今時、「SPAブランドって流行ってるらしいな。俺も何のノウハウもないけどちょっとSPAブランド立ち上げてみるよ。バカ売れするかもしれない。やってみれば何とかなるだろう」なんて軽い気持ちで、SPAアパレルブランドを開始する人はいないだろう。

いるとしたらよほどのおバカさんではないかと思う。

新しくSPAアパレル事業に参入する企業や個人はあるだろうが、相当の覚悟を持って臨んでいるはずだ。
SPAどころかアパレル、洋服店そのものがレッドオーシャンになり果てていることは多くの人は知っている。
レッドオーシャンどころか、ブラッディオーシャンである。

しかし、インターネット通販に対してはどうだろうか?
SPAブランドのところをインターネット通販やECに置き換えてみて欲しい。
こういうことを言っている人は業界の内外を問わず、ゴマンといるのではないか。
とくにインターネットで物を売ったことも買ったこともないような人に限って「インターネット通販は成長分野。ノウハウはないけどやってみたら何とかなるだろう」なんて寝言を平気で口にしている。

寝言は寝ても言うなよってことである。

残念ながらすでにインターネット通販はレッドオーシャンになっており、成果の出ない企業はとことん成果が出ない。
衣料品・アパレル分野はとくに。

たとえば、先日、こんなニュースが報道された。

スクロールがアパレルECから撤退
http://news.infoseek.co.jp/article/netshoptantoushaforum_3964/

スクロールは2月末でアパレルECから撤退する。
旗艦ECサイト「スクロールショップ」とシニア向けアパレルECサイト「ブリアージュ」を2月28日に閉鎖すると発表。スクロールが運営するECサイトでのアパレルの取り扱いがなくなる。シニア向けアパレルのカタログ通販、生協会員向けの販売は継続する。

選択と集中を進め、生協会員向け販売や化粧品、健康食品販売事業の強化を図る。

スクロールでは2014年9月にF1層向けファッション通販カタログ「ラプティ」を廃刊し、あわせてF1向け専門ECサイトも終了していた。これにより、スクロールが運営するアパレルECサイトは旗艦店の「スクロールショップ」とシニア向けアパレルECサイト「ブリアージュ」のみとなっていた。
今回、両サイトを2月末で閉鎖し、アパレルECから撤退する。
今後は、好調な「コスメランド」「豆腐の盛田屋」などの化粧品通販事業を中心に、キッチン用品、ブランドバッグなど専門ECサイトの事業展開を強化していく。

とある。

通販大手の1つであるスクロールがアパレルECを完全に閉鎖する。
記事にもあるように、すでに2年半前に若い女性向けのアパレルブランドをカタログ、ECともに廃止しており、今回の廃止によってスクロールのアパレルECは取り扱いがなくなる。

要するにスクロールはアパレルECから完全撤退するということである。

ちなみにスクロールの2016年3月期連結決算の売上高は前年比1・1%減とはいえ、628億3900万円もある。
2017年3月期連結の売上高は前年比6・6%減の590億円を見込んでいる。

やり方の不備やさまざまな要因があったとはいえ、年商規模600億円の大手ですらアパレルECからは撤退しているのである。

年商ン千万円程度の零細企業が、「何のノウハウもなしに」ECサイトを開設したり、インターネット通販を開始したりして、果たして成功するのだろうか?
よほどの僥倖に恵まれなければ成功はありえないだろう。
年末ジャンボ宝くじの1等に当たるくらいの幸運に恵まれなければ成功しない。

あの巨大資本のセブン&アイでもオムニセブンは軌道に乗っていない。
こちらはもちろん、売上高の金額自体はそれなりにあるが、昨年秋の時点では663億円にとどまっている。
洋服だけではなく、食品やら日用雑貨やらあらゆるジャンルの商品すべての合計が663億円なのだから、洋服の売上高がどれだけ低いかは想像できるだろう。

それにしても何のノウハウもないド素人に限って「インターネット通販なら何とかなる」なんていうスイーツな考えをしてしまうのだろうか。

その原因の一つとして、評論家が盛んにこだわる「EC化比率の低さ」が世のスイーツたちをミスリードしているのではないかと思う。

物事を判断するには何かしらの基準が必要であることは言うまでもない。
だから各種の比率の数字は重要であるが、それのみに注目しすぎるととんでもない判断ミスを起こすことになる。

評論家や出来の悪いコンサルタントはよくこんなことを言ってEC進出を煽る。
「ユニクロはEC化比率が以上に低いからダメだ。もっとEC化比率を高めるべきだ」と。
現在のユニクロのEC売上高比率は5%くらいである。

だから評論家やコンサルタントは「EC売上高比率を最低でも10%に伸ばすべきだ、伸ばせる」と煽るのである。そのほうが彼らには仕事が舞い込むのだろう。呼び込みご苦労様。

もちろん、まだ伸ばせるとは筆者も思うが、5%という数字だけ見れば「低い、少ない」と感じる。だが、実際の金額に換算してみると400億円くらいあるということになる。
先ほどのオムニセブンが、様々なジャンルの商品すべてを合わせて、昨年秋の時点で660億円しか売上高がなかったのに、ユニクロは衣料品のみで年間400億円も売上高があるということになる。

また年間400億円という売上高はアパレル業界においては大手の一角を担える売上高である。

例えば、人気セレクトショップ大手の1つアーバンリサーチの2015年1月期の売上高は460億円、2016年1月期の売上高は540億円と発表されているが、ユニクロのEC売上高はこれとほぼ同等なのである。

衣料品のみをインターネットで400億円売るということは、衣料品業界においてどれほどの大きな数字なのかがお分かりいただけるのではないか。

ちなみにユニクロがEC売上比率を20%にまで拡大できたとすると、おそらくEC売上高は1600億円弱ということになっているだろう。衣料品だけで1600億円を売るというのはとてつもない金額である。

メガネスーパーのECを担当している川添隆さんは、ネットでこんな意見を書き込んでおられる。

今のところ、国内でEC化率が高いのは、「ECで買ってもいい商品」か「ECで買うメリットがある商品」かなと捉えています。前者はショッピングをする際の体験価値を問わないモノ(コンタクトレンズ、書籍、音楽、映像、文具、事務用品など)や、後者はECで買ったほうが安いとか、配送してくれる利便性が効くモノ(家電など)。

とのことで、これはその通りではないか。

筆者もAmazonやヨドバシドットコムをときどき使うが、ガンダムのプラモデルの格安品、家電製品類の格安品、一部バッグの格安品に限られており、衣料品を買う場合は1、格安品 2、サイズ感や着用感がわかっている物 の2点を満たした商品だけしか買っていない。

ユニクロのオンライン通販もときどき使うが、この2点を満たしているからだ。
あと、店頭で売り切れていたり、500円割引オンライン専用クーポンを所有していたりする場合に例外的に利用する。

こういう状況であるから、評論家やコンサルタントが言うほど簡単に、衣料品のインターネット通販が拡大できるとは思えない。

自分で携帯メールも、パソコンのEメールも打てないような製造加工業者のオッサンや問屋のオッサンに限って、インターネット通販を始めたら明日にでも莫大な売上高ができると勘違いしている。

そして評論家やコンサルタントのカモにされて金を吸い取られているというのが業界に蔓延している喜劇である。

喜劇は吉本と松竹だけにしてもらいたい。