先ごろ非常に話題になった記事といえばこれだろう。

「爆買いバブル」終了で閑古鳥が鳴く、銀座の高級デパートの惨状と後悔

もっと日本のお得意様を大事にしておけばよかった…
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49052


要するに中国人の爆買いがピークアウトしてしまったという内容である。
中国人を重視し過ぎたために日本人の富裕客も離れ、まさに「二兎追うもの一兎をも得ず」を絵に描いたような結果となってしまった銀座の百貨店の話である。

元々日本人の百貨店での消費が落ち、それをカバーするために外国人観光客に力を入れた。
これは銀座に限らず、東京都心・大阪都心の百貨店に共通した施策である。
力の入れ方は店舗間格差がある。

そういえば、昨年にも「難波の百貨店で日本人客が不満を募らせている」という記事が掲載されたことがあった。
しかし、時期的にはまだ爆買いピークだったのでそれほど話題にはならなかったが、水面下では確実にそういう傾向が強まっていたということが、初めて納得できた人も多いのではないか。

今回の記事は週刊誌に掲載されたので、いささか目を引きやすい大げさな表現があるが、実はこれは百貨店側も認識しており、三越伊勢丹の幹部も「中国人客を重視しすぎて日本人の富裕層が離れた」と反省の弁を筆者に述べたことがある。

大阪の心斎橋は相変わらず中国人観光客であふれている。
去年よりも多いのではないかと思うほどだ。
もちろん彼らは買い物をしているが、見ている範囲でいうと、主にドラッグストアでの買い物が多い。
あとはユニクロ、H&M、ABCマートなどで低価格の衣料品や靴を買っている印象が強い。

以前のように高級ブランドを買い漁っているという印象は薄い。

心斎橋には大丸という百貨店がある。
本館は現在、改装のために閉鎖されており、北館での営業となっているが、見ている範囲内では北館はそれほど混雑していない。
一部のラグジュアリーブランドがテナント入店しているが、中国人客でにぎわっている様子はあまりない。

東京都心を越えるほどに中国人観光客が集まる心斎橋筋商店街にあって、現在の大丸はその恩恵をあまり被っていないように見える。

爆買いがピークアウトした理由について様々な要因が指摘されている。

一つには中国人観光客の買い物の中身が変わっているという指摘があるがその通りではないか。

まず、高級ブランドや百貨店衣料品からドラッグストアでの低価格な薬品やコスメ、サプリという指摘は商店街を見ていると的中しているといえる。
コクミンドラッグはごった返しているが、大丸北館はそれほどでもない。
ユニクロやジーユーはごった返しているが、大丸北館はそれほどでもない。

「モノ」より「コト」消費に変わっているという指摘があるが、これは的中しているかどうかはわからない。
そういう人が主流になっているというよりは、そういう人も出てきたという程度ではないかと思う。

次に中国人観光客は増加しているが、富裕層が増加しているのではなく中間層やそれ以下の層が増えているという指摘があり、これもその通りなのではないか。
金を持っていない層がいくら来ても高額品はそれほど売れない。金がないからだ。
それで潤うのは低価格物販店か低価格飲食店くらいだろう。
そしてそれらは百貨店には入店していない。

あと、元安が進んでいるから購買力が落ちているという指摘もあり、これはその通りだろうし、高額品はこれまでに買いそろえたから、今後はあまり買わないのではないかという指摘もある。

これらの指摘はすべて正しいと考えられる。

難波の百貨店の記事が掲載されたときは爆買いがピークアウトしていなかったこともあり、「金を落とさない客(日本人)よりも金を落とす客(中国人)を大切にするのは当たり前」という意見もあったが、結果的にはこの意見は正しくなかったということである。

中国人に限らず、外国人の「爆買い」なんて未来永劫続くわけもない。
少し考えればわかることである。
どう考えても一過性のブームである。このブームが3年で終わるか、5年で終わるか、10年で終わるかは見方が分かれるところだが、中国人の爆買いブームは去年いっぱいか今年の春先で終わったと見るべきだろう。

個人的には「金を落とさない客は要らない」というなら、金を落とさない中国人客は不要だと思う。

それはさておき。

国内での百貨店という業態を考えたときに、実態は別として多くの日本人に対して「ステイタス性」があることは今も否定できない。
百貨店自体もピンキリだから、ステイタス性のない百貨店もあるし、いまだにそれなりのステイタス性を維持できている百貨店もあるが、「百貨店」全体として見るなら、それなりにステイタス性は高い。
イオンモールよりははるかに高い。

イオンモールが新しいファッション集積地だという意見があり、それはある程度は正しいと思うが、じゃあ、贈答品を買うときにイオンモールで「わざわざ」買う人はそれほど多くない。
「わざわざ」贈答品を買うなら百貨店だろう。

ちなみに、筆者の母親世代より上の年配層では百貨店の中にも序列があって、電鉄系の百貨店は下位ランクだと認識している人は多い。
関西だと、旧そごう、大丸、高島屋、三越あたりが高ステイタスで、電鉄系の近鉄、阪急、阪神、京阪は一段落ちると認識している年配層は多い。

序列はあるにせよ、そういう業態だから、本来はリピーターを最重要視せねばならないのではないか。
新規客獲得も重要だが、それ以上にリピーターを最重要視せねばならない。
リピーターの多くは富裕層だし、それに類する人々が多い。筆者のような人間からすると、年々売上高が下がり続ける斜陽産業の百貨店の何がありがたいのかさっぱりわからないが、富裕層で生まれ育った人はそうではないらしい。

一見さんよりもリピーターを重視する高級料亭は多い。

百貨店も本来はそうあるべきではなかっただろうか。
とくにステイタス性が高いと認識されている百貨店はそういう施策を取るべきだったのではないか。
もちろん新規顧客獲得も重要だが、新規顧客の方がリピーターよりも重視されていると感じさせるような取り組みだったのなら、それは失敗だったということである。

銀座の百貨店で富裕層の顧客が離れたということはそれを物語っているのではないか。
富裕層の顧客に戻ってきてもらうには、またある程度の時間がかかるだろう。百貨店業界はさらに厳しい状況に立たされてしまった。


爆買いの正体
鄭 世彬
飛鳥新社
2016-02-13