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南充浩 オフィシャルブログ

売れ筋商品のコピーを企画製造するだけならブランドを名乗る必要はない

2016年9月2日 トレンド 0

 大手アパレルの展開ブランド数は減少傾向にあるが、市場全体で販売されているブランド総数は減ってはおらずむしろ増えているのではないかとさえ思われる。

理由は、アパレルが倒産したり、ブランドを廃止したりするとそこに属していたスタッフが独立して(せざるを得ない場合が多い。新しい就職先が決まらないから)、また新たにブランドを立ち上げることが多いからだ。

仮にも「ブランド」を名乗るのであれば、ブランドコンセプトやターゲット設定はそれなりにされているはずで、それがないなら単なるOEM/ODM屋と同じである。

しかし、そうは言っても、取引先からの要望があれば売上高を拡大する目的から、単なる売れ筋アイテムを企画製造することもある。

例えば、中古加工を施したワイルドな表情のジーンズブランドがあったとして、納入先の店舗から「黒のツルッとしたストレッチパンツを作ってよ」と依頼されれば、事業主としては作るだろう。
しかも「100本全部買い取るから」と言われればなおさらだ。ビジネスを拡大するチャンスでもある。

もちろん、ここで断るという手もある。
現在の売り上げ規模で満足しているからそれ以上広げようとは思わなくても当然である。

どちらが正しいとはいえない。

これが単なるODM屋なら依頼主の要望通りの商品を作ればよい。
黒のツルっとしたストレッチパンツだろうが、フリフリのフェミニンなスカートだろうが、セクシー系のきわどい露出のあるTシャツだろうが、依頼主の要望通りに売れ筋をコピーすれば良いと思う。
それがODM屋としての仕事である。

ただし、「ブランド」を名乗っているならそういう、売れ筋をそのままコピーしたような商品を作るべきではない。
自ブランドのコンセプトやターゲットに照らし合わせてアレンジを加えるべきである。
そうでなければ、わざわざ「ブランド」を名乗る必要もない。

ワイルドな表情のジーンズブランドだったら、黒のストレッチパンツも幾分ワイルドにアレンジすべきであろう。
それはディテールによってなのか、後加工によってなのかはまた事業主の判断次第だが、セクシー系ブランドのような黒のストレッチパンツは、いくら依頼主の要望でも作るべきではない。

現在の各店頭が同質化しているのは、OEM/ODMに頼り切った企画のせいもあるが、各ブランドが売上欲しさに、トレンドど真ん中の製品を企画製造するからではないか。

仮にMA-1タイプのブルゾンがトレンドだったとして、ナイロン素材のオリーブグリーンのMA-1を全ブランドが企画製造するのはおかしな話である。

いささか誇張して例えてみる。

もう勢力を失ったが、「森ガール」テイストのブランドがナイロン素材のMA-1タイプのブルゾンを企画製造して店頭に並べるのは、ブランドコンセプトと照らし合わせても、ターゲット顧客から考えてもおかしな話である。
じゃあ例えば、素材をツイードに置き換えてナチュラルな配色にするとか、襟無し・ショート丈という部分をクローズアップして、襟無し・ショート丈ジャケットとしてアレンジするとか、そういう工夫が絶対に必要になる。
そうでなければ、「ブランド」を名乗る必要がない。

個性的なデザインの商品を増やし、それを生み出せるクリエイターを要請することが、店頭の同質化を防ぐ方策だとは思わない。
むしろ、それはデザイナーズブランドとかコレクションブランドの強化策であり、そういう商品が商業施設を埋め尽くすことなど現実的ではない。
一般大衆の需要もそこにはない。

なぜ、ブランドの同質化が起きているのかというと、ブランドが自身のコンセプトやターゲット層を無視して、安易な売上獲得に走ったからではないか。
トレンド情報をアレンジすることなく、そのままの商品づくりをしたからではないか。

なるほど、トレンド情報そのままの商品を製造したほうが売れやすいように感じる。
実際のところは、MA-1ブルゾンを森ガールブランドに求める消費者なんてほとんどいないから、売上高はそれほど劇的には稼げない。
たまたま通りがかった人が「これでもいいや」という感じで買うことがある程度で、その客が今後リピーターになるかというとその可能性は極めて低い。

各ブランドがそういう安易な物作りを推し進めた結果が店頭の同質化である。
店頭が同質化すれば、価格競争になる。
MA-1タイプのブルゾンでいえば、アルファインダストリーのような「その道で定評のある」ブランドか、3990円のユニクロかのどちらかが選ばれることになり、多くの消費者は3990円のユニクロで買う。

森ガールブランドが作ったMA-1ブルゾンなんて欲しがる人間はほとんどいない。

そういう安易な企画を多発することは、既存顧客を失望させるだけでなく、新規顧客の獲得も難しくしている可能性も高い。

なぜ、ODM屋ではなく、ブランドを名乗ったのか。
自ブランドのコンセプトとターゲットは何なのか。

これをもう一度見つめなおしてみてはどうか。
そうすれば、店頭の同質化は防げるはずだ。


TSUTAYAの謎
川島 蓉子
日経BP社
2015-04-29


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