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南充浩 オフィシャルブログ

なくなっても困らないから売上高が半減した西武筑波店

2016年8月9日 百貨店 0

 先日、セブン&アイが西武筑波店と西武八尾店の閉店を発表した。

これに対して感慨のある人も多いようで、業界内にも特別な感慨を持った人がいるようだ。
しかし、関西生まれの関西育ちである筆者にはほとんど何の感慨もない。

八尾市民と高槻市民は別として、関西人で西武百貨店に対して特別な感慨のある人は少ないのではないか。
なぜならその2店舗以外存在しないから西武百貨店にはほとんど親近感がないからだ。

今でこそ均一化されているが、少し前まで関西と東京の商業施設文化はかなり異なっていた。
西武もさることながら、伊勢丹しかり、パルコしかりである。
伊勢丹もパルコもまるで親しみがない。
どれもほとんど店舗がなかったからだ。

筆者は今でも西武にも伊勢丹にもパルコにも親しみをまったく感じない。
観察すべき対象物としての興味はあるが、「マイストア」的な親しみは一切ない。

それはさておき、そんな中、西武筑波店閉店に関するニュースが掲載された。
どうもその論調が奇妙なのである。

「西武なくなると困る」…街活性化に大きな影響
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20160803-OYT1T50034.html?from=tw

そごう・西武の発表によると、同店はピーク時の1991年度には248億円の売上高を記録したが、周辺地区に進出した大型ショッピングセンターとの競合が激しくなり、業績が悪化。2015年度の売上高は128億円と1991年度に比べ半減した。

と背景説明がある。これはわかる。
奇妙なのは以下の部分だ。

 市はTX(つくばエクスプレス)の開業などを背景に人口増が続いている。一方、つくば駅周辺の中心市街地は、公務員住宅の廃止や、郊外型の大型商業施設の相次ぐオープンなどが影響し買い物客が減少、活性化が課題となっている。

買い物客からも残念がる声が聞かれた。つくば市内から友人と訪れた50歳代の女性は「品ぞろえが良く、『西武にならある』というイメージだった」と話す。北海道物産展などで頻繁に利用していたという。「今後、贈り物などはどこで買えばいいのか……」

 阿見町から来た60歳代の夫婦は「我々の世代は、お中元やお歳暮などきちっとした品は百貨店で買いたい気持ちがある。西武がなくなるのは困る」と話した。

とあるが、人口増が続いているのに、西武の売上高が伸びないならそれは西武という商業施設自体が消費者から見放されているということになる。西武としては閉店を選んで当然だろう。

市長は「地域活性化ガー」と言ってるらしいが、開業後何十年も経過して活性化できていない地域なら、仮にこのまま西武が残ったとしても活性化できないだろう。
可能性があるならこれまでにとっくに活性化できている。

また見出しもおかしい。
「なくなると困る」くらいに支持されている店舗なら売上高は半減しない。
半減したということはなくなっても一部の人以外は困らないということである。

贈答品の買い場を心配する老人世代の声を載せているが、それなら、例えば、西武に嘆願書でも出して贈答品専門の小店舗を出してもらうことを働きかけてみてはどうか?
どうせ贈答品しか買うものがなかったのだろうから、30~50坪くらいで贈答品専門の「西武」の小店舗を出してもらえれば事足りるのではないか。

一方、同じネタを東洋経済オンラインも掲載している。
こちらの論調は読売新聞に比べるとずいぶんとまともである。

西武筑波店を閉店に追い詰めた「TX」の存在
交通の利便性向上で百貨店が「危機」に陥った
http://toyokeizai.net/articles/-/130841

要するに、つくばエクスプレスが開通して45分で秋葉原まで行けるようになったことが大きいと書かれている。
百貨店で買い物をするなら東京都心に出るという人が増えたということであり、いわゆるストロー効果といえる。

これは筑波に限らず、都心近郊の都市ならどこでも同じ問題を抱えているといえる。
高槻だったら15分ほどで梅田に着く。
だったら梅田に出向くという人は多いだろう。
梅田のほうが格段に品ぞろえが多い。

西武八尾店については書かれていないが同様ではないかと思う。
20分ほどで難波に着く。
だったら難波で買い物をする人が増えるのではないか。

都心近郊の都市はどこでもこのストロー効果の餌食になる。
地元で買うものといったら、日々の食料品と日用消耗品程度ではないか。
1房100円のバナナをわざわざ梅田や難波や原宿で買いたいという人はほとんどいない。
それこそ地元駅前で仕事の行き帰りに買うのが一番利便性が高い。

それに加えて筑波店の場合は、近郊に郊外型ショッピングセンターが2000年代に4つもできた。
自動車利用客はそちらに奪われる。

八尾店の場合は隣接して2006年にアリオが開業した。
同じグループだから相乗効果を狙ったのだろうが、逆に客を奪われたのではないかと感じる。

都心まで電車での片道移動時間が50分圏内の地方都市の駅前店は今後ますますストロー効果で苦しめられるだろう。
とくにファッション衣料品を主体とするような商業施設は立ち行かなくなる。
一方、1時間を越えると「わざわざ感」が出るので、都心には行かない。

筆者の実家は大阪市内の天王寺まで20分ほどで行ける。
だから近隣の人はみな天王寺に出て買い物をする。
一方、京都市内までは片道1時間半前後かかる。だからよほどの用事がない限りは京都市内には行かない。

西武筑波店、西武八尾店に限らず、都心に近い地方都市百貨店は今後ますます存続が難しくなると見ている。
贈答品需要だけでは駅前の大型商業施設など維持できるはずがない。

読売新聞の論調は論外であり、西武筑波店は消えるべくして消えたといえる。それ以外の何物でもない。



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