セブン&アイホールディングスの鈴木敏文会長の退任を巡るお家騒動はさまざまな見方で報道されており、事実関係はほぼ表面に出尽くしたのではないかと思う。

各社の報道も鈴木派と反鈴木派にわかれるように見える。
筆者は直接の面識がなくて思い入れも親近感も一切ないので、一連の報道に対しては「へー」という感想しかないが、記事の切り口としては、日経ビジネスオンラインに掲載されていた

セブン会長、引退会見で見せたお家騒動の恥部
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/040700304/

がもっとも適切ではないかと見ている。

鈴木氏が開いた会見を報じているが、記者の分析をナレーション替わりとしながら、発言が進んでいくという手法を採っており、この分析に共感を覚える。

例えば、

井阪氏をセブンイレブンの社長に登用したのは鈴木会長だ。当時の狙いを説明した後、鈴木会長は井阪氏への不満を執拗に訴え続けていく。

とか

顧問の佐藤氏、後藤氏は、確かに古くからセブン&アイと深い関係があり、鈴木会長や伊藤名誉会長とも親しい間柄だ。しかし、鈴木会長から紹介されて最初にマイクを握った後藤顧問の語った話は、日本を代表する企業の実態とは思えないようなお粗末な中身だった。「伊藤名誉会長と鈴木会長のお部屋を行ったり来たりする役割」「井阪社長のお父様と昵懇の仲」など、理よりも情実や縁故が物を言うような、極めて属人的に経営の意思決定がなされてきた様子が浮かび上がった

とか

だがそもそも、こうした顧問らを間に挟まず、伊藤名誉会長と鈴木会長が直接話し合えばよかったのではないか。またこれまでの説明は伊藤名誉会長にとっても、井阪社長にとっても、ある種の“欠席裁判”とも言える。まっとうな企業としての普通の解決方法があるのではないかという問いに、鈴木会長はこう答えた。

という部分はまさにその通りだと思う。
各報道を読み比べても発言内容は同じなので、発言は記事の通りだったと推測されるが、もし、筆者がこの会見に出席していてもナレーションと同じ感想を抱いたと思う。

伊藤名誉会長と井阪社長を除いた鈴木氏とその側近のみの会見というのはやはり異様だ。
もう老境に足を踏み入れた人たちが取る行動とは思えない幼稚さを感じる。

これに続いて、5月9日号の日経ビジネスでは

「ヨーカ堂100億円在庫買い取り要請が挫折」という記事が掲載されている。
これについては畏友である釼英雄さんもブログで述べられており、

http://blog.goo.ne.jp/souhaits225/e/058ed3639848f7edf400b8ffc318d107

にわかには信じがたいが、もし事実だとするならイトーヨーカドーはどんな杜撰な企画・販売・営業戦略を立てていたのかということになり、それを黙認した鈴木氏の責任は重いということになる。

記事によるとこれほどまでの過剰在庫を生んだのは衣料品だとしている。
例えば、11ページでは「前期は139億円の営業赤字で、衣料品の大幅値下げなどによる在庫処分が105億円の利益の押し下げ要因となった。さらに、前期に処分しきれなかった在庫を今期も引き継いでいるため、その値引き販売などで今期も在庫処分損失として44億円を見込んでいる。それが、伊藤名誉会長に買い取りを依頼した不良在庫の一部だと見られる」と指摘している。

また12ページでは「過去数十年間で衣料品の売上高はほぼ半減したのに、売り場面積はあまり減っていない。その結果、衣料品の在庫回転期間は適性水準の約2倍の90日以上になってしまっている」とも指摘しており、さらに機会ロスを異様に恐れるあまり「リミテッドエディションIYコラボ」のワイシャツを60万枚以上作って大量に売れ残りを発生させたとも指摘している。

セブン&アイホールディングスを今の形にし、セブンイレブンというコンビニを業界トップに押し上げた鈴木氏のこれまでの実績は決して否定されるものではないし、過去の手腕が賞賛されることに関しては異論はない。
しかし、こと衣料品に関していえば、大型スーパーの限界が露出したともいえるし、鈴木氏の手腕では通用しなかったともいえる。

「鈴木会長はヨーカ堂を再生できなかった」という見出しでグラフが掲載されているが、鈴木氏が社長に就任した92年に売上高はグンと伸びて1兆5000億円を突破している。しかし、営業利益はその92年をピークにこの24年間下がり続けている。売上高も10年ほど前から1兆5000億円を下回るようになっている。

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93年に営業利益率が低下し始めているのは、トップとしての鈴木氏の責任だけではないだろう。
その前年のトップの責任も大いにある。
常識的に考えて95年ごろまではその前任トップの責任も大いにある。
あらゆる施策はだいたい3年~5年後に良くも悪くも結果が出るからだ。
長く見積もると97年か98年ごろまでは前任の伊藤社長の責任はある程度大きいといえるが、2000年以降の業績低下は確実にトップである鈴木氏の責任である。
トップとしての施策が誤っていたからである。

鈴木敏文という天才——セブンイレブンのすべてをつくり、追われた男
その「才能」と「限界」を語り尽くす特別座談会
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48647

という記事が掲載された。
これは親鈴木派記者の座談会みたいなものだと読めるのだが、その中でもとくに勝美明氏はシンパともいえる。
彼によると「鈴木氏は未来の視点から今を見ていた」そうだが、その未来の視点では衣料品については皆目見えなかったといえる。もしくはまったく現実離れした景色を見ていたか、視点が別方向に流れていたか、幻覚でも見えていたのだろうか。
それにいくら天才といえども老いれば絶対に衰えるのである。それは鈴木氏も逃れられない。
過剰に神格化するのは害悪である。

かくいう筆者も何度か鈴木氏のテレビ出演を見たり、いくらか著作を読んだりしたが、その発言のほとんどは食品に集中している。弁当がどうのとか漬物がどうのという内容ばかりであり、個人的には彼の目利きは食品に対してのみ発揮されたのだと見ている。

日経ビジネスに戻ると、「機会ロスをなくせば必ず売り上げは伸びる」という一節が再三再四登場する。
これこそが鈴木氏の思想だったと思えるのだが、その考え方では衣料品は過剰在庫が増える一方である。
だからヨーカ堂は復活できなかったのである。

元来、大型スーパーの低価格衣料品は実用衣料だが、現在の日本において「明日着用する実用衣料がなくて困っている」という人がどれほどいるのか。またいたとしても肌着、靴下程度ならコンビニでも売っている。何も大型スーパーに駆け込む必要がない。

それゆえ、大型スーパーも低価格衣料品専門店もある程度「ファッション」的な味付けをした売り方を模索せざるを得ない。ファッション的な売り方は嗜好品の部分を増やすということであり、万人が受け入れる嗜好品なんていうのはほとんどない。嗜好品なので好き嫌いがはっきりする。
そうすると全サイズ、全色柄をビッシリそろえると必ず売れ残りが大量に発生する。

ユニクロで奇抜な色柄のアイテムが大量に残って投げ売りされているのを見れば理解できるだろう。

売れなさそうな色柄・デザインの商品は生産数量をグっと絞って堂々と欠品させれば良いのである。
それこそが「ファッション的需要」を喚起する一つの要因となるからである。

「機会ロスをなくせば必ず売り上げは伸びる」という鈴木イズムに縛られている限りにおいては、イトーヨーカドーも他社大型スーパーも衣料品に関して業績が好転することはあり得ないだろう。
日経ビジネスは、ヨーカ堂は食品を柱とした営業力強化を柱として再建案を発表していると結んでいるが、妥当な再建案だといえる。