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南充浩 オフィシャルブログ

伝統工芸を守るために伝統工芸を変化させてみてはどうか?

2016年10月11日 産地 0

 先日、西陣絣なる生地があるのを初めて知った。
通常、西陣というと西陣織が思い浮かぶのだが絣があるのは知らなかった。
西陣らしくシルクでの絣だということである。

で、知名度が低いのと比例して作り手が激減しているそうで、絣加工をする職人は7人くらいしか。
年齢は65歳以上ばかりで、40代の職人が一人だけしかいないそうだ。

このままでは滅んでしまうということで、従来の和装用途以外の商品開発が進められている。

http://itohen-univers.com/

メインはストールで、変わり種としてはクラウドファンディング用としてクラッチバッグも提案されている。

西陣絣に限らず、他の伝統工芸でも伝承者が減っているのはそれで食える可能性が低いからだ。
収入がほとんどないことが容易に予想される分野にわざわざ足を踏み入れる人はあまりいない。

伝統工芸が伝承者を育てていこうと思えば、それを「食える産業」にする必要がある。

今まで通りの商品や用途に期待していても無駄である。回復できるならとっくに売れ行きは回復しているはずだ。
ここまで衰退するのに何十年もかかっているのだから、今までの商品や用途で売上高が回復できるならその間に回復できていたはずである。できなかったということは今までの商品や用途ではもはや需要は増えないということである。

このストールやクラッチバッグはその第1歩と言えるだろう。

ただ、個人的に言わせてもらうと、シルク100%のストールとクラッチバッグは広く需要を喚起するにはイマイチ弱いと思う。
理由はシルクという素材である。

シルクという素材は昔から使われてきた素材だが、現代生活において一般庶民が使うにはちょっと食指が動きにくい。個人的な独断と偏見だが、シルク素材のアイテムは和装にせよ洋装にせよ、ちょっと買う気が起きない。
理由は保管とメンテナンスがめんどくさいからだ。

綿や麻のように気軽に洗濯機で洗濯ができない。
また保管にも気を付けないと虫に食われる。
洗濯をしない場合、汗や皮脂による変色が必ず起きる。
ストールは首筋に巻くため、汗と皮脂がかなり付着する。
気軽に洗濯できないと、変色するのは必至だろう。

また摩擦にも弱いため、常に手のひらで摩擦されるクラッチバッグには向かない。

ユニクロがシルクを大々的に提案したことがあったが、今は継続していない。
価格が高かったわけではない。2900~5900円程度だったから、高すぎて敬遠されたのではないと思う。

継続していないということは売れなかったと考えられるが、売れなかった理由は洗濯・保管が面倒だったからではないかと思う。

となると、西陣絣以外でも絹織物系はここをクリアしないと大衆向けの商品にはならないということである。

ここから3通りの考え方ができる。

1、これまで通りの技法とシルク素材によって、洋装向けの新商品開発を続ける
2、従来技法のエッセンスだけを用いて、扱いやすい素材に付与して、新商品開発を続ける
3、技法も商材もこれまで通りで何も変化させない

である。
3は論外だろう。早晩絶対に滅ぶ。

日本人の多くは1を選ぶと思うのだが、筆者は2の方法を選んだ方が効率的ではないかと考える。

例えば、綿や麻、ポリエステルやナイロンといった耐久性があってメンテナンスも楽な素材に乗せ換えて商品開発をしたらどうだろう。
それはもちろん、純粋な西陣絣ではなくなるが、伝統的な西陣絣はハイエンドモデルとしてそのまま細々と、新商品で儲けた金で作り続ければ良いのではないか。

伝統的な西陣絣を保存するために、新商品で金を儲けるというスタイルがもっとも効率的で現実的ではないかと思う。

繊維以外の他の伝統産業も同じようにしてみてはどうか。
何も変化させたくない人はそのままでいれば良いと思うが、今よりも売りたいと考えるなら、伝統的技法を少しだけ用いた新商材を開発すべきだと思う。

銅板を槌で叩いて鍋を作るという伝統工芸があるが、その技法は保存して伝承すべきだと思うが、新商品はその技法をフルに活用する必要はない。何かエッセンスだけを用いて製造してはどうか。そのほうが製造コストも安くなり、販売価格も下げられる。

いくら伝統技法だからといって銅の鍋が3万円とか5万円もしていたら、好事家や数寄者以外はあまり買わない。必然的に需要は増えない。

需要を増やそうと思うなら、簡易版をもう少し低価格(激安ではなく)で販売してみてはどうか。

もちろん鍋以外の商品も開発してだ。

こういう考え方には反対が多いのは知っているが、従来通りに何も変わらないままなら需要が増えることはない。そこに「臭い物作り物語」を100倍盛りにして売り出そうというのだろうが、要らない物は要らない。

例えば、デニム生地だが、国内でデニム生地が製造できるようになったのは1970年代である。
備後絣製造工場から発展させてデニム生地工場となった。
このときあくまでも「ワシらは伝統の備後絣を墨守し続ける」と言っていれば、今頃はデニム生地も作られていなかっただろうし、この工場はとっくにつぶれていただろう。

伝統を基にそれを変化工夫させることが本当の伝統ではないかと思う。
そして、そこで稼げた収益で、伝統的な技法を守り、伝統的な商材を作り続ければ良いのではないかと思う。

まあ、そんなわけで西陣絣の今後の変化に期待したい。




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