髙い事業計画を掲げる新生イーブスの勝算は?
2016年6月29日 企業研究 0
会社清算された遊心クリエイションのSPAブランド「イーブス」の商標権をはるやま商事が買い取った。
はるやま商事が「イーブス」を取得
https://www.wwdjapan.com/business/2016/06/28/00020869.html
はるやま商事は7月、新たな子会社を設立し遊心クリエイションが運営していた「イーブス(YEVS)」の商標権を譲り受ける。新たなターゲットは28~45歳の女性。価格帯はトップスが2000~6000円、ボトムが3000~7000円などを予定する。今秋から、年間5~10店の出店を計画し、5年後に売上高100億円を目指す。
とのことである。
それにしてもはるやま商事は、廃止・倒産ブランドの引き取り専門業者になった感がある。
倒産後、ポイント(現アダストリア)に引き取られながらそこでもブランド解散に追い込まれた「トランスコンチネンツ」、倒産したテットオム、ジャヴァで畑違いの異色メンズブランドだった「ストララッジョ」をすでに引き取っている。
このラインナップに今度はイーブスが加わったわけである。
イーブスは今後どのような展開をするのだろう?
個人的な予想を書いてみたい。
遊心のころはメンズ、レディースの複合ブランドだったが、この記事を読む限りにおいては、レディースのみの展開となりそうである。価格帯は遊心のころとほとんど変わっていないので、販路は、ショッピングモールと一部のファッションビルとなるのではないか。だとするとこれも遊心時代と変わらない。
年間5~10店舗を出店して5年後に100億円体制にすると書かれているが、5年後は25~50店舗になっているということである。
1店舗あたりの平均売上高は2~4億円ということになり、これはかなり高いハードルといえる。
最盛期のイーブスは40店舗強あり、売上高が20~30億円だった。
店舗数はほとんど変わらず、3~5倍の売上高を目指すというのだから計画達成はかなり難しそうだ。
商品単価が高ければ達成はまだ容易だが、単価も低価格のままでほとんど変わらない。
なら売れる枚数を3倍増くらいにさせないと計画は達成できない。
かなり厳しいと言わざるを得ない。
スーツの「はるやま」内部でも売るのじゃないかという指摘があるが、これはちょっとピントがズレているのではないか。過去に引き取ったブランドでそのような展開をしているブランドはない。
別店舗として運営されている。ストララッジョもテットオムも相変わらずファッションビルに単体店舗として継続されている。
トランスコンチネンツはほとんど鳴かず飛ばずで見かける機会もほとんどないままに何年も過ぎているが、これはさすがに再生不可能なのではないか。
末期の遊心は卸売りブランドをすべて廃止し、SPA型の3ブランドを展開していた。
雑貨のASOKO、このイーブス、レディースのグランデベーネである。
ASOKOは早々にパルが引き取ることを決定した。スリーコインズを社内最大のブランドとして展開しているパルにとっては親和性が高いからである。
残り2つのブランドの引き取り先がなかなか決まらなかったが、イーブスが今回決定した。
残念ながら規模が小さく、もっとも話題性に欠けたグランデベーネはこのまま廃止になるだろう。
イーブスが今まで引き取り先が決まらなかった原因は、「鶏肋」だったからではないかと見ている。
鶏肋とは三国志からの逸話である。
曹操と劉備は漢中という土地を巡って激突するのだが、戦下手の劉備が珍しく優勢に軍を進め、曹操軍は苦境に立たされた。
どのようにすべきかと考えたときに、曹操は「鶏肋」と言ったのである。
鶏の肋(あばらぼね)は食べようとすると肉はないが、かといってしゃぶれば旨味があるので捨てるのは惜しい。漢中はそういう土地だというのである。
それを踏まえて曹操は漢中を放棄して撤退した。鶏肋を捨てて損切をしたといえる。
個人的にはイーブスはこの鶏肋だったと感じている。
すごく美味しくはないが、捨てるには惜しい。そんな立ち位置だと思う。
40店舗・30億円という規模のSPAブランドは捨てるには惜しいが、すごく美味しいというわけではない。
その鶏肋をはるやま商事が拾った。
かつての遊心のメンバーはとうの昔に散り散りになっているので、運営メンバーは一新される。
ただ、ブランドとしての立ち位置は新生イーブスは難しいのではないかと感じる。
遊心がイーブスを開始したのは2008年。これはフォーエバー21やH&Mなどの低価格グローバルSPAが上陸した年で、低価格高トレンドという部分が日本の消費者に大いに受け入れられた。イーブスはここの取り込みを狙って立ち上げられており、それはある程度は成功した。
しかし、それから8年が経過している。
低価格高トレンドというブランドは国内にも多数現れている。
それぞれテイストは異なるが、ジーユー、ウィゴーなどである。
タイムセールの鬼、アースミュージック&エコロジーもその範疇だろう。
アダストリアの各ブランドもそうだ。
また急成長中のアーバンリサーチのセンスオブプレイスもある。
中でもジーユー、ウィゴーの成長ぶりは目覚ましく、ジーユーは近々売上高2000億円に手が届くだろう。
ウィゴーも200億円を突破している。
イーブスが開始された当時のように真空状態の市場ではなく、かなりの強豪がひしめき合うサバイバル市場といえる。後発となる新生イーブスがその中に割って入って、売上高を稼ぐのは容易なことではなさそうだ。
はるやま商事と新生イーブススタッフの健闘を祈るほかない。
さて少し横道にそれるが、紳士服チェーン店各社の方向性がこれであらかた出そろったように思う。
青山商事
AOKI
はるやま商事
コナカ
オンリー
である。
メンズのスーツは今後需要が増える要素がない。
1、団塊の世代の定年退職で需要人口が激減する
2、オフィスのカジュアル化によってスーツ需要が減る
この2点が理由である。
そこでこの5社はそろってレディーススーツを強化した。
男がだめなら女も取り込もうという判断である。
人口の半分は女性なのだから、男性需要が減った分を上手く取り込めればカバーできる。
そしてその女性客狙いはそれなりに効果を出した。
レディースのオフィススタイルはメンズほどドレスコードが明確ではないから、かなりあやふやである。
メンズ並みのスーツスタイルもありだし、極めてカジュアルな服装も受け入れられる。
それゆえに、今までレディースのスーツ販売店というのはかなり少なかった。
この5社が販売してくれて助かっているという女性客は意外に多い。
しかし、その市場も開拓しつくした。
次はどうすべきか。
青山商事とはるやま商事はカジュアルの強化を選んだ。
残り3社はカジュアルには乗り出していない。
AOKIはウエディングなどの異業種に乗り出した。
一度カジュアル強化を開始し始めたのだが、失敗した。
マルフルという地域カジュアルチェーン店を子会社化したが、店舗は閉鎖され、実質的に活動は中止となっている。
コナカとオンリーに新しい動きは見えない。
コナカが何年か前に東南アジアに「スーツセレクト」を出店したくらいだろうか。
青山商事は、リーバイスストアのフランチャイズ展開とアメリカンイーグルアウトフィッターズの国内展開を手掛けている。
なぜかあまり話題とならないが、アメリカンイーグルを日本で運営しているのは青山商事と日鉄住金物産の合弁会社なのである。
はるやま商事は先にも書いたように廃止・倒産ブランドを引き取っている。
両社に共通しているのは、すでにある程度のネームバリューのあるブランドを導入するという点である。
これは畑違いの両社にはカジュアルブランドを開発するノウハウがないため極めて当然の選択だろう。
正確にいうと青山商事にはオリジナルのブランドがある。
キャラジャとユニバーサルランゲージである。
しかし、キャラジャは拡大し損ねたままで鳴かず飛ばずだし、ユニバーサルランゲージも成長しているとは言いにくい。この両ブランドを見ていると、オリジナルでのカジュアルブランド開発はやはり不得手なのだと感じる。
なにはともあれ、紳士服チェーン店各社の熾烈なサバイバルゲームの行く末がどうなるのか見守りたいと思う。