少し前の日経ビジネスのアパレル不振特集でも取り上げられた米国の注目ブランド、エバーレーンだが、原価を明示し、販路はオンラインサイトに限るという手法が目新しく、支持を集めやすい。

このことに異論はない。
実店舗を試着専用にしていることも画期的で、これも注目すべき手法だと感じる。

そのエバーレーンについてこんな記事が掲載された。

「生産コストが丸裸」。やりすぎなほど透明性を意識したアパレルブランド「EVERLANE(エバーレーン)」
http://beinspiredglobal.com/radical-transpearency-everlane

論調がいささかサヨク的に感じられ、好きな書き方ではない。
ただ、具体的な原価が紹介されているところには注目したい。

黒の無地のタートルネックセーターについてだが、

上記のタートルネックの場合、材料費が$8.91、機械設備費$0.72、人件費$1.32、輸送費$0.80。よって実際にかかっているコストは$12。しかし、他のブランドが$60(参考価格)と原価の5倍もの値段で販売しているのに対し、Everlaneの販売価格は$30(約3454円)と、お手頃かつ、生産者に敬意を払われた価格設定になっているのだ。

と紹介しており、このような原価構造になっているらしい。

この記事では、1ドル=112円くらいの為替レートで計算している。

製造枚数、販売枚数が提示されていないのでこの原価構造が適切なのかどうかはわからない。
多くのファッション好きが考慮しないことが多いのだが、生地値も縫製工賃も染色加工賃もすべて生産数量によって左右される。

5枚、10枚程度しか作らないなら、すべてにアップチャージが課されて割高になる。
1000枚、1万枚、10万枚、と数量が多くなればなるほど生地値も縫製工賃も染色加工賃も安くなる。

理由は洋服も生地も工業製品にすぎず、大量生産に適した生産システムが構築されているからである。
機械や自動車、家電と同じ理屈だ。

エバーレーンのこの黒の無地タートルネックセーターに関していえば、1枚あたりの材料費が8・91ドルだからだいたい1000円くらい、人件費が1・32ドルだからだいたい150円くらいである。

生産数量が明示されていないからそのクオリティが高いのか低いのかはわからないが、率直な感想として

「原材料費高ッ、人件費安ッ」である。

人件費150円がそれほど褒めちぎられるやり方だろうか?

店頭販売価格が3450円で、原材料費1000円というのは、かなり大量に生産数量があるのではないかと個人的に推測する。
ウールと綿、ニットと布帛ではコスト構造が異なるので一概に比べることはできないが、例えば、「ジャパンデニム」とあがめられている国産デニム生地だって定番生地なら1メートルあたりの価格は770円くらいで取引されている。

このタートルの生地値よりも安いくらいだ。

だからこのタートルは相当に良い生地を使っていると考えられるが、販売価格を3450円に抑えるなら相当に大量に生産されていると考えなくてはつじつまが合わない。
人件費だってこんな程度で50枚くらい作られたところで、収入が少なすぎて工員は干上がってしまう。工員にまともな所得を渡しているなら、少なくとも1000枚以上は作っていないと話にならない。

この記事に関して「ファーストリテイリングがもっとも嫌うやり方」と快哉を叫ぶ業界人が多いが、果たしてそうだろうか?ユニクロの原価構造はアイテムによって異なるが平均するとおそらくこの黒のタートルネックとほぼ同等くらいではないかと推測されるからだ。

それよりもこのやり方が大々的になって都合が悪いのは、大手百貨店アパレル各社であり、疑似SPA化した大手セレクトショップ各社であり、109系アパレルであり、ストライプインターナショナルだろう。
彼らの商品の大半以上で、原価率がユニクロに遠く及ばないほど低いことは業界では公然の秘密である。

生産数量が不明なため何とも言えない部分も多いが、この150円という人件費の設定はとてもではないが「生産者に敬意を払われた価格設定」とは言えないのではないか。

そんなわけで個人的にはエバーレーンのコスト構造についてはまったく賛成も共感もできない。しかし、繰り返しになるが、こういう売り方やシステム構築は消費者にはわかりやすいから、なるほどと感心させられる。

不振にあえぎながらも十年一日のごとく「本物をわかってもらえば~」とか「上質な洋服の良さを~」なんて言ったまま、売り方を何一つ変えようとしない旧弊アパレルに比べるとよほど創意と工夫があると思える。