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南充浩 オフィシャルブログ

スタートから1か月間で600本を出荷したジーンズブランド「BMC」

2016年9月7日 ジーンズ 0

 リストラ、ブランド廃止、大量閉店、会社倒産、廃業が日常茶飯事なアパレル・繊維業界において、年齢制限やらその他もろもろの理由で再就職ではなく、独立・起業を選ぶ人もいる。

そういう人から相談を受けることが増えたが、基本的には筆者はこの業界での起業をあまりお勧めしない。
右肩下がりの業界なので確率論で言えば失敗する確率の方が高いからである。
今では大企業然としている大手アパレルだってその昔は起業からスタートしているわけだが、彼らの多くは戦後直後とか高度経済成長期やバブル期に創業しており、もちろん並大抵の苦労でなかったことはいうまでもないが、商品が欠乏していた時代なのである意味で、商品を並べたら売れたという要素も大きかった。

もともと商品自体がなので、「市場に無い物」を提案すると売れる確率が高かった。
しかし、現在はそういう時代ではない。
物はあふれているし、基本的にどんなデザイン・テイストの服も流通している。
「画期的に新しいデザイン」の商品というものを考案することすら難しい。

プラットフォームの時代だ!なんていう人もいるが、すでにプラットフォーム自体が溢れかえっており、プラットフォーム間での優劣の格差が大きくなっている。
結局は、品ぞろえの豊富さと割安感(激安ではない)の競争となっており、それを突き詰めるとAmazonには勝てないよねという話になる。

一説にはAmazonの物流倉庫の広さは東京都中野区とほぼ同面積だという。
ネット上ではスペースは無限にあるから、Amazonは中野区と同じ広さの倉庫に並べた商品をネット上で見せられるということになる。
そして価格幅も大きい。高額品もあるが、激安商品もある。

ここで伊勢丹新宿店がいくら「品揃えの豊富さを追求しました」なんて言ったって、中野区ほどの広さの倉庫にある商品すべてを見せているAmazonに勝てるはずもない。
逆に伊勢丹新宿店の品ぞろえの中途半端さが目立つだけになる。
イオンモールがいくら広大でも中野区ほどの広さはない。

この話はまた後日書いてみるが、そういう状況なので、新しいブランドがおいそれと売れる可能性は極めて低い。

安全なのはOEM/ODM屋を開業することだが、ここもすでに山ほど競争相手があって、大手とつながらないと生き残れない。多くの競争相手があるから大手は強気で工賃とマージンを叩いてくる。
嫌ならよそへ仕事を振るよというわけだ。
1枚のマージン50円で100枚のロットの製造を請け負わなくてはならなくなる。
だからOEM/ODM屋を開業するのも茨の道である。

そんな中、エドウインを退職して、ジーンズブランドを起業した人がいる。
ブリッツワークスという社名で、ブルーモンスタークロージング、略して「BMC」というブランドを開始した。

http://www.bmc-tokyo.com/

こんなブランドである。

価格は6900円、生地と加工は日本、縫製は中国製。

販路はジーンズ専門店チェーンで、ターゲット層は30代・40代の父親で、いわゆる昔ながらのジーンズカジュアルが好きな男性と設定する。
ちょっとコテコテ系の加工である。

IMG_1678

で、相談を受けたのだが、正直なところなかなか厳しいのではないかというのが最初の感想だった。

なぜなら、5900・6900・7900円というのはジーンズというアイテムで要望は多いが、メーカーの供給が少ない価格帯である。
市場規模としてはそれなりにあると個人的には見ているが、メーカーからすると「旨味がない」とか「売りにくい」と思われている価格帯で、ほぼ真空状態になっている。

そこにあえて参入するというのは、ハイリスクハイリターンといえる。

しかし、決心が固いようでそのまま起業して活動を開始された。

今回、東京出張で現状をうかがうことができた。
7月末に店頭デビューして、なんと1か月間で600本を地方のジーンズ専門店チェーンに納品したという。
8月も商談が好調に進み、9月末には納品が累計で1000本を越える見込みだともいうから恐れ入る。

失礼だが無名のブランドで活動開始早々にこれだけの本数を納品できるのは、上場の滑り出しといえるのではないだろうか。
社長となった青野さんの営業力がすさまじいと思う。

9月以降の商況がどうなるかはまだまだ予断を許さないが、注目の新ブランドといえる。

青野社長と初めてお会いしたのは、昨年10月のデザビレで開催した講演会でだった。
TOKIOの長瀬智也似のイケメンがけっこう前の列で座っておられて、ちょっとウケを狙ってしゃべってみても、ニヤリと不敵な笑み(に見えた)を浮かべるだけだったので、「後でしばかれるかも」と壇上から内心ちょっとビビっていたのだが、終わってから懇親会で話してみると好青年だったのでホッとした次第である。

個人的には5900~7900円で、それなりにデザイン性のあるジーンズは市場に必要ではないかと思っていた。
業界の人も含めて多くの人が事実に反してこう考えている。
「3990円のユニクロか、1万円を越えるジーンズしかない。この価格差はつらい。ユニクロに2000~3000円足して買えるようなファッションジーンズがほしい」と。

実際はそうではなくて、探せば5900~7900円の商品はある。少ないけど。
ただし、あるという情報が消費者にも業界人にもあまり伝わっていないのだ。

そんなわけでその市場に飛び込んで上場の滑り出しを見せた青野社長の胆力には驚嘆するばかりである。

5900~7900円のファッションジーンズというジャンルをぜひとも確立してもらいたいと思う。





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