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南充浩 オフィシャルブログ

大手アパレルの業績低迷はリーマンショックのせいではない

2016年11月15日 メディア 0

 この20年間の国内アパレル業界の動向をまとめた記事が繊研プラスに掲載された。

元記事は今年5月に繊研新聞に掲載されたものだ。

http://www.senken.co.jp/news/management/business-fashion/

長文だが一読の価値はある。
ベテラン記者が数人でまとめられただけあってかなり状況を正確に伝えていると思う。
さすがの労作といえる。

しかし、個人的には細かいことだが気になる部分もある。

流れが変わったのは08年のリーマンショックから。急速に価格志向が強まる中、海外のファストファッションが進出、低価格帯の市場を相当占めるまでになった。

とある。これがメディアとしての意見なのか、業界関係者の意見をまとめたものなのかわからないのだが、例えば、凋落著しいワールドやイトキン、TSI、三陽商会などの大手百貨店アパレルは口を「リーマンショック以降」と口をそろえているが、彼らが凋落したのは果たしてリーマンショックだけのせいだったのか甚だ疑問を感じる。

逆にいえば、じゃあリーマンショックさえなければ2016年現在もある程度順調に業績は推移していたと考えるのか?と問いたい。

個人的には、リーマンショックがなくても彼らは凋落していたと考えている。
もっといえば、いまだにリーマンショックに凋落の責任を押し付けているところを見ると、まだまだ問題点を自覚していないのだなと思う。

たとえば記事中で引用されているグラフを見てみよう。

リーマンショック以降、急速に低価格の服が市場に増えたと書いてあるが、グラフの高低だけを虚心坦懐に眺めると、オレンジの低価格のグラフもリーマンショックでは縮小している。グレーの「その他」も縮小しているから、洋服の市場そのものが縮小したといえる。

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記事中より引用

その後、グレーの伸び率に比べて低価格は2010年からジワジワと上昇しているが、2014年の低価格品の売上高は2005年とほぼ同額であることに気が付く。

だから「低価格が急速に増えた」のではなく、正しくは「リーマン・ショックで低価格品も減ったが2010年からジワジワと回復し、2014年になって2005年当時とほぼ同額にまで回復した」と言うべきだろう。

逆に「その他」(たぶん、低価格品以外の中高級品という意味だろう)が2009年に5兆円に減ってから、2014年になっても5兆円のままそれ以上の回復が見られない。
2015年、2016年は統計が出ていないので推測するほかないが、おそらくは2014年とほぼ同額だろう。大きく伸びていることは考えにくい。

以上の2点から考えると、低価格品は以前から4兆円前後あり、リーマンショックで凹んだものの、2014年には2005年当時と同額にまで回復した。一方で、中高級品は5兆円に下がったまま回復していないということがわかる。

さらにいえば、少なくとも2005年時点で現在とほぼ同額の低価格品市場が存在したとも言え、低価格衣料は何も突然にリーマンショック以降に登場したわけではないということになる。

一方で、中高級品はグラフ上でのピーク時の2006年、2007年から1兆円前後の売上高を減らしたままということになり、それは中高級品を供給販売してきたアパレル各社が旧態依然で何の対策も打たなかったということになる。

何らかの対策は打ったが、効果的な対策は何一つ打たなかったというのが正確な描写だろう。

後半には、衣料品の平均単価という折れ線グラフがある。

これによると、2008年から急激に下がり、2011年がもっとも低くなり、2136円になっている。
その後上昇し始め、2014年には2405円にまで上がっている。これは2008年に平均単価が下がり始める直前の数値とほぼ同額で、2004年・2005年はもう少し高い。

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記事中より引用

しかし、リーマンショック以降、急速に低価格品が市場に増えたという説明とこのグラフは矛盾しているのではないか。

なぜなら平均単価は上昇しているからだ。

もし、低価格品が増えたというなら、2011年と同額かそれよりも下がるか、よしんば上がったとしてもその上昇幅はわずかになるはずで、2008年当時にまで急回復することは考えられない。
となると、一概に低価格品が増えたとは言えないのではないか。

「価格訴求だけで消費者は動かなくなった」という説明と、「リーマンショック以降、急速に低価格品が増えた」という説明は矛盾するといえる。

個人的に、大手アパレル各社の凋落のきっかけはたしかにリーマンショックだったと思うが、しかし、リーマンショックがなかったとしても凋落は止めようがなかったと見ている。
それまでに問題点が山積しており、それが顕在化するきっかけにリーマンショックがなっただけであり、リーマンショックがなくてもやがて問題点は顕在化して、業績は凋落していたと個人的には感じている。

むしろ、いまだに責任をリーマンショックだけに押し付けている思考を見ると、大手アパレル各社はまだまだ回復しないと思う。ひょっとすると永遠に回復しないのではないかとも思う。

大手アパレル各社の問題点はこれまでもさんざんこのブログで指摘してきたし、今回の記事中にもあますところなくまとめられているので今回は繰り返さない。

しかし、リーマンショックは遠く過ぎ去り、「価格訴求だけで消費者は動かなくなった」時代に突入したにもかかわらず、大手アパレル各社は一層苦戦しているのはなぜか?経営陣は謙虚に原因を考える必要があるのではないか。

価格訴求で動かなくなったのなら、本来、各社が得意とする状況になったにもかかわらず2014年以降、状況はさらに悪化しているのはなぜか?

かつては時代の空気をいち早く読み取り、新しい取り組みをするのが特徴だったアパレル各社が、成功体験をいまだに引きずったまま、腰が重くなり、悪質な伝統工芸のように鈍重に十年一日のごとく過去の価値観を振りかざしているのが現状ではないか。

そんなままで、業績が復活するはずもない。



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