ファーストリテイリングと島精機製作所が合弁会社、イノベーションファクトリーを設立したため、業界は騒然としている。

http://www.fashionsnap.com/news/2016-10-27/fastretailing-shimaseiki/

ファーストリテイリングが10月27日、島精機製作所との合弁会社「イノベーションファクトリー」を発足したことを発表した。総出資金額は4億円で、比率は島精機製作所が51%、ファーストリテイリングが49%。

今回、ユニクロを中心としたファーストリテイリンググループの「ホールガーメント」製品を生産する会社として合弁化された。

なぜ、業界が騒然となっているかというと、今後、ユニクロを中心としたファーストリテイリング社の各ブランドにホールガーメントで作られたニットが供給されることになるからだ。
当然、ジーユーでの販売も十分にありえるだろう。

じゃあ、どうして「ホールガーメント」なるものが売られことで騒然となるのだろうか。
ホールガーメントとは、業界の人ならご存知だろうが、業界外の人はご存知ではないと思うので、非常に基本的な説明をすると、無縫製で生産できるニット製品のことなのである。

通常、ベーシックなプルオーバー(頭被り)のセーターは、4枚のパーツを縫製することで形成される。
前身ごろ、背中、両方の袖、である。
これを縫い合わせてセーターに仕上げる。

ホールガーメントはこれを無縫製で一体成型で編み上げる。
島精機製作所が開発した特殊な編み機「ホールガーメント機」を使えばそれが可能になる。

ホールガーメントを島精機が発明してから20年が経過している。

この20年間、ホールガーメントニットの拡販は断続的に続けられてきたが、その多くは「無縫製」という形状に対して希少価値を見出して、それを「高付加価値」として喧伝してきた。
凡百のヘッポコアパレルブランドは軒並みそんな売り方をしてきた。

その「高付加価値」商品が今回の合弁設立によって今後、ユニクロやジーユーで低価格で売られることが決定した。だから騒然としているのである。

しかし、個人的には多くのブランドが喧伝してきた「無縫製」が消費者にとって本当に高付加価値かどうかは非常に不透明だと見ている。

実際に筆者もホールガーメントのセーターが投げ売られた時期に買って着用してみた。
一般的には「無縫製だから着用感が良い」みたいなことが言われているが、ぶっちゃけていうと、通常のセーターと何も変わらない。少なくとも個人的に着用感の違いは感じられなかった。

まず、ニットという製品は元から伸縮性が高い。
だから、動きやすさはすでに従来品で確保されている。
動きやすさとかリラックス感なんていうのはすでに従来品で十分なのである。

次に、縫い目がないことが肌ストレスを軽減するみたいな説明があるが、これも疑わしい。
たしかに肌着で無縫製はある。
それは、皮膚の敏感な人や荒れやすい人にとっては、縫い目が当たらないことが求められているからだ。
しかし、セーターを素肌に着る人はほとんどいない。
Tシャツや肌着の上から着用する。だとすると縫い目は直接肌には触れないので、従来品でもほとんど変わらない。

ベーシックでプレーンなデザインのセーターであるなら、消費者にとってホールガーメントであることのメリットはあまりないというのが正直なところだろう。

一方で、ホールガーメントを導入することは製造側にとっては大きなメリットがある。
縫製が不要だということである。

現在、縫製は人の手によって行われる。
ミシンは使われるがそれを操作するのは人間なのである。
だから縫製工場はミシンがたくさん並んでいて、それを動かすための人間もたくさん必要になる。
しかし、日本はもとより、経済成長を果たした中国でも縫製工員は集めにくくなっている。

現在はアセアン諸国が縫製基地になりつつあるが、経済成長すればいずれ同じ状況になる。

となると、ニット製品に限定されるが無縫製で製造できるホールガーメントが広まれば、その悩みの一端は解決できる。
セーターの首元や裾はリンキングという工程が行われているが、このリンキング工場も減っているから、ホールガーメントの普及はこの部分でも製造側にとってはメリットがある。
リンキング工場も不要になる。

もっというと縫製工賃やリンキングの工賃も削減でき、それだけ製造コスト削減ができる。

また全自動で作られるため、大量生産すればするほど1枚当たりの製造コストは下がる。
ファーストリテイリングとの提携は理想的といえる。

まずは店舗を限定しての発売ということになるだろう。
例えば銀座店のみとか、大型店限定とか。

だが、デメリットもある。
ホールガーメント機は高額であることと、高度なコンピュータプログラムによって操作されるので、その操作ができる人間の数が限られているということである。

今回の合弁ではそのあたりの機械操作を島精機製作所の人に任せてしまおうという狙いもあるようだ。

たまたま、10月28日の夕方、ある仕事で島精機製作所の中間決算会見に出席できた。
プレスリリースに書いてある以上のことは何も決まっていないので具体的な話はこの件に関しては話すことがないというのが実情のようだ。

ちなみにホールガーメント機の販売実績としては今上期は315台だったと席上で発表があった。
前年上半期は179台で、現在は日産5台ペースで製造されており、今年下半期は6~7台のペースで製造していきたいというのが島精機の抱負である。

このように、ホールガーメントについてはメリットとデメリットがそれぞれあるが、消費者に向けたメリットはわかりにくい。とくにベーシックな定番品だとそのメリットはよく分からない。

それでもこの20年間、期待の新技術として注目され、アパレル側は「無縫製」を価値に「仕立てあげて」製品を高値で売ろうとしてきた。

販促の見地からいうと、まったく観点がズレているとしか言いようがないのだが、ユニクロやジーユーの店頭にホールガーメントニットが並ぶことになると、そういう今までの売り方は通用しなくなる。
作れば作るほどコストが下がるセーターだから大量生産のユニクロやジーユーだとかなりの安値で生産できることになるから、当然、店頭での販売価格も安値になる。

今まで「無縫製」だということだけでベーシックな定番デザインのセーターを高値で販売してきたヘッポコアパレルブランドは軒並み売れなくなる。

だから業界は騒然としているのである。

もし、他のアパレルがホールガーメントニットを売り続けたいのであるなら、製造側ではなく消費者に対するメリットをキチンと説明できるようになる必要がある。無縫製というのはたしかに物珍しさはあるが、セーター類に関しては消費者が体感できるメリットはほとんどない。
そのあたりを見つめ直さないと、アパレル各社はさらに苦戦することになる。