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南充浩 オフィシャルブログ

独立系若手ファッションデザイナーを取り巻く厳しい状況

2017年1月6日 デザイナー 0

 昨年末に30歳前後くらいの若い独立系デザイナーにお会いする機会があった。
またこの18年間くらい変わらずに交流してもらっているベテランデザイナーもいる。

一方、10年位前に異業種へ転身した元デザイナーとも久しぶりに会う機会があった。

今年47歳になるオッサンとしては同年輩から上の独立系ファッションデザイナーと、30歳前後の若手デザイナーを比べると、彼らを取り巻く環境の一つが大きく変わっていることが気になる。

40代前後から上の世代の独立系デザイナーは、若い時分はほぼ全員が大手アパレルや大手セレクトショップの外注デザインを手掛けていた。
自身のブランドの服なんてそんなに売れるわけもないから、外注デザインこそが彼らの実際の生活を支えていたといえる。

実際に18年間変わらない付き合いをしてもらっているベテランデザイナーは、「独立した直後から10年間、大手セレクトショップと外注デザイナーの契約をしてきた。年間数百万円レベルの契約金だったので、ブランドが軌道に乗るまでそれで生活を賄えたことは大きかった」と話してくれたことがある。

異業種に転身した元デザイナーも「現役時代は大手アパレルの外注を何社か受け持っており、それで生活が賄えていた」と以前話してくれた。

ところが、最近の若手デザイナーと話しているとこの「外注デザイン」なるものが話題の上ることが極端に少ない。
ほぼないといえる。

もちろん、これは筆者の狭い身の回り調査なので、実態はそうではないのかもしれない。
また、筆者がそこまで話を聞き出せていないだけかもしれない。

そういう可能性は否定できないのだが、どうも「外注デザイン」なるものの需要が減っているのではないかと感じられてならない。

外注デザインとは、大手アパレルや大手セレクトショップが自社オリジナル品を企画する際に、その商品デザインを社外に外注するというシステムで、90年代後半~2005年ごろまではこの外注を実際の生活の糧にしている独立系デザイナーは多かった。知っている範囲の独立系デザイナーはほぼ例外なくこの外注デザインで生活を賄っていた。

外注デザインなるものの需要が減っている理由は2つあると思っている。

1つは、大手アパレルが軒並み不振なため、外部デザイナーへの契約金が捻出できないこと

もう1つは、デザイン作成から業務を請け負うODM企業が業界内に増えたこと

この2つではないかと思っている。

先日、某ODM企業の展示ルームにお邪魔した。
大手アパレルや大手セレクトショップに納める商品が展示されている。
完成度はそれなりに高く、ライトオンスデニム生地のワンピースが1950円で納品されることに驚きを隠せなかった。
おそらく納入先の店頭では少なくとも1万円前後で売られると考えられる。

たった1950円でこれほどの商品が製造できてしまうところが驚きである。
1950円で納品するということは、当たり前だが製造原価は工賃を含めてもそれより安い。
一体いくらで作っているのかということになる。
しかもクオリティはそれなりに高い。

高品質低価格もここまで極まったかという感じがする。

こういうODM企業は決して珍しいわけではなく業界では普通に掃いて捨てるほどある。

これほど安く高品質商品がODM業者を使えば作れるのなら、身元があやふやな独立系デザイナーにそれなりに高い金を払って商品デザインを外注する必要もない。

またODM企業は、デザイン起こしだけでなく、生産管理も自社で行うし、検品も行う。
独立系デザイナーは生産管理は行わず、デザインを渡すだけになる。

どちらが企業にとって使い勝手が良いかというとODM企業になる。

それにしても「外注デザイン」の需要が減少していると思われる分だけ、今の若手独立系デザイナーは昔よりも厳しい立場での操業を余儀なくされているといえる。
製造加工業者が生き残りのためには自立化が必要だが、独立系若手デザイナーも「外注デザイン」という下請け仕事が望みにくくなっているため、自立化が必要不可欠といえる。

それには昔ながらのファッションデザインという業務の在り方から外れた手段を採る必要があるのではないか。

いやはや、難しい時代である。




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