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南充浩 オフィシャルブログ

安売りに集まるのは「安売り」が好きな客。リピーターにはなりにくい

2016年7月5日 考察 0

 安売りで寄ってくる客は、大半以上が「そのブランドが好き」なのではなく、「安売りが好き」なのである。
もちろん中には、「このブランドが好きだったけど定価では高くて買えなかった」という客もいるだろうし、バーゲンで買ってくれる客も在庫処分を行うには必要である。

しかし、安売りに来る客に過剰に期待するのは、これもブランドや店にとってはマイナスにしかならない。

英国がEUの離脱を決めたことでポンドが下落した。
我が国の株価も一時的に大きく下落したがその後ある程度までは回復し小康状態が続いている。

中長期的にはどのようになるのか予断を許さないが、いわゆるEU残留派(イギリス人以外の)がヒステリックに騒ぎ立てるほどの被害は短期的には出ないかもしれない。
むしろ、残留派はEU離脱で何も起きないことを恐れているのではないかとも思う。

それはさておき。

先日、こんな記事が掲載された。

中国人の爆買い客、ロンドンに殺到 ポンド安で「買いまくれ」 訪問先を日本から変更
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/160701/mcb1607010500015-n1.htm

欧州連合(EU)離脱の影響が懸念されている英国で、観光業界や高級ブランド業界が思わぬ好況にわいている。先行き懸念からポンド相場が急落したことを背景に、円高をきらった外国人観光客が日本から英国に訪問先を切り替えているためだ。ポンド安がEU離脱に伴う英経済の痛手を和らげることになりそうだ。

ポンド安の恩恵を受けているのは、老舗ブランドのバーバリーや百貨店ハロッズなど英高級品店やメーカーだ。外国の観光客はただちにポンド安に反応。中国のインターネット旅行会社大手の携程旅行網のサイト上では英国旅行についての検索件数が急増。同国のニュースサイト鳳凰新媒体はロンドンを訪れる中国人旅行者に「買いまくれ」と爆買いを推奨している。

とのことである。

安売りや過剰なバーゲンセールを行い、それが適切に伝達できればある程度は客数が集まる。
それで集めた客はこの記事の中国人のように、大半以上は「より安い店」へと移る。

中国人は日本もイギリスも別にどっちだってかまわないのである。
「バーバリー」が安くて手に入るならそれが日本だろうがイギリスだろうが、アフリカだろうが南極だろうがどこで買ってもかまわないのである。

より安く販売されている国や地域で買うだけの話である。

これが安売り好きな客の考え方である。
この部分は日本人も欧米人も中国人も同じように考える。
彼らは買う場所や買う店よりもお目当ての商品をどれだけ安くで手に入れるかに主眼を置いている。

筆者だって似たようなものだ。
エドウインの503というジーンズは定価だと8000~1万円くらいする。
これがジーンズメイトで5900円に値下がりしていて、ライトオンで3900円に値下がりしていたら、間違いなくライトオンで買う。
筆者にとってはエドウインの503がほしいのであって、それは安ければ安いほどありがたい。
買う場所は、ジーンズメイトだろうがライトオンだろうがマックハウスだろうがどこでもかまわない。

日本からイギリスに買う場所を移した中国人もこういう考え方をしている。

そして多くの安売りに群がる客はこう考えているのである。

だから安売りに群がる客を優遇してもその客はロイヤリティが低く、店やブランドのリピーターにはなりにくい。

これを理解していないブランドや店が多すぎる。
高度経済成長期やバブル期は、商品を並べていたら売れたし売れ残ったとしても値引きをすれば確実に消化できた。
若いときにそれを経験したブランドや店のお偉いさんはその感覚がいまだに抜けきらない。

またそういう人は、定価を下げれば売りやすくなるとも思っており、安易に定価を引き下げたがる。
定価自体の引き下げはある程度の効果はあるが、それも価格帯と引き下げ度合との兼ね合いだろう。必ずしも効果があるわけではない。

1990円を990円に値下げすればかなり売りやすい
一方、23000円を22000円に値下げしたところでほとんど効果は出ない。
どちらも1000円の値下げである。

消費者的に考えれば、1990円より990円は圧倒的に買いやすいと感じる。
千円札が2枚消えるか、1枚で済むかは大きな違いがある。
しかし23000円が22000円になったところで、あまり買いやすいとは思わない。
23000円の商品を買うためには財布の中に25000円くらいは用意しているので1000円くらいの値引きはほとんど魅力を感じられない。

自分が買い物をするときの心理を考えれば容易にわかりそうなものだが、意外にブランドや店の当事者になるとそれが見えないらしい。
23000円を22000円に引き下げれば売りやすくなると考えている人が意外に多い。
またその逆も多くて、23000円を24000円に値上げすれば売れ行きが極端に減ると考える人も多い。

この考え方をする人は別の層ではなく同一人物なのだが。

こういう思考の人が、製造加工業者に対して「1円でも工賃を引き下げよう」とする。
極端な事例でいうと「工賃を50円安くしてくれ」という業者はかなり多い。
彼らの商品の店頭販売価格はだいたい5000~15000円くらいだ。
販売価格が1000円とか2000円なら50円は大きな意味を持つが、5000円を越えると工賃が50円値引きされたところで販売価格はほとんど変わらない。

しかも彼らの生産枚数は100枚程度なのである。

50円を100枚分値引かせたところで、5000円の節約にしかならない。
毎晩5000円以上酒を飲んでるだろうからその飲み代を1回分節約してみてはどうか。

こういうみみっちい原価引き下げを要請して製造加工業者のやる気を失わせている有名ブランドはけっこう多い。

「物」と「値段」は重要ではあるが、それだけでは現在の先進国で売るには不十分である。
それだけだと上記の中国人客のような安売りイナゴを呼び寄せるだけになる。安売りイナゴはさらに安いところがあればそちらに簡単に移動する。
また、「物」と「値段」のみの視点だと、安易な定価引き下げとそれに伴うみみっちい工賃引き下げも多数引き起こす。

「物」と「値段」ともう一つの価値要素が加えられたのが正しいブランドビジネスだろう。
そしてそれができないブランドや店は今後、容赦なく淘汰される。



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