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南充浩 オフィシャルブログ

名ばかりブランドは今後ますます存続できなくなる

2016年6月21日 考察 0

 2週間前に活動が始まったブランド「ナインオクロック」だが、これの立ち上げに際して、生地問屋を紹介したり、ディスカッションに応じたりと様々なサポートを行ってきた。
そうそう、プレスリリースも作成した。

http://9oclock.co.jp/

完成した製品サンプルも送ってもらった。

好き嫌いはあるだろうが、Tシャツ単品として見た場合、完成度はそれなりに高い。
ブランド主が掲げていた「細身でスタイリッシュなシルエット」もパッと見た感じでは実現できている。
もちろん、過不足を言い出せばきりがないが、大枠では平均点以上は獲得できているのではないかと思う。

top_black01

今回は「ナインオクロック」を論評したいのではなく、アパレル勤務経験がゼロのオニイチャンが企画しても一定水準以上の商品を製造できる、アパレル業界の製造インフラのすごさを改めて感じているのである。

香取正博さん本人はデザイン画が描けるわけでもないし、パターン(型紙)を作れるわけでもない。
こんな商品が作りたいというイメージしか持っていなかったわけである。

生地の手当ては、生地問屋とか生地工場に交渉すれば何とかなる。
縫製も縫製工場と交渉すれば何とかなる。

いくら生地が良くて、縫製も良くてもデザインやシルエットがダサければそんな衣料品は売れない。
産地企業が自社製品を企画製造した際に失敗するのはこの点を理解していないからである。
頭では理解しているのかもしれないが、いざ自分が企画製造してみるとその視点を見失うのが人間である。

敵を知り、己を知れば百戦危うからずといわれるが、真に難しいのは敵を知るよりも己を知ることである。
人並みの知能があって論理的思考ができれば、敵を知ることはさほど難しくない。
しかし、自分の置かれている立場、自分自身の癖などを明確に認識するのはかなり難しい。

それはさておき。

デザイン、パターンについても簡単に外注が可能な状況だということである。
これは今に始まったことではなく、もう10~15年前くらいからそういう外注機能はあったが、近年はさらにそれが手軽に依頼できるようになっている。
そういう外注業者が増えたからだ。
フリーランスのデザイナーやパタンナーも一定数存在する。

ちゃんと代金さえ支払えば、ブランド物とそん色のないTシャツがズブの素人が企画しても作れてしまう。

これは何もTシャツに限ったことではなく、衣料品の全アイテムで可能なのである。

2年ほど前、筆者に「ジーンズを作りたい」という相談があった。
それも一個人みたいな人だった。
早速、友人のジーンズOEM業者に見積もりを取ってみた。

筆者の依頼ということで幾分か割り引いてくれたのだが、

国内生地・国内縫製、ワンウォッシュでロットは100本(サイズ込)で、1本あたり3000円

だった。
縫製工賃や洗い加工賃は変動するので、今依頼して同じ見積もりが出てくるかどうかはわからない。
が、当時はその見積もりが出てきた。

結局この話は流れて製造には至らなかったのだが、30万円(3000円×100本)を支払えば、ド素人でもオリジナルの国産ジーンズが製造できるということである。
デザインやパターンならこの業者自身が幾通りも自社内にストックがある。
素人発注者がその中から選べば、デザインやシルエットに関してもいわゆるブランド物とそん色ないジーンズを企画製造することが可能になる。

こういう状況下で、逆にこれまでのブランドが漫然とブランドを名乗り続けるということは、かなり難しくなってきたのではないかと感じる。

もちろん、ブランドは単品ではない。
月ごと・年間の商品計画が必要である。
「Tシャツだけ、ジーンズだけ、しかもデザインは1型しかありません」なんていうのは到底まともな衣料品ブランドとは呼べない。

今年だけの期間限定販売ならそれでも良いかもしれないが、これから何年間も一定の売上高を稼いでいこうと考えるなら、単品ブランドでも型数や色柄のバリエーションはある程度は必要になる。

それが商品計画というものである。

それでもド素人がそれなりの品質、見た目の商品を単品とはいえ、簡単に作れて、独自のブランド名を付けることができる現在の環境下で、これまでのブランドはさらにその独自性とか立ち位置が問われるのではないかと感じる。

品質においても、デザインや見た目のシルエットに関してもド素人の思い付き商品と変わらない。

価格はもちろん、現在のブランド品のほうが高い。
商品自体はあまり変わらないのに値段が高いのはなぜか?
理由は当然さまざまあるだろう。販促・広告費が含まれているとか、アフターサービスが良いとか、著名なデザイナーと契約しているとか。

そういうことが明確に説明できないブランドは、今後ますます、ポッと出のリーズナブルなブランドに負けてしまうだろう。

ナインオクロックは3500円であるし、流れたジーンズは個人で販売するなら6000円くらい(卸売りビジネスなら店頭販売価格はもっと高くなる)での販売が可能だっただろう。

同じような国産生地・国内縫製で1万円とか2万円する商品はどう違うのだろう?
消費者の多くがそう考えだしても不思議ではない。

そこに説得力がないブランドはこれからますます淘汰されてしまうのではないか。
アパレル特有のノリとか雰囲気とかムードとかで「ブランド」を名乗って高価格商品を打ち出すというやり方は今後ますます厳しくなるのではないか。



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