高級素材はけっこう手入れがめんどくさい物が多い。

例えばシルク。変色するし虫にも食われるし、通常の家庭洗濯も気を使う。摩擦にも弱い。
気軽に庶民が着られるような素材ではない。
ユニクロが3900円価格を中心に大々的にシルクを打ち出したことがあったがその後継続していない。
メンテナンスに手間がかかる素材は庶民には売れなかったのだろうと推測できる。

例えば細番手ウールを使った高級スーツ地。
これで作ったスーツは20万円とか30万円という高価格で販売されるが、こういうスーツは1日着用したら次の1日は着用しないで休ませないと傷む。
以前、某大手コンバーターの課長さんが「若いころに奮発して20万円のスーツを買ったんだけど、2日間連続で着用したら袖口が擦り切れてきてびっくりした。ああいうのは、お金持ちが何着も所有してて、毎日1着ずつローテーションで着まわすべきだね」と笑いながらおっしゃったことがある。

細番手ウールの高級スーツは連続着用には向かない。
反対にツープライススーツとか、西友の7000円スーツは5日間ぶっ通しで着用してもヘタレない。
耐久性ならこちらの方が上である。

以前だと西友のスーツの見た目は野暮ったかったが、今ではそれほどおかしな見た目ではない。

レザーにしてもやはり手入れが重要になる。
ノンメンテナンスで使用したいならクラリーノの方がずっと適している。
そういえば、先日、ランドセルの件でラジオに出演したのだが、その際、街頭インタビューに答えた人で、ランドセルの原料をレザーだと答えた人がいたが、ランドセルの原料の主流はクラリーノをはじめとする合皮である。
レザー使用のランドセルはほとんどない。

ある大先輩は、レザー業界に向けて「ランドセルに適した機能加工を施したレザーを開発せよ」と発破をかけられたことがあるそうだが、現状ではほとんどのランドセルは合皮である。

なぜなら、その方がメンテナンスが楽だからである。
子供たちは活動的だから傷みにくい素材の方が喜ばれる。また雨に降られて水に濡れたりすることも多いので、メンテナンスが必要なレザーよりメンテナンス不要の合皮の方が子供たちも扱いやすい。

最近の合皮は優秀だから、6年間毎日使用してもほとんど傷まない。
筆者の子供たちも6年間使用したがほとんど無傷である。それほどに耐久性に優れている。

綿や麻は素材の価格がピンキリである。
ただ、業界的には繊細な素材は高額で、頑丈な素材は安価である場合が多い。
繊細ということは洗濯・保管などのメンテナンスに気を使わねばならないということである。

こうして見ると、繊細な高級素材の良さを理解できるのは、富裕層に限定されるのではないかと思える。
保管方法も洗濯も凝れば凝るほど料金が発生する。
また人手が必要な場合もある。

庶民的感覚からすれば「ン万円もしたのにもうヘタレてきた」という不満になるし、「あんなに高かったのにこんなにメンテナンスがめんどくさい」という不満にもなりやすい。
低所得者が「繊細な高額素材の良さ」を真に理解できるのであればユニクロのシルクアイテムは今も継続しているのではないか。

筆者は今も低所得者だが、もしすごい金持ちになったとしても20万円のスーツを買うことはない。
なぜならメンテナンスがめんどくさいからだ。
ちょっと贅沢をしてツープライススーツで28000円のを買うようになるかもしれないが。

こうして素材方向から見ると、いわゆるファッションというのは富裕層のものだといえる。
低所得者は元来、繊細な素材は生活シーンにおいて不要であり、それ故にそれを使ったファッションとも無縁である。

低所得者がファッションを享受できるようになったのは、低価格衣料品のおかげだろう。
日本での低価格衣料品はやはりダイエーなどの大型スーパーの存在が大きかったと思う。
高度経済成長からバブル期にかけて既製服の値段が下がったと言っても、専門店や百貨店ブランドの価格はまだまだ高かった。
それを引き下げたのは大型スーパーが低価格衣料品を発売したからだ。

今、「ファッション」「トレンド」では低価格ブランドも高額ブランドも同一線上にある。
低所得者も富裕層も同じデザインの商品を購入する。
それ故にわかりにくいし、筆者のような低所得者は「あのブランドは高いくせに長持ちしない」という不満や皮肉を発するようになる。
しかし、発生や用途から考えると同じデザインでも低価格ブランドと高額ブランドは異なる。
ターゲット層も異なる。

このあたりを整理して考えてみてはどうだろうか。
もしかしたら低価格ブランドに巻き込まれない売り方が見えてくるかもしれないし、衣料品不振に苦しむ大型スーパーはまた違ったアプローチができるかもしれない。



砂の王宮
楡 周平
集英社
2015-07-03