年末に読売新聞でコラムを書かせてもらった。

失速・三越伊勢丹…老舗百貨店が陥ったワナ
http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20161215-OYT8T50009.html

昨年秋から三越伊勢丹HDの業績ににわかに陰りが出てきたから、各紙とも厳しい論調が目立つようになった。
それは仕方がないこととはいえ、ちょっと違うかなあという感じも抱いている。

1つは、伊勢丹新宿本店の強さは現時点では絶対的で、売上高2位の阪急百貨店うめだ本店と逆転される可能性は中期的にはほぼないこと。

もう1つは、メディアもアパレル業界関係者も伊勢丹新宿本店のような「先端・高級ファッション」に特化した百貨店が今以上に大幅に成長できると考えている点と、それが他の地方でも可能だと考えている節があること。

この2点である。

まず、2016年3月期(2015年4月~2016年3月)の伊勢丹新宿本店の売上高は2724億円で、百貨店では日本一の売上高を誇る。一方で、売り場面積は6万5000平方メートル弱しかない。

鳴り物入りで増床オープンした近鉄百貨店あべのハルカス本店の売り場面積は10万平方メートルもある。しかし売上高は1026億円で伊勢丹新宿本店の半分にも満たない。また「西の雄」といわれる阪急百貨店うめだ本店の売上高は2183億円と伊勢丹新宿本店に次いで2位に位置するが売り場面積は8万平方メートルもある。

割り算をすると、阪急百貨店うめだ本店は1平方メートルあたり売上高が272万8750円となるが、伊勢丹新宿本店は419万769円となり、伊勢丹新宿本店の効率性は際立っている。これがすぐさま崩れるということは考えにくい。

ただ、販売関係者からは、「狭いスペースで高効率(各売り場が狭くて商品をたくさん陳列できない)なので、ストックルームと売り場を頻繁に行き来しながら接客するのがかなりの労力」というデメリットも指摘されている。

筆者も昨年夏前から秋口にかけて何度も新宿本店に足を運んだが、その狭さに驚いた。
これは入場客が増えればかなり息苦しいなと感じた。

それと実際に何度もこの目で見て感じたのが、「先端・高級ファッション」に特化した売り場への違和感である。
ご存じのとおり、筆者は甲斐性なしの貧乏人だから、伊勢丹新宿本店に並んでいるような洋服、服飾雑貨類は金銭的に買えないし、また買おうとは思わない。

ああいう、先端ファッションブランドが持つ独特の雰囲気が苦手である。
あれなら、まだイオンモールでユニクロを見ているほうが落ち着く。

そこまで格好つける必要があるのかとつい思ってしまう。

もちろんそういう売り場が必要であることは理解している。決して不要だとも思っていない。
しかし、これが東京都23区内以外の地方で成立するとは到底思えないのである。

23区内ですら、新宿本店1つあれば十分ではないかと思う。

だから、今後新宿本店が爆発的に売上高を増やして、顧客数が圧倒的に増えるようなことはあり得ないと見ている。

現在でも新宿本店は「先端・高級ファッション」好きな消費者の大部分を囲い込んでしまっているのではないか。今以上にそういうものが好きな消費者は今後増えないのではないか、とそう思っている。

かつて、伊勢丹は大阪を撤退した。
大阪が不振だった理由は、新宿本店とはまったく異なる品揃えに消費者が失望したからではないかと考えているが、もし、仮に新宿本店とほぼ同じ品揃えだったとして、支持されただろうか?

実はそれも難しかったのではないかと最近は思い始めている。

関西にももちろん「先端・高級ファッション」好きは存在するが、人口比率から考えても23区内よりも圧倒的に数が少ない。
大多数は「そこまで先端でなくても構わない」と考えており、それは23区内以外の地域に共通しているのではないか。

筆者自身もああいう雰囲気に囲まれるのはなんだか、居心地が悪いから、もし同じ品揃えができたとしても大阪店には足を運ばなかっただろう。

昨年春に開業した大名古屋ビルヂングも思ったほどの推移ではないとリーシング関係者からは聞こえてくる。
ここにはイセタンハウスが入店しているが、やっぱり先端ファッションはそこまで望まれていなかったのではないかと思えてならない。

「先端・高級ファッション」ブランドが一堂に会した売り場はたまに見る分には目の保養にはなるが、日常ではない。これが筆者個人の感じ方で、同様に感じる消費者は、業界関係者が思うよりも数が多いのではないか。

だから、新宿本店的なものを23区内以外の土地で作っても支持されにくいと考えている。

三越伊勢丹、新たに5店舗リストラ…札幌や新潟
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20170109-OYT1T50008.html

こんな発表がまたあった。

店舗を閉鎖するのではなく、売り場縮小や業態転換を図るそうだが、新宿本店的なものを目指すとまた厳しい状況に陥るのではないかと思う。もっと地方に根差した「ベタ」な売り場を作ったほうが賢明ではないかと思う。

伊勢丹関係者と接していて気になるのは、ほとんどが東京都心出身か、大学時代に東京に出てきてそのまま就職した「東京大好き」な人たちであるということである。しかも「先端ファッション好き」である。
売り場側の人間と、地方消費者との嗜好は大きくズレており、これは容易に埋められるものではないと感じた。

新宿本店は完全なる特異物として、地方店は地域に根差した「ベタ」さ、「泥臭さ」に徹底すべきではないか。そうすれば、ある程度のHD全体の業績回復は可能ではないかと思っているが、果たしてどうだろうか。


三越伊勢丹の最新 儀式110番: こんなときどうする? 冠婚葬祭
三越伊勢丹ホールディングス
誠文堂新光社
2016-05-25