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南充浩 オフィシャルブログ

先進国で繊維の製造加工業が減るのは当然

2017年5月29日 産地 0

 日本の繊維製造加工業を守れという声があるが、結論からいうと、今ある事業者数すべてが残ることは不可能である。ただ、ゼロにはなることもないと思う。
事業主が「生き残りたい」「今の事業を続けたい」と強く思わない製造加工業は消えることになるだろう。

繊維の製造加工業が大規模に残れるかどうかというのは、日本だけの問題ではなく世界的な問題ではないかと最近思うようになった。

例えば、ジーンズやTシャツで重宝がられていたアメリカ製衣料やアメリカ製生地だが、近年はほとんど見かけなくなった。アメリカの繊維製造加工業はゼロにはなっていないが、かつてほどの規模では残っていない。

中国も経済発展を遂げたため、ほかに実入りの良い仕事が増え、縫製工場や織布工場、染色加工場などには工員が集まりにくくなってきている。

代わって東南アジア諸国やインドに工場が増えている。
これらの国は現在、経済発展段階にあり、経済発展の第1段階として繊維などの軽工業に注力するのは常道である。
その次に重化学工業で発展し、最後はサービス業へと移行する。

イタリアには例外的に繊維の製造加工業が多く残っているといわれているが、以前にもこのブログで紹介したように、工場の経営自体を中国企業に売り渡しているケースが増えているし、そういう工場は工員のほとんどが不法滞在者も合わせた中国人になっている。

となると、ある程度の経済発展を遂げると、その国の国民は就職先として繊維の製造加工業を選ばなくなるということがいえるのではないかと思う。

どうして選ばなくなるかというと、給料が高くない、作業がキツイなどの理由があるのではないか。

「日本製3%」で沈むアパレル工場が生き残る道
3Kの印象変えよ!ルンバ導入の次世代工場も
http://toyokeizai.net/articles/-/173418

ファクトリエのポジショントークが半分くらい入ったいつもの記事だが、これをベースに考えてみたい。

日本製衣料は3%といわれるが、それは数量ベースの比率であり、金額ベースだと26%前後で残っている。

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/seizou/apparel_supply/pdf/001_03_00.pdf#search=%27%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%A3%BD%E8%A1%A3%E6%96%99%E5%93%81%E6%A7%8B%E6%88%90%E6%AF%94%E9%87%91%E9%A1%8D%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B9%27

この経済産業省の報告書の3ページ目に示されている。
2012年時点で27%が日本製比率である。

たしかに環境整備は必要だし、それなりに有効だといえる。
しかし、自分が見学した工場はかなり綺麗に整備されているところが多い。
それにもかかわらず、人が集まらないというのは環境が美化されていることだけでは足りないからではないか。
ルンバなんて買ったって焼け石に水であろう。

人が集まりにくい最大の理由は、給料が安いからである。
工賃が安いから給料が安くなる。そういう構図であり、工員が年金生活者ばかりだから、プラスアルファの格安の給料で何とかやりくりしている工場はめずらしくない。

ここが改善されないことには若い人が集まることはない。

じゃあ、どうすれば改善できるのかというと、これがなかなか難しい。
筆者ごときでは解決できない。

工賃を上げて、上げても売れるような製品やサービスを作るしかない。

これが大前提だが、全業者が一斉に同じことはできないし、やったところで脱落してしまう業者も数多く出現するだろう。
結局、個々の工場が目標に向かって試行錯誤を繰り返しながら地道に取り組むほかない。

救世主みたいな人が現れて一挙に全工場を救ってくれることなどありえない。
神風が吹いて急に工場が儲かるようになることもない。

そんなもんを期待するのはおバカさんだけである。

個人的には

1、凄腕工場になって確実に受注先を増やす
2、自社製品開発を成功させる
3、直営店まで構築してSPA化する
4、強いブランドと密接に取り組む

くらいのことしか考え付かない。

その中でも4になってしまうと危険性も高まる。

ある強力なブランドのみと取り組むと、そのブランドの売れ行きが陰ればもちろん打撃を受けるし、そのブランドが何年か後に取引先を変えてしまえばこれも打撃を受ける。
かつて、ユニクロの仕事のみ注力した(させられた)国内工場が、何年か後に製造先を変えられて多数倒産したことはそれを証明している。

1、2、3ともに言うのはたやすいが実現は困難を極める。

困難を極めるからこそ、事業主が「それでも残りたい」と強く思わなくては実現は絶対不可能である。

ファクトリエや自称クリエイターたちがいうような「美しい物語」では決して国内の繊維製造加工業の置かれている状況は好転しない。

筆者がファクトリエに対して疑問を持っているのは、提示する「美しい物語」もさることながら、現在、ファクトリエが進めているやり方は、各工場をファクトリエというブランドの下請け・専属にしているようにしか見えない点である。
もちろん、それで救われる工場もあるが、結局のところ工場の自立化にはつながらず、従属先をかつてのアパレル企業からファクトリエに変えることになるだけではないだろうか。

自称クリエイターの中には製造加工業を国が保護せよと口走る人もいるが、自由主義経済でそれはありえないし、これまで役に立ったかどうかは別にして何十年間も補助金・助成金が支払われており、これ以上の厚遇は製造加工業を特権化させるだけではないかとも思う。

国が経済発展したのちも、給料その他条件で「魅力的」と思われるような製造加工業のモデルケースを提示しないことには減少は止められないだろう。
しかし、そういうモデルケースは史上実現していない。それを史上初めて実現できたとき、先進国での繊維製造加工業への就職者数が増えることになる。

あまりに困難な課題すぎて、筆者程度の人間には到底、実現する方法も完成形も思い描くことができない。

インスタグラム始めました~♪
https://www.instagram.com/minamimitsuhiro/

誰がアパレルを殺すのか
杉原 淳一
日経BP社
2017-05-25


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