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南充浩 オフィシャルブログ

高感度高価格帯セレクトショップの成長には限界がある

2017年5月11日 企業研究 0

 企業規模にかかわらず、売上高は客単価×買い上げ客数からしか生み出されない。

売上高を拡大しようと思えば、客単価か買い上げ客数か、その両方かを上げなくてはならない。

高価格帯は必然的に客単価も買い上げ客数も上昇限界点は比較的すぐに来るし、低価格帯は客単価アップはあまり望めないものの、買い上げ客数はかなり増やすことができる。

ユナイテッドアローズの今回の決算発表は、高価格帯衣料品の限界点というものが露呈したのではないかと感じられた。

今後の成長エンジンとして、UAは中価格帯のグリーンレーベルリラクシングと低価格帯のコーエンを拡大させるという方針を打ち出している。

UAの新中期ビジョン GLR、コーエンを拡大
https://senken.co.jp/posts/united-arrows-new-medium-term-vision

ちなみに2017年3月期連結は売上高1455億3500万円(前年同期比3.3%増)、営業利益91億6500万円(17.2%減)、経常利益94億2000万円(15.7%減)、当期利益51億9100万円(20.1%減)の増収大幅減益に終わっている。

そこでUAが次なる成長戦略として打ち出したのが、高価格帯の本体はあきらめて、グリーレーベルリラクシングとコーエンの拡大だったというわけで、WWDではもっと露骨に「中・低価格業態に軸足移す」という見出しを付けている。

このUAの判断はある意味で正しいといえる。
高価格帯衣料品の拡大には限界点が絶対にある。
富裕層の人口には限りがあるし、貧しい人は憧れても収入的に買うことが難しい。
貧しい人の中にも「万代で65円に値下がりした6枚切りの食パンを買って節約してでも毎年5万円の洋服を1枚は買う」というような人もいるが、そんな人はごく少数しかいない。到底1000億円企業の成長エンジンになるはずもない。客単価面からも人口面からも。

IMG_2849

(万代で買った65円に値下げされた6枚切り食パン)

となると、買いやすい価格帯のブランドを拡大するしか成長は望めない。

低価格ブランドなら客単価の上昇は望めなくても、買い上げ客数の大幅増加は見込める。まあ、中価格帯も高価格帯に比べれば買い上げ客数の増加は実現しやすいだろう。

高価格帯を主力としながら、売上高1000億円規模を越えれば、そこが限界で、高価格帯のままさらなる成長を望むなら、それはグローバル展開しかない。
要するに国内の人間は食い散らかしたから、全世界の人間を食うということであり、これを顕著にやっているのが欧米のラグジュアリーブランドだといえる。

あんな馬鹿高い商品は欧米では富裕層しか絶対に買わないから、国内市場ではすぐに限界点に達する。成長し続けようと考えるなら、他国の富裕層をすべて取り込むしかない。

欧米ラグジュアリーブランドには及ばないもののUAの価格帯でもほぼ同じことがいえる。

ファッション業界には売り上げ規模とか市場規模とかに無頓着なオサレさんもたくさんおられて、「他の高価格帯セレクトショップは成長できているではないか」という主張が聞こえてきたりするのだが、それは売上高が20億円とか50億円程度だから「まだ伸び代がある」というだけのことで、そのセレクトショップも1000億円を越えるならUAと同じ状況に陥ることになる。

8000億円もの売上高をユニクロが稼ぐことができたのは低価格帯だからであり、ユニクロがUAのような商品しか扱っていなかったならそこまで買い上げ客数を増やすことは不可能だった。

繊研プラスには2019年と2020年の業績予想グラフが掲載されているが、微増収微増益である。
売上高1500~1600億円くらいの推移である。2000億円にははるかに及ばない。
これは本当に冷静に推測したと感じる。

UAという高価格セレクトショップの伸び代はこのくらいしかないと思う。

しかし、個人的にはグリーンレーベルリラクシングとコーエンの成長性については疑問を感じる。

まず、グリーンレーベルリラクシングだが、価格帯が中途半端で低価格店と並ぶと見劣りする。
筆者愛用の「あべのキューズモール」の2階にグリーンレーベルリラクシングが入店したのだが、他の施設内店舗と比べるとやっぱり「高い」と感じる。

あべのHOOPにあったころにはそれなりににぎわっていたように見えるが、キューズモールに移転してからはあまり店内に人がいるのを見たことがない。

同じ2階にグローバルワークやアズールやZARAがあり、「高い」と感じられてしまう。
夏冬のセール時期は特にだ。

グローバルワークやアズール、ZARAの値下げ率、値引き率は大きく、GLRは小さい。

となると、GLRの出店場所は都心ファッションビルに限定される。
都心ファッションビルだけでそこまで劇的に拡大は難しいだろう。

次にコーエンである。

コーエンは価格的には買い上げ客数を増やしやすいが、商品内容は以前よりは向上したとはいえ、他の低価格ブランドと比べるとイマイチ特色がない。
それに低価格ゾーンはユニクロ、ジーユー、H&M、しまむら、ウィゴーなど強豪がひしめいており、顧客対象人口は多いものの、シェアを拡大することはかなり難しい。

また人材面からもUAというオサレ企業には難しいのではないかと思う。

GLRはまだしもコーエンにそこまで「高感度人材」は必要ない。
しかしUAという高感度セレクトショップに入社した人間はほぼもれなく「高感度志向」か「高感度気取り」であり、そこに人材と市場のミスマッチを感じる。
低価格市場専用の人材を多数導入しないと現状の「高感度志向」「高感度気取り」の人材だけでは難しいのではないか。

これはあくまでも個人的主観に過ぎないが、株式公開は高感度高価格帯セレクトショップという業態には不向きではないかと思っている。株式公開をすると株主からは持続的な成長を求める。これは当たり前なのだが、高感度高価格帯セレクトショップという業態では本来、対応し続けられない。

UAはなかなか厳しい舵取りが続くのではないかと思う。

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UAの信念 ―すべてはお客様のために
ユナイテッドアローズ
日経事業出版センター
2014-10-21


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