すでにある程度の知名度を得て、ステイタス性を得たブランドは別として、新しく立ち上がるブランドはどこかに「お得感」がなくてはならないのではないかと思う。

激安品を作れということではなく、どこかのキャッチフレーズではないが「お!値段以上」みたいな商品やサービスが一つや二つは必要ではないか。

産地の製造加工業者がオリジナル製品を作ることは最早、当たり前となっているが、知名度もステイタス性もない商品を高値で売ることは相当に難しい。

そういう業者でよく見かけるのが、「全品で利益を確保したい」という姿勢である。
もちろん、企業として利益を追求する姿勢は正しいのだが、知名度もステイタス性もないブランドがすべての商品を高値で売るのは至難の業だ。
売れなければ利益確保もクソもない。

ブランドトータルで利益を得ることは当然としても、品目の中には「客寄せ」目的で儲け無しとか、下手をすると少し赤字になるくらいの「お得感」のある商品が必要ではないだろうか。

先日、東洋経済オンラインで居酒屋チェーン店の鳥貴族の大型連載があった。
なかなか読み応えのある連載だった。
鳥貴族はついに500店舗の出店を達成したことからこのような連載があったのだろうと推察される。

そんな連載記事の中でこんな箇所がある。

http://toyokeizai.net/articles/-/157686

1985年、大倉は25歳のとき、150円、250円、350円の3本立て均一料金の焼き鳥専門店「鳥貴族 俊徳道店」(約9坪、27席)を個人創業した。立地は近鉄大阪線の乗降客数の非常に少ない、俊徳道駅前商店街で、鳥貴族の第1号店である。

最初は全品250円均一にしようとしたが、ビールの原価が200円程度もして250円均一では赤字になると判断、350円均一メニューを加えた。

中略

夢は大きかったが「150円、250円、350円の3本立ての均一価格」には損をしたくないという思いがにじみ出ていた。その結果、顧客吸引力が弱く、閑古鳥が鳴く日が続いた。開業から1年数カ月間は倒産と隣り合わせの切迫した状態が続いたのである。

とある。

飲食と衣料品・繊維製品という違いはあるが、どこかの産地ブランドと似てはいないだろうか?
全品で利益を出そうとして「お得感」が全くない価格設定になってしまっているブランドをよく見かける。

とくに知名度もステイタス性もない新参ブランドでそういう売り方はかなり受け入れられにくい。

そんなときに「村さ来」創業者の本を読んだのだそうだ。

原価率の高いビールを原価で売って損を出しても、原価率の安い酎ハイを売って儲けるやり方を編み出した。「それで利益が出なくなったらビールは値上げせずにお通しで100円取れ!」というのが清宮の考え方だった。
清宮は飲料・フードメニューのトータルで利益を出すという当時としては画期的なマージンミックスの方法を実践した。こうして「村さ来」は「イッキ飲み」に代表される酎ハイブームをつくった。

そしてこれに触発されて、鳥貴族は

大倉は清宮の著書に触発され粗利益率の高い商品と低い商品とを組み合わせて販売し、一定の粗利益率と客単価の確保を狙うマージンミックスの考え方を導入した。

ビールも含め「全品250円(税抜)均一」に業態転換、勝負を懸けた。大倉は飲料・フードメニューすべてのマージンミックスで少しでも利益を確保すればよいと、腹をくくった。結果的に大倉のこの決断が倒産寸前の鳥貴族を救ったのである。

とのことである。

30年前のことだからビールの原価などは今は少し違ってきているのかもしれないが、飲食業以外の業態でも参考になる考え方ではないだろうか。

繊維製品においてハンドメイド、オーダーメイド、オートクチュールの分野以外は、原料段階から店頭までのあらゆるシステム・機械類は大量生産を前提として組み立てられている。

「おばちゃんが手編みして月に何枚も編めないから、セーターが1枚15万円する」というような売り方は、通常の繊維製品ではほぼ不可能だ。
できなくはないしやっても良いが、よほどの巧妙にストーリーを作ってメディアを使わないと絶対に売れない。

自社サイト(俗にいうホームページ)すら満足に所有していない製造加工業者がそんなに巧妙にストーリーを組み立て、ウェブも含めたメディアを使いこなせるとは到底思えない。

じゃあ、大量生産を前提とした中で、マージンミックスの考え方を取り入れて「お得感」を出して販売量を増やし、さらなる大量生産につなげる方が理論的ではないか。

「うちの〇〇は本物にこだわっているから」といって名も知らぬ新参ブランドが高価格設定していて、本物かどうかちょっと怪しい部分はあるが著名ブランドがそれよりも安くて同じカテゴリーの商品を売っていたら、間違いなく多くの消費者は著名ブランドを支持する。

じゃあ、「損して得とれ」ではないが、新参ブランドは何か1品か2品くらいはマージンミックスの考え方を採用して、赤字覚悟の客寄せ商品が必要ではないか。

資金繰りや生活費に切羽詰まっていたとしてもだ。

もし、自分が繊維業界の人間ではなく、まったくの一消費者だとして「知名度があって割安なブランド」と「知名度がなくて高いブランド」のどちらを選ぶか考えてみれば良い。

そんなわけで売り方や値段設定を、とくに知名度のない新参ブランドはもう一度見つめ直してもらいたい。