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南充浩 オフィシャルブログ

産地企業が自社ブランドを成功させるためには「助成金ゴロ」を排除すべき

2016年9月20日 企業研究 0

 先日、知り合いの工場へ行った。
国内の生地工場も染色加工場も縫製工場もこれまでの単なる下請け業では生き残りが難しい。
一部の例外はあって、大手ブランドとガッチリ組んでいるところは別だが、それとてもいつ契約が終了するかもわからない。未来永劫同じ条件で契約が続く保証は存在しない。

下請けから脱して自立したメーカーになるために行政からは補助金や助成金が支出される。

しかし、この助成金を使って本当に自立化したメーカーになった企業は数少ないのが実情である。
だいたい3年間支給されるが、ほとんどの企業はその3年で新規事業をやめてしまう。

いくつかの産地企業を間近で見てきたが、助成金事業にはたいてい、助成金ゴロみたいな人が介在する。
一般的な新聞で紹介される事例では著名なデザイナーやプロデューサーと組む事例が多いが、著名人を誘致できる事業は少数派で、大多数は筆者のような外部の人間からすると「誰?これ」というレベルの知名度の人が多い。

もちろん、知名度の高い低いは根本的な問題ではない。
デザインなりプロデュースなり営業なりに高いノウハウを所有していればむしろ安い買い物である。
が、そういう人は往々にしてデザインでもプロデュースでも営業でもあまり能力を持っていない。
なんだかわからないがコーディネイターのような立場をとることがほとんどで、そのコーディネイト能力にも疑問がつく。
この手の人はだいだい中年以上の年代で、あちこちの産地でお見かけするが、産地間以外の場所ではほとんどお会いすることがない。

某縫製工場では「ある生地工場のオリジナル製品を製作する依頼を受けたが、そういうコーディネイターのような人が介在してきて、デザインをするわけでもなく、副資材を手配するわけでもなく、ブランドプロデュースをするわけでもなく、それでいて手数料を何十万円か助成金の中から手にしている」と言って首を傾げている。
これはほんの一例で、こういうことが助成金事業では珍しくない。

こういう助成金ゴロともいうべきコーディネイター?の仕事の大半は産地組合や行政窓口の会議に出席することだけである。

ある産地に、補助金・助成金申請にめちゃくちゃ強い人がいた。行政の窓口からその責任者まですべてを知り尽くしていて手を尽くして補助金・助成金をねじりとってくる剛腕だった。
こういう人は産地に対してはまだ貢献している。何はともあれ資金を分捕ってくるからだ。

助成金ゴロと呼ばれる人たちにはそこまでの剛腕さもない。
本当に会議に出るだけの簡単なお仕事だったりする。

業界全体を見回しても、ここ10年間で産地企業がブランド化できた事例はそれほど多くはないだろう。
いずれも好き嫌いは別にしてみると、有名なところだと

佐藤繊維、近藤ニット、今治タオル、ネストローブくらいだろうか。

知名度が低いブランドだともう少しいろいろと出てくるだろう。

佐藤繊維はカリスマ社長の世界観を全面的に打ち出した特殊な製品が評価されているが、あの世界観を万人が真似ることは難しい。
今の工場の社長があんなカリスマを発揮することも不可能である。

真似るとするなら、いわゆる一般的なアパレルブランドであるネストローブだろう。
そこまで特殊なテイストではないブランドの組み立て方の参考事例にはなるだろう。

http://nestrobe.com/

業界紙にも経済誌にもあまり掲載されないが、このブランドは元は縫製工場である。
ネキストという会社がブランドを運営するが、この会社は大阪服装縫製工業組合の組合員名簿に名前を連ねている。

http://www.ho-you.or.jp/member/member.html

で、ブランド立ち上げの沿革だが、、独立行政法人中小企業基盤整備機構のウェブサイトに詳しい。

http://www.smrj.go.jp/index.html

その中の

http://www.smrj.go.jp/keiei/dbps_data/_material_/common/chushou/b_keiei/keieiseni/pdf/34668-080-087.pdf

である。

昭和25年創業のネキストは、平成16年度の自立事業をきっかけに自社 ブランド「ネストローブ(nest Robe)」を立ち上げ、 1年弱で東京・青山 に直営店をオープンした。

とある。

さらに

ブランドを生産面から支えるのが大阪本社の縫製工場だ。木戸は「従来 のカットソーのOEM事業で培ってきたものづくりのノウハウとクイッ クレスポンスの生産体制があったから成功できた

ともある。

もともとはカットソーのOEM生産を手掛けていた縫製工場なのである。

生地工場や染色加工業、縫製工場などが自社ブランドを立ち上げる場合、かなり参考になる事例といえるが、取材嫌いなのか業界紙でも経済誌でも記事を見かけたことがない。

ただ、開始したのが今から12年前なので、その当時の社会情勢とはまた細かな部分で変わってきているので、そのまま当てはめても難しい部分はあるだろう。
例えば、このナチュラルテイストのブランドを今から立ち上げて市場に参入できるのかとか、そもそも現在「ロハスブーム」が続いているのかなどの部分が疑問である。

けれども、あまり特殊なテイストではないアパレルブランドを立ち上げるという根本的な課題は、ネストローブを研究することが分かりやすいのではないかと思う。

それはさておき。

産地企業がどうしてそういう助成金ゴロにたやすく付け込まれるのかというと、産地企業が外の業界を見ていない、耳に痛いことを言う人を嫌う、というところが多いためだろう。
必然的に、長い付き合いのあるいつものお仲間のあの人に頼もうということになる。
彼らは厳しいことは言わないし、長年の付き合いで気心はしれている。
ノウハウがないことと成果を出さないこと以外は、産地企業としてはめちゃくちゃ付き合いやすい。

いわば関係性の深さだけで成り立っているといえる。

関係性を構築するのはビジネスでは必要だが、ノウハウも手腕もなく関係性の深さだけでビジネスを行うということは究極的にはこういう助成金ゴロになってしまう。

産地企業がブランド事業を成功するためには、関係性は浅くても助成金ゴロではないプロデューサーやコーディネイターを選ぶことが重要だろう。



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