最近は、産地ブランドがむやみやたらな超高価格化を目指すことはなくなってきたと感じるが、5年位前までは「市場は低価格化と超高価格の二極化に分かれている」との思い込みから、いわゆるラグジュアリーブランド並みの価格を目指そうとする産地ブランドが多かった。
またそれを煽る産地でのみ有名なコンサルタントも跳梁跋扈していた。(今もしているかも)

低価格品を目指すことは国内産地には事実上不可能であるから、ある程度高い価格帯を目指さざるを得ない。

初めから「俺は日本発のラグジュアリーブランドを作ってやるぜ」という意気込みをもって事業に取り組むのは賛成だが、そうではないケースがほとんどだった。

多くのケースは「エルメスが50万円で売ってるからうちも同じくらいで売りたい」みたいな隣の芝生が青かった的な取り組みに終始していた。

そういう話を聞いたときには「この人たちは正気なのかな」といつも呆れ果てていた。

仮に、原材料や製造方法がエルメスと同じだったとして、「だから同じ価格にしました」では消費者には通用しない。

まず、商品のデザインが異なる。
いくら原材料や製造方法が同じでもデザインが異なるとそれは違う商品になるから同じ価格で買う人はいない。

次に、エルメスも含めた多くのラグジュアリーブランドの商品価格には、広告宣伝費、販促費、店舗開設維持費用、スーパーモデルとの契約料、などなどの諸経費が含まれている。

逆にそういう活動を常に行っているからブランドステイタスが保たれているわけで、産地ブランドが同じ価格で売りたければ、それらと同じ活動をする必要がある。
同じ活動をしないのであれば経費は掛からないから、商品価格は安くできる。
だったらその安い価格で売るのが適切な商売といえる。

まあ、安いといっても3000円とかではなく、2万円とか3万円になるが。

これらの要素を無視して、原材料と製造法が同じだから、同じ価格で売れると考えられる思考法に驚くほかない。

東日本大震災以降、超高額な産地ブランドとして気仙沼ニットが現れた。

ブランディングありきの取り組みの手法は通常の産地ブランドとは大きく異なり、通常の産地ブランドでは到底及ばない手法といえる。

15万円とか20万円の手編みのセーターなのだが、通常の産地ブランドはこれを目指さないほうが良い。

産地も含めたアパレル関係の経営者・従事者は、どうも「購買できる能力を持った人の数」をあまり考慮しない。

「欲しいなと思う人」が全員その商品を買えるわけではない。
収入が伴っていないと「欲しいな」と思っても買えない。
まれに返済不可能なほど借金してまで買う人がいるが、それは到底通常の金銭感覚ではない。

気仙沼ニットの購買客数はだいたい数百人くらいだと聞いている。
15万~20万円なんていう超高額品はそのくらいが妥当だろう。
今後、購買客数が増えることはあっても1万人を越えることはあり得ないとみている。
せいぜい3千人くらいが極大値ではないか。

従事者が十分な利益をとれるならその規模で続ければ良いと思う。
規模を拡大することだけが正解ではないし、超高価格ゾーンでは「購買できる人の数」に限りがあるので、売上高を無限追求することは不可能である。

990円のユニクロのTシャツは誰でも購買できるが、20万円のセーターを購買できる人の数は限られている。

で、気仙沼ニットに追随しようとする産地ブランドがもし仮に現れたとすると、新たな市場を作るという要素は薄くて、「購買できる人」を分け合う・または分捕りあうということになる。
類似ブランドが出れば出るほど、「購買できる人」を奪い合うことになる。

その結果、どうなるかというと、各社がごく少ない売上高を分け合うことになるか、どこか1社が総取りで、あとの業者は壊滅するか、のどちらかになると見ている。

商材が何であれ、ハイプライスゾーンを買える収入のある人の数は限られており、そこへの参入者が増えれば増えるほど、限られたパイを分け合うということになる。
そして、その中で勝ち残れる取り組みが求められることになる。

通常の産地ブランドや、モノづくり系のブランドがその市場で戦えるかというと、ほとんどが無理だろう。

広告宣伝、販促、店舗の開設維持などの分野で圧倒的に劣るからだ。

逆に産地も含めたモノづくり系の人々が無邪気に「本当に良い物を作れば、どんなに高額でも必ず売れる」となぜ信じ込んでいるのか不思議でならない。

ハイプライスゾーンを買えるだけの収入がある人の数は限られており、その数は少ない。

少ないパイを巡って、ステイタスの高いラグジュアリーブランドと競合するわけだから、勝ち目は極めて薄い。
「日本発のラグジュアリーブランドを構築する」という意図がなくて原材料と製造法のみの理由なら、もう少し「買える能力のある人の数」が多い価格帯へ参入すべきだろう。

激安品を作る必要はないが、もう少しシビアな価格設定を考える方が勝てる可能性は高まるだろう。