章が書かれている。
著者が関西アパレルに造詣が深いようで、従来の東京中心の論説とは少し毛色が異なる。
工場の自立化の一例として、大阪府松原市の靴下工場「コーマ」の自社オリジナルスポーツソックス「フットマックス」を採り上げているのはなかなか良い選択だと思う。

東京中心の従来の論説だと採り上げる企業はステレオタイプである。

佐藤繊維だとか、ファクトリエだとか、久米繊維だとか、ラインナップが定番化しており、読むほうも「またか」という感想しか持てない。

「創造する未来」だが、昨年秋に発行され、一部の業界人から高い評価を得ている。
しかし、個人的にはそんなに感銘は受けなかった。

米国の先進事例がふんだんに紹介されており、その部分についてはそれなりに価値があると思うが、著者が高く評価している企業が必ずしも好調ではないから、その判断基準が理解できない。

たとえば、メイシーズやJクルー、アンソロポロジー、配車サービスのウーバーあたりを高く評価しているが、この本が出た時点で、メイシーズやアンソロポロジーは絶不調から大規模閉店に追い込まれていたし、Jクルーも巨額の赤字に陥っており、今現在も巨額赤字に苦しんで、ドレクスラーすら引責辞任に追い込まれてしまった。

また配車サービスのウーバーはたしかに斬新なアイデアではあるが、赤字経営が続いており、極めて脆弱であり、このまま成長できるかどうかは不透明だと感じる。

尾原蓉子という人はこれらの何に高い評価を下したのか理解に苦しむ。

ベンチャーであるウーバーに対する評価は各人で別れるところだから、除外するとしても、メイシーズ、Jクルー、アンソロポロジーへの高評価は理解できない。

Jクルーなんて「復活」なんて騒がれていたのが一転して巨額赤字計上に陥っている。
恐らく、これまでの「復活」は不良在庫を帳簿上では資産計上していて、それが溜まりに溜まって、どうしようもなくなって一転して赤字計上したと考えられるから、その経営姿勢は到底褒められたものではない。

そんな狡すっからい手法で良ければ、我が国の苦戦中の大手アパレルだっていくらでもできるだろう。

また、米国のミレニアル世代を好意的に解釈して、この世代が世界を変えるというような内容を書いているが、果たしてそうだろうか。

米国は変わるかもしれないが、我が国は変わるとは思えない。
なぜなら、我が国のその世代は米国と異なり人口が少ない。
人口が少ないから、消費に対する影響力が小さい。

米国と同じ背景ではない。

それを同じだとして論ずるのは主観以外の何物でもない。

また、我が国では東日本大震災以降、社会が変わったという説を書いているがこれも疑問だ。
首都機能の移転分散はまったく進んでおらず、反対に東京一極集中がさらに進んでいる。
はっきり言って何も変わっていない。綺麗事論者が期待するようなことは起きていない。
じゃあ、95年の阪神大震災では何か変わったのかと尋ねてみたい。

例えば、ノマドという言葉で有名になった某女性がいるが、この某女性は現在ノマドでもなんでもなく、さっさと大学の講師だか職員として就職してしまっている。
ノマドどころか立派な定住者である。

ノマドブームが如何に薄っぺらくて上っ面だったかということがわかる。
提唱者自体があっけなく就職を選んでいるのが現実である。

また、この著書では「人間らしく」とか「人間らしさ」が次の消費のキーワードになると何度も書かれているが、果たしてそうだろうか。
だいたい何をもって「人間らしい」と言っているのか。
情緒的過ぎてまったく共感できない。

米国の先進事例を紹介するという価値はあるものの、それ以上の価値はちょっと見いだせなかった。

個人的な意見を言うなら、この尾原蓉子という人は80年代・90年代からずっと第一線としてファッション業界の中心にいた。
そんな人が今更、「我が国のファッション産業は変化できなかった」みたいに他人事として評論するのはどうかと思う。当時からその産業の中心にいた人が何を言っているのかと思う。

同じ傾向を感じるのが、現在クールジャパン機構の社長を務める太田伸之氏である。
ずっと90年代から要職を歴任してきて、今更何を他人事のように業界を批判できるのかと思う。

東京コレクションの在り方を3年位前に批判していたことがあるが、長らく東京コレクションの中心にいたのもご自身だし、つい先日は、日経ビジネスで百貨店について批判していたが、松屋百貨店の常務を長らく務めたのもご自身であり、百貨店は旧態依然だというなら、常務でありながら改革できなかった反省くらいは述べるべきではないかと思う。

逆に、いまだに尾原・太田両氏の意見を金科玉条のごとく採り上げるというメディアの姿勢も旧態依然でまったく変化が見られない。

アパレルは斜陽産業だが、メディアも同じく斜陽産業であり、メディアの旧態依然ぶりはアパレルに勝るとも劣らない。

業種・業態にかかわらず、斜陽産業というのは、メンタリティが似通るということか。

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石井 茂
日本経済新聞出版社
2017-06-02