繊維製品の生産拠点が国内から海外へと急激に移転したのは90年代である。
90年代前半のバブル崩壊がその傾向に一層拍車をかけた。

縫製分野は顕著で、現在、国内で流通する衣料品の数量ベースでは3%が国内製で、金額ベースだと26%くらいが国内製である。

また生地生産、染色加工、洗い加工も海外移転が進んだ。

こうした動きについて、いわゆる「良心的ファッソニスタ」あたりからは、大手商社や大手ブランドが血も涙もないコスト削減目的だけで製造加工業のアジア移転を進めたといわれているが、それは一面的な事実でしかない。

実は、80年代後半とか90年代前半に、いち早く、国内製造加工業者自身がビジネスのメリットを追求して、自らアジア地区へと進出したケースもそれほど珍しくない。
だから、製造加工業の海外移転は、商社や大手アパレルだけの原因ではない。

ここの部分の認識を間違えると、商社や大手アパレルだけが悪者で、製造加工業者は無力な被害者という事実ではない構図しか描けなくなってしまう。

自由な経済活動という思想に立脚して、利潤の追求を目的として自ら、中国をはじめとするアジアへ進出した製造加工業者もあったということを忘れてはいけない。

旧大手のジーンズアパレル企業は自社で縫製工場を抱えていたところも多かったが、例えば、ベティスミスも90年代に中国の張家港に自社縫製工場を設立している。
もう手放してしまったが、ビッグジョン、ボブソンも90年代には中国に自社縫製工場を所有していた。

大手洗い加工場の西江デニムもすでにかなり前から中国に進出している。

最近だと、デニム生地工場のカイハラがタイに自家工場を設立した。

中国からのタオル輸入が急増して、2001年ごろに、タオル産地が一丸となって、輸入制限のセーフガードを発動してもらうべく、国会へ陳情団を繰り出すことがあった。
結果的にセーフガードは発動されなかったが、あるベテランのコンサルに言わせると、「初めからセーフガードが発動される可能性はなかった」という。

その理由は、すでにタオル産地の中にも早くから中国へ進出して工場を設立している企業が何社もあったからである。

セーフガードが発動されて輸入制限されれば、彼らは自分で自分の製造物に制限をかけてしまうことになる。
だから、そうした業者からは反対ないし、静観という意見が出るだろうから、政府としても発動させにくいということになる。

すでに2001年の時点で、国内産地は一枚岩ではなく、中国進出組も相当数存在したということである。

もちろん、中国をはじめアジアへ進出して失敗した製造加工業もあるだろうし、成功した製造加工業もあるだろう。
そんなものは時の運と経営者の采配の良し悪しによっての結果でしかない。
進出そのものが「悪」だったのではない

「良心的ファッソニスタ」は基本的に左巻っぽい思想の人が多いが、こと国内の製造加工業者に関すると「産地を守れ」とか「低価格海外品を排除しろ」という保護主義・国粋主義を唱えることが多く、思想に統一性をまるで感じない。

自由主義経済において、製造加工業者が国内での操業にこだわるのも、利潤と拡大を目的に海外へ進出するのも、どちらも尊重すべきであり、規制することはできない。

個々の企業経営者の判断を尊重し、ビジネス的にどのように付き合うかを考えるだけのことである。

一方的な「製造加工業者は無力な被害者」という見方は、製造加工業者側にとっても、それらと取り組むブランド側にとっても、有益なことは何一つない。

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