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南充浩 オフィシャルブログ

三越伊勢丹の社長解任劇で感じた百貨店従業員の認識の甘さ

2017年3月14日 企業研究 0

 三越伊勢丹ホールディングスが杉江俊彦・次期社長の会見を行った。
出席していないので、それについて書かれた記事を読んだ感想をまとめてみたい。

ちなみに三越伊勢丹ホールディングスの次期社長は決まったが、百貨店事業を手掛ける三越伊勢丹の次期社長はまだ決まっていない。

各報道とも言葉遣いや書き方には違いがあるが(書いている人が違うため当たり前)、論調はほとんど同じだ。

三越伊勢丹、トップ交代で明示された「進路」
杉江次期社長「私は構造改革を優先する」
http://toyokeizai.net/articles/-/162603

社長辞任の三越伊勢丹、新トップは「大丸流」 数値・利益重視の経営目指し、不動産事業にも意欲
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/031300619/?rt=nocnt

東洋経済オンラインと日経ビジネスオンラインの記事だが、論調はほぼ同じだ。

主要な骨子となる要素を箇条書きで挙げてみる。

1、杉江次期社長は、大西社長を支えてきた人物で大西路線を「基本的には」踏襲する
2、始まっている新規事業は当面継続するが、着手していない新規事業は再考する
3、構造改革、人件費削減を優先して進める
4、マネージメント層、管理職、役員との対話を優先する
5、おそらく百貨店事業は大西時代より重視されない

ということになる。

賛否はあったが、大西社長が新規事業を積極的に立ち上げたのは、各識者が指摘しておられるように、大規模なリストラを回避する目的があったと見られている。

百貨店という事業に人一倍の愛着を持っていた大西社長は百貨店事業を存続させるために、新規事業を多数立ち上げて事業の多角化を実現し、愛着のある百貨店事業を守ろうとしていた。
よく引き合いにだされるJフロントリテイリングは、「脱百貨店」を掲げており、各店舗内の百貨店従業員をかなり削減し、ユニクロやアダストリアなど従来百貨店には適さないとされていた低価格ブランドをテナントとして入店させている。

つい先ごろは栄の松坂屋にもヨドバシカメラをテナント入店させた。

大西社長はそのような「脱百貨店」はしたくないということを再三、過去のインタビューでも答えていたし、筆者が昨年行ったインタビューでも繰り返していた。

今回の電撃解任の理由は、労働組合とそれに同調した役員、管理職などによるものだとされていて、彼らの反発の原因は

1、相次ぐ新規事業の立ち上げによる労働強化
2、機関決定されていない地方店の縮小や業態転換などに言及した
3、地方店の縮小や業態転換への発言をリストラ解雇が始まると理解してしまった。(実際は誤解)

とされている。
個人的には、これら以外にも大西社長の持論である「スピード感重視」「危機感の強制」ということへの情緒的反発もあったのではないかと想像している。

大西社長のいう「スピード感」というのは、なんでも「早くやれ」「すぐに結果を出せ」ということではなく、即断即決、意思決定の速さ、行動に移るスピードアップということが主眼だったが、そこも誤解された部分もあるのではないか。
また、「危機感の強制」というのは、大西社長の百貨店事業への危機感というのは相当強く、筆者は「生え抜きでここまでの危機感を持つのは珍しい」と感じたほどである。

実際に、従来通りの百貨店事業を存続させようとすると、かなり難しい状況にあるし、生半可なことでは存続させることは難しい。今後は、大手百貨店も淘汰されることは目に見えており、例えば、そごう西武の決算はかなり追い込まれている。

すべてを捨てて「脱百貨店」をする必要はないが、百貨店事業を存続させるためには「何か」は変革しなくてはならなかった。

大西社長の立ち上げた新規事業や施策がすべて正しいとは思わないが、これまで通りのやり方では活路がなかったのは間違いない。

今回の電撃解任、次期社長の会見を見て感じることは、百貨店従業員の認識は恐ろしく甘いということである。
また、大西社長を引きずり降ろしたがために逆に構造改革・リストラが始まることになってしまっており、従業員側からすれば、なんというバカげた結果になっているのだろうと呆れてしまう。

ぬるま湯で保守的な体質な百貨店従業員は、急激な変化に反発を感じ、その元凶だと感じた大西社長を引きずり降ろしたが、それがかえってリストラを始めるきっかけになってしまうという結果になった。
今頃、彼らはどういう思いで次期社長の会見や一連の報道を眺めているのだろうか。

リストラを回避させるために行った解任劇がリストラ開始の引き金になっているという構図は、外野から見れば喜劇以外何物でもない。

先ほど挙げた日経ビジネスオンラインの記事にはこんな一節がある。

社内からは「経営者のタイプが変わったとしても、事業構造としてJフロントのような企業にはなるべきではなく、百貨店らしさを追求するべきだ」という声も聞こえる。

もうアホらしくて失笑を禁じ得ない。

百貨店らしさを追求したいのであれば大西社長を引きずり降ろすべきではなかったのである。
大西社長は「百貨店らしい百貨店」の存続を目指していた。計数に強い新経営者になれば、採算性の低い業態の在り方を変えられるのは当然だろう。

その程度の判断もできず、目先の現象のみに反発していた百貨店従業員というのは、本当にぬるま湯体質で危機感が欠如している。今回の一連の騒動でそれが明確に浮かび上がったといえる。

たしかに大西社長には対話や根回しが欠けていたかもしれないが、大規模リストラを回避し続けてきた。一方、次期社長は対話を重視する(と言っている)が、構造改革やリストラを先行させるのである。

従業員的立場に立つなら、どちらが自分たちにとって有利だったのか明らかではないか。

次期社長がいつごろから、どれくらいの規模で構造改革やリストラを行うのかは示されていないが、その時になって労働組合や従業員が「雇用を守れ」なんていう声を挙げてもナンセンスすぎて、外部からの支持は集まらないだろう。自分たちが望んで引き起こした結果である。

強いリーダーシップによるトップダウン方式の経営に激しい拒絶を見せた今回の電撃解任劇は、三越伊勢丹の「終わりの始まり」になるのではないかと、個人的には見ている。






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