久しぶりに面白く読めて、内容にも激しく賛同できる記事を拝読した。

「この1着が1億円になる!」サンプル縫製一筋30年、クチュールデザイナーから転身
https://www.wwdjapan.com/363297

サンプル専門の縫製工場、レオパールの社長インタビューである。

実は昨年5月に開催した東京テキスタイル・マルシェにレオパールの社員の方が来てくださり、社長は相当に面白い方だと教えてくださったので、どんな方かと興味を持っていたのだが、この記事からは期待以上に面白い方のように感じられた。

サンプル縫製のみで、年商が億に達し、自社ビルまで建てられたのだから大したものである。

このインタビューで印象的だったのが、社長は一度も「物作りガー」とか「本物の良さガー」とか「最近の消費者の感性は劣化している」と語っておられないところである。
これらのキーワードが出てきた時点で、「単なる物作り脳」と判断して、適度に流し読みするのだが、そういう「単なる物作り脳」という人ではなかったようで、相当に説得力がある。

その中で非常に共感したのが、

森田:ファッションは生地や縫製ではなく、紡ぎ出すストーリーにこそ意味がある。ストーリーがないんだから売れないのは当たり前。あと、これは持論だけど、あまりにも服がカジュアルになりすぎている。若年層でハロウィンが盛り上がったり、制服のアイドルに人気が出るのは、その反動じゃないかな。フォーマルな服装の本質って、コスプレだからさ。

という一節である。

生地や縫製というスペックは重要であることは言うまでもないが、筆者も含めて業界の人間はそこに過度にとらわれすぎる傾向がある。
しかし、生地と縫製仕様を過度に重要視し過ぎると、じゃあ、低価格ブランドが同じ生地を使えばそちらの方がお得じゃないかということになる。
消費者もそちらで買う。

ユニクロが超大ロットを生かして、カイハラのデニム生地やカシミヤを使用して、それを低価格で売れば、それがお買い得ということになる。
もちろん、カイハラのデニム生地もカシミヤもピンキリだから高額品とまるっきり同じということにはならないが、少なくとも世間的には同等と見なされやすい。

生地と縫製仕様というスペックを最大限重視して組み立てるとユニクロというブランドになる。

百貨店ブランド・ファッションビルブランドが苦戦している原因はさまざまあり、一言でまとめることは難しいが、社長がインタビューで答えておられるように「ストーリーがないから」ということも一つの原因だといえる。

「ストーリーがない」ということは、生地とか縫製仕様というスペック、もしくは洋服の色柄・形といった「見た目」での勝負ということになる。
だったら、スペックがそこそこ高くて、見た目がそこそこにかっこよくて、値段がそこそこ安い商品というものが一番お買い得ということになる。

だからユニクロや低価格SPA、ファストファッションに負ける。

かといって、嘘のストーリーや何倍にも膨らませたような過剰なストーリーも気味が悪い。
自分でデザインしたわけでもなく、製造したわけでもないのに、滔々と「物作り」について語る自称デザイナーとかパクリエイターはこの業界には掃いて捨てるほどいるが、そういう詐欺師まがいの「ストーリー作り」も逆に業界から消費者を遠ざける結果にしかなっていない。

一方で、国内の職人の弊害についても語っておられ、この部分も共感できる。

森田:日本だと縫製の代金って、本当は何の根拠もないのに、小売価格から逆算して決められているから。本来は手間や時間、技術に応じて決めるべきなんだよ。でも一方で、僕はお金儲けは絶対に必要だと思っているけど、縫製工場や技術者だって請求書一つ自分で送ったことのない人も多い。

僕が1985年に子どもが小学校に入って、お父さんが今で言うフリーターみたいだとかっこ悪いから、個人事業から法人化して株式会社にしたときも、同業者からは職人がなぜ株式会社なんて作るんだって言われたよ。正直言って個人事業のほうがずっと儲かってたけど、いま考えれば法人化して良かった。商社や大手メーカーが口座を作りやすいし、その後、時代に対応できなかった小さな会社は淘汰された。かなり細かく工程分析をした上で工程管理をIT化していたからこそ、今でも生き残っていられる。

請求書一つ自分で送ったことがないなら、それは完全なる下請け業者でしかなく、完全なる下請け業者は常に下請けとしてしか扱われない。
技術者が重視されないのは、自業自得という側面もあるというわけである。

またIT化していないことも製造加工業者、原料業者の自殺行為ともいえる。

某原料関係の会社で、50歳前後の営業マンがおられるそうだが、その若さにも拘わらずEメールも使えないし、WEB検索のやり方すら知らないといわれている。
今時、60代くらいの専業主婦でもインターネットでレストランの予約ができるのに何を言っているのかと思う。

ウェブサイトすら持っていない製造加工場も珍しくない。
何かを調べるときにはまずウェブ検索する時代だから、ウェブサイトを持っていなければ、その検索には永遠に引っかからず、人に知られることもない。

知られていないのは存在しないのも同然なのである。
だから仕事の依頼が来ない。至極当然の結果である。

そんなわけで、レオパールは残るべくして残っていると改めて感じた。