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南充浩 オフィシャルブログ

イオンリテールは新レディースブランド「ムーディラ」で何を目指したのかよく分からない

2016年9月14日 企業研究 0

 イオンリテールが9月10日にヤングレディースの新ブランド「ムーディラ」を渋谷109に出店した。

店舗をまだ見ていないので、店に関する感想を述べることはできない。

ただ、このブランドは何を目指しているのかが皆目わからない。
大手総合スーパー各社の衣料品は苦戦を続けているから、それに対してのイメージ向上だったり、新販路開拓が目的だと想像できるのだが、果してそれが実現できるかどうかは非常に怪しいと個人的には見ている。

大手流通企業がテナントとして他社商業施設に出店するという例は、三越伊勢丹の先例がある。
イセタンミラーや今年3月に改装を終えた大名古屋ビルヂングに初出店したイセタンハウスなどである。
凋落し続ける百貨店が、自主編集した商材を他社商業施設内でテナントとして販売するというやり方である。
基幹である百貨店事業において、既存店の売上高を増やすことも、百貨店の新店オープンをすることもかなり難しい。そう簡単に既存店の売上高が増やせるのならとっくに増やせている。

また目ぼしい立地にはすでにほとんど百貨店が出店しており、現在出店のない地域というのはもともとが売上高が見込めない。こういう状況で新たに百貨店を出店することは事実上不可能である。

となると、他社商業施設内にテナント出店をすることで会社としての売上高を増やすことは理に適っている。

イオンリテールのこのブランド出店も他社商業施設内にテナント出店することで会社としての売上高を増やそうという狙いは当然あるだろう。
まったくの推測だが三越伊勢丹のそういう動きにヒントを得た部分もあるのではないかと思う。

しかし、イオンリテールのやり方には現段階において疑問点しか残らない。

まず、イオンリテール本体の衣料品のイメージ向上が果たしてこのやり方で実現可能なのかどうかという点である。

イセタンミラーやイセタンハウスに倣うなら、イオンやイオンリテールという名称はどこかに残さねばならない。
トップバリュでも良いだろう。
「イオン ムーディラ」とか「ムーディラBYトップバリュ」とかが理想である。

だが、プレスリリースを読む限りにおいて「ムーディラ」というブランドがそういう表記をされているのを見たことがない。

おそらく先日オープンしたショップでもそういう表記がされていないのではないかと考えられる。

そうすると、一般消費者に対してムーディラとイオンの関係はまったく伝わらないということになる。
イオン側からすれば「プレスリリースを配布して、メディアも記事を書いているから多くの消費者に伝わった」と考えていると思うが、それはまったくの幻想にすぎない。

そんな告知記事なんてほとんどの消費者は気にも留めていない。
読んでいるのはメディア関係者と業界関係者くらいだろう。

仮にムーディラが大ヒットしたとして(可能性は極めて低いと思うが)、この展開方法では、ムーディラというブランドをイオンやイオンリテールとリンクさせて認識する消費者はほとんどゼロに近いと推測される。

じゃあ、このブランドを開始したのは何のためだろうということになる。

今後の新規ビジネスを想定して新たなノウハウを蓄積するために自社が苦手とするファッションブランドを開始したとも考えられるが、売上高は別として収益性が激烈に悪化しているイオンリテールに、失敗することが高確率で見込めるような新規ビジネスに投資できるほどの資金的余裕があるとは思えない。

逆に「イオン ムーディラ」とか「ムーディラBYトップバリュ」と表示したとすると、これはまたファッションブランドとしては売りづらくなる。
昨今では「イオンモールはファッショントレンドをけん引している」なんて言説もあるが、田舎のファッショントレンドをけん引しているのはイオンモールに入店するテナントブランドであって、決して「イオンモールそのもの」がトレンドをけん引しているのではない。
イオンモールに入店しているテナント店に対してファッションイメージを抱く消費者はいるだろうが、「イオンモールそのもの」にファッションイメージを抱く消費者は極めて少ない。

イオンのイメージ付けがファッションブランドに対しては逆効果になると考えたから、あえて「ムーディラ」のみの表記にしたのではないか。

となると、ムーディラが売れようと売れまいとイオンやイオンリテールに対するイメージ向上にはあまり役に立たないということになる。

じゃあ、一体何のためのブランド開発なのかとますますわからなくなる。

ムーディラ自体はどうかというと、ルック画像を見るにおいては「極めてフツー」という感想しかない。
平均とか標準とかいう表現しかできない。

無題
無題1

(ムーディラの商品画像)

「気まぐれな女の子の心を掴む、おしゃれでラフなスタイル“Girl’s street style”」をテーマに、スニーカーを軸としたストリートスタイルのファッション。

コアターゲットは23~25歳の女性。

2018年を目途に駅前のターミナルビルやファッションビルを中心に15店舗の出店を目指す。

アイテム数は、アパレルや雑貨(シューズを含む)約110アイテムで、
価格帯(税込)はトップスが2,149円~7,549円、ワンピースは5,389円~7,549円、デニムは税込7,549円~11,869円、アウターが7,549円~15,109円など。

とのことだが、ルック画像を見る限りにおいては、23~25歳向け女性より下の年代がターゲットに見える。
大学生向けブランドではないかと思う。

23~25歳という年代は、もう就職している。
昨今は女性の方が就職内定率が高いからほとんどの女性が企業に就職していると考えられる。

そうした女性がこんな「ストリートカジュアル」を好んで着るだろうか。
間違いなくこの服装は多くの会社でNGである。

ストリートファンの女性ももちろん存在するだろうが、着用頻度は学生時代に比べて極めて低くなる。
週に2日着るか着ないかだろう。
そんな着用頻度が低い服を頻繁に購入する23~25歳女性がどれほど存在するのか。
独身で可処分所得が多いとはいえ、初任給は20万円前後であるから、都心で暮らしているならそこまでゆとりはない。

出店場所が都心ターミナルなのだから、ターゲットも当然都心近郊に住んでいる女性と考えるべきだろう。
そうすると、そもそもターゲット設定と商品のテイストがミスマッチなのではないかと思う。

価格はイオンのトップバリュよりも1ランク上という感じに見える。
決して高すぎるとは思わないが、リーズナブルだとも思わない。
価格で言えば、他の109ブランドと横並びだろうと思うから特別に価格競争力があるわけではない。

商品のデザインが特徴があるかと言われると、さっきも書いたように「極めてフツー」としか言いようがない。

となると、強烈なアンチも発生しない代わりに強烈な支持者も生まれにくい特徴のないブランドということになる。

それに凋落しきっている渋谷109へに第1号店を出店するというのもなんだか微妙な選択である。
「ファッション=若い女性=渋谷109」というステレオタイプな発想はいかにも脂ギッシュなオッサン的である。
華麗なる加齢臭が漂うほどオッサン的だ。

独自のファッションブランドを開発したいという意欲は理解できるが、イオンに限らず大手総合スーパーはこれまでの開発手法と固定概念を見直すべきではないか。そうでなくては、100年やってもファッションブランド開発なんて成功しない。




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