こんな記事を見つけたので賛否を書いてみたい。

低価格国産ダウン「ナンガ」が売れまくる理由
3分の1の価格で「水沢ダウン」と真っ向勝負
http://toyokeizai.net/articles/-/151232

ナンガとはナンダ?ってなダジャレを言ってみたくなるが、ナンガとは何か?
業界の人ならほとんどがご存知だと思うが、そうではない人も読んでおられるので、ちょっとだけ解説をすると、ナンガとは滋賀のダウンジャケット工場である。

この記事を評価する点は、ナンガを大々的に取り上げたことである。
業界内では5年以上前から話題になっていたが、大手経済誌がようやく取り上げた。

ナンガが売れた理由は、記事中にもあるが、国産でありながら3万円前後のダウンジャケットを製造している点である。
正確にいうと価格もいくつかのグレードがあり、2万円台後半~5万円くらいまでの商品を展開している。

大手セレクトショップだけでなく、地域チェーン店や卸売り型ブランドなども数多く、このナンガに注文を入れている。
身の回りの感想にすぎないが、中間価格帯の国産ダウンジャケットを製造してくれるところというとこのナンガが真っ先に思い浮かぶ。

この7~8年間でそれほどに業界内では知名度を高めた。

この記事の評価できない点はあたかもデサントの水沢ダウンとの競合であるかのような見出しを付けたこと。
デサントの最高級国産ダウンジャケットブランド「水沢ダウン」は10万円前後の価格で、高スペックな商品をファッション化したものであり、ナンガとは顧客層やターゲット、価格帯が全く違う。

ナンガが名をあげ始めたのは8年ほど前で、その当時、水沢ダウンもメジャーな存在ではなかった。
そもそも競合するターゲットとしてナンガが捕捉する必要性がない。
おそらく東洋経済は同じ「国産ダウン」という切り口のみで対比させたかったのだろうが、スポーツメーカーとして高機能・高スペックを重視するスポーツウェアメーカーのデサントと、羽根布団メーカーから転身したナンガではブランドの成り立ち、開発思想、顧客ターゲット、価格帯がすべて異なる。

極端に言えば、同じメルトンのダッフルコートだからといって、グローバーオールとユニクロの商品を比較して「真っ向勝負」と煽るようなものである。

また水沢ダウンとナンガでは生産数量も異なる。記事ではナンガは年間生産数5万枚とあるが、水沢ダウンは関係者によると、フル操業しても1万枚未満の生産数量しか実現できないという。

こういう煽り方はわかりやすい反面、ミスリードも引き起こす。

記事では2015年秋冬(昨年秋から今年初めにかけてのシーズン)を「売れに売れた」と表現しているが、実際は確実に納品するために受注を絞った。
なぜなら、受注が殺到した一昨年秋冬(2014年秋冬)には生産キャパを越えてしまって納品遅れを多数起こしたため、その反省に立ったからだ。

以前からナンガに生産を依頼していたあるカジュアルブランドの企画担当者は、「うちは以前からの付き合いがあったから注文を受けてもらえたが、キャパオーバーの反省から発注を断られたブランドもけっこうあったと耳にしている」とその当時話していた。

ナンガがセレクトショップや卸売り型ブランドに重宝された理由はなんだろうか。
個人的に思うところを挙げてみる。

1、別注企画やダブルネームに柔軟に対応できる
2、国産なのに値ごろ感がある(激安ではないが、手の届かない範囲でもない)
3、国産ブームの波に乗れた
4、業界人特有の横並び思想が働いた

この4点ではないかと見ている。

その中でも個人的に重要だと思うのが、やっぱり2ではないか。
今でも国内産地ブランドやモノづくり脳の人々は「国産だから最高価格で」みたいな主張をするが、10万円のダウンジャケットなんてなかなか気軽に買えるものではない。

だいたい1着の洋服に10万円をつぎ込める人はよほどの高収入か、極度の服マニアのどちらかで、どちらもその人口は少ない。
そんなニッチな市場に向けて「国産ガー」とか「伝統の技法ガー」とか「本物の良さガー」と叫んでみても、大量に売れるわけもない。
おまけにその価格帯はラグジュアリーブランドとの競合になる。
世界的にステイタスのあるラグジュアリーブランドと、ほとんど知名度のない産地ブランドが競争をして勝てるはずがない。

国内生産で激安品を作ることはできないから、じゃあ、現実的な選択肢としては3万円中心のダウンジャケットということになる。
ユニクロのシームレスダウンジャケットだって1万3000円くらいはするのだから、3万円前後というのはそう高い価格設定ではない。(消費者視点では)

国内ブランドは個人的にはこのナンガの価格戦略を見習うべきだと思っている。

あと、4も重要で、業界人には独特の「横並び思想」がある。
まあ、個人的にはそれは弊害にしか感じられないのだが。(笑)

洋服不況だから余計にその「横並び思想」が強まっており、ますます店頭を画一的にしており、それがさらに洋服不況を強めるという悪循環スパイラルに陥っているが、それを断ち切る勇気と分析力を持ち合わせている業界人はほとんどいない。

「〇〇店で××という商品が売れた」と耳にすると、自店の顧客層やターゲットも無視して、××を仕入れる。
しかし、顧客層やターゲット、価格帯が違うから必ずしも売れるわけではないが、そんなことすら考えずに、とりあえず自店に並べて安心してしまう。

また「大手の〇〇、有名店の〇〇が仕入れた」と聞くと、考えなしに追随して自店も仕入れる。
大手や有名店と競争してもあらゆる点で勝ち目がないにもかかわらず。

究極は他社の売れ筋商品の完全コピーを製造販売することである。

この業界独特の「横並び思想」が発揮されると、特定のブランドは急速に広まることになる。
それはナンガに限ったことではない。デザイナーズブランドでもアウトドアブランドでもスポーツブランドでも同じだ。
一時期、ネコも杓子もニューバランスのスニーカーを店頭に並べていたのはその一例といえる。

しかし、ナンガはうまく業態転換を図り、知名度を向上することに成功した。
どの企業でもできることではないが、個人的にはナンガに続くような国内製造企業が登場してもらいたいと思ってしまう。それは筆者の甘さなのかもしれないが。